第6-5話 自然体の感想

 スピーカーからイントロが流れ始める。聞き覚えがあるぞ。なんだっけ。

 俺が知っているということは何かしらのタイアップ曲なんだろう。一世を風靡した歌なら流石にすぐにわかるだろうし。曲名を見ておくべきだった。ちょうどその時、櫻尾の方を向いていて画面が見えていなかったからな。今からパッドで確認するのも憚られるしな。俺が半ば無理やり歌わせているんだ。目を移すのもどうかと思う。聞いていたら分かるかも知れない。

 それに今は櫻尾がどんな風に歌うのかが気になる。恥ずかしがって歌ってないだけみたいだし、別に音痴ではないんだろう。どれにちっぽけだけど、小さなプライドだってある。よくカラオケに来る俺のほうが点数が高いほうが嬉しい。というよりも低いとちょいと恥ずかしい。嫌な言い方になるけど、俺よりも低くなっててくれ。

 そんな淡い期待は一フレーズで砕け散ったんだがな。

 もう入りだしからすごかった。繊細な息遣いから入っていき、感情が乗った強弱、歌詞の言葉がただ耳に入ってくるんじゃなくて、しっかり心にも伝わってくる。そしてサビではそれまでのAメロで抑えていた感情が溢れ出てくるかのようだ。瞼を閉じればスっとその情景が浮かんでくる。そしてそのままラスサビまで聞き入ってしまった。いや、聞き惚れていたと言ったほうが正解だな。

 アウトロが終わると自然と拍手をしていた。よく海外の映画でスタンディングオベーションてのを見るがまさか本当にこうなるんだな。

「恥ずかしいですよ」

「何言ってるんだよ。恥ずかしがることなんかないぜこれ。めちゃくちゃうまいじゃんか」

 もうプライドがどうのこうのなんてのはこれっぽっちもない。俺にあるのは尊敬の眼差しだね。

「久々に歌いました。思っていたよりも楽しいんですね」

「そうだろそうだろ。歌うのって楽しいんだ」

 そうこうしていると画面が切り替わった。点数の発表だ。俺の点なんか悠々とこえてきそう。

 ドラムロールと共に聞きなれないファンファーレが部屋に鳴り響いた。画面の中でクラッカーが何個もなっている。ケイといてもこんなのは初めてだ。ということはこの点は、

「99.9点!? こんなのはじめて見るぜ」

 むしろなぜここまで来て100点じゃないのかが気になる。

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筆圧で灰に 今舌こん @konnyaku2004

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