Witch×World

兎角 ゆず

第1話


道端を牛飼いが歩く。


数匹の牛とともに歩き、1匹の牛が荷車を引っ張り積荷を引く。

のんびりしている彼らだが、荷車を引く牛はいつもより重そうにのそのそと歩く。


なぜなら、それは必然な事で、少女が一人乗っているからだ。


「あー……いい空気ね。」


銀色の長い髪を風になびかせ、少女が語りかける。

牛飼いも少女の問いに答える。


「そうでしょー?この辺りはまだ改革が進んで無いですからねー。」


魔女の王達が住まう都市では魔女達が精霊の力を使い、新しい実験を行なってるとかで、空気があまり良くない。汚れているのだ。

都市から遠ざかれば遠ざかるほど、空気が澄んでくるという訳だ。


「なるほどね…。それでこんなに精霊がいるのね…。珍しいわ。」

「旅人さん……もしかして、魔女の目をお持ちかい?」

「えぇ。正真正銘の魔女よ。」

「魔女の目を持つ魔女も珍しいねぇ…。最近は魔女も目が悪くなったって噂になるくらいですからねぇ」


牛飼いが大声で笑うのを見て、少女も鼻で笑いこう返す。


「魔女の目を持った魔女っていい方も変だと思うわよ。…それに、魔女の目って特別な魔女しか持てないのよ。」

「へぇ、そうなんですかい。」


魔女の目。それは精霊が見える目のことを指す。

精霊と魔女は切っても切れない関係で、魔女の仕事には欠かせないパートナーでもある。

だが、殆どの魔女は精霊を見ることはできない。

精霊とは見る物ではなく、感じる物だと年老いた魔女は語るが、そうではない。

ただ、精霊を見える魔女は特別なだけで、魔女の目は特別扱いされている。


では、なぜ魔女達が目が悪くなった…なんて事を人間の噂になっているかと言うと、

それはただ、最近の若い魔女には精霊を感じることすらできないからだ。

魔女が精霊を感じることができないから、目が悪い。

老人が最近の若いもんわと口癖になるのと対して変わらないのだ。


「あら、何か見えてきたわね。あれかしら?」

「はい。あれがブレッドの街です。」

「ブレッドの街?ブレッドって…パンのこと?ステキな名前ね」

「その名の通り、パンが名物の街ですよ。パンに必要なのは、牛乳。ここら辺じゃ牛は牛乳つくらせるか、小麦畑の手伝いさせるかってね。」


ブレッドの街に近づくに連れて、パンを焼く香りが漂ってくる。

街の外、外壁の外でも賑わう街人の活気ある笑い声。

誰かが音楽を演奏する音。

ここは、いい街だと少女は笑顔で確信する。


「ほら着きましたよ。あの門番には愛想よく言ったほうがいいですぜ。なんせアイツは堅物だから」

「あら、そうなの?じゃあ運賃はこれくらいで足りるかしら?」

「はい毎度……って金貨!?旅人さん!!こりゃ多すぎますぜ!!」

「そう?この街に連れて来てくれたお礼と、街の情報量よ。これじゃあ足りなかったかしら?」

「とんでもねぇ!!ありがとうございます旅人さん!」

「もう旅人じゃないわ。」


銀色の髪がゆれる。少女は歯を見せ笑う。


「だって、この街に住むって決めたんだもん!」


少女の名はアンジェリカ。アンジェリカ・ウィンター。

魔女の目を持つ、特別な少女だった。


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Witch×World 兎角 ゆず @ebitama

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