第2話 1億円とヤクザと俺。
ここは東京・・新宿のどこか・・
東京タワーがビルの隙間から見えている。道路沿いにある、なびきのお気に入りの
場所は、電器店の前だ。
ここは比較的に人通りも多く、目に付く。ここにダンボールを広げて、いつもの
物乞いをする事にした。これは、なびきにとって貴重な収入元になる日課だ。
何も行動しなければ、今日食べる事も出来ない、それがホームレス暮らし。
世間の目など、気にしてられない。
「皆さん!僕は情けないですが、今日食べるお金がありません」
「どうか、孤児で家無し金無しの、日本一不幸な少年に少しばかりのお気持ちを」
なびきは道行く人々に事情をアピールして、同情を引こうとしていた。
通行人は、家族連れ、老人、若者達、それは様々である。
コソコソ・・通行人の声がかすかに聞こえてくる。
「今どき物乞いとか・・・」
「お母さん!あれって何してるの~?」
「駄目よ!・・見ちゃいけません」
「お若いのに・・・可愛そうに」
「え~・・やばっ!キモっ」
他人事なので、皆は言いたい放題だ。なびきに軽べつした目で見つめる者もいる。
当然、いくら厳しい生活の事情を説明されても、赤の他人に関わりたくないのが普通である。いちいち関わっていては、キリが無い。
なびきは、下を向いたまま沈黙した。世間の冷たさに。心が折れたかに見えたが、
決してその目は死んでいない。
逆に鋭い目つきになり、通行人達を静かな怒りの目で睨み付ける。
なびきは、心で怒りを呟いていた。
『ったく、どいつもこいつもバカにしやがって』
『さっさと、金置いてけよくそっ・・チッ』
なびきも、情けない自分にイラだっているのだ。
だが、こうも思っていた、恥をかくなら、とことんかいてやると。
彼なりに生き抜く為と割り切っていたのだ。
「おっおい、見ろよ!ヤクザの事務所から1億円が盗まれたって!」
電器店のショーウインドウに、展示されているモニターから流れてくるニュース。
その話題を立ち話している通行人の二人の男が居た。
「えっ!ヤクザの金取るって?相当ヤバイな」
二人の男は、流れてきたニュースの話で盛り上がる。
なびきも、通行人に影響されてニュースに聞き耳をたてる。
《繰り返しお伝えします、指定暴力団・松田会の事務所から現金1億円が無くなったと通報がありました・・・同時に孫娘の少女が現在行方不明になっているとの
事から、事件・事故の両面から警察は捜査しているとの事です》
《警察関係者は暴力団同士の抗争の可能性も視野に捜査を慎重に進めているとの
事です・・・続きまして・・》
「あん?・・一億円か~想像もつかねえよ、そんな大金」
「でも、家は楽に買えそうだけどな~欲しいぜ~・・」
なびきは、溜息まじりでブツブツと呟く。
この一帯のホームレス街はとても治安が悪く、近辺に無数の暴力団事務所も
存在する。
警察が目が届きにくい事を利用し、犯罪者達がこの一帯に集まり、様々な裏社会の取引も頻繁に行っている。
そして突然なびきの前に、黒スーツの強面の男の集団が近づいて来た。
ニュースを見ていた通行人の二人の男は、集団に圧倒されてその場を立ち去る
物々しい形相で、サングラスをかけた、サラサラのセンター分けのリーダーと
思われる男が、なびきの前に座り込む。(ヤンキー座り)
眉間にシワを寄せ、睨みを利かせている。
右手には、500円玉を一指し指と、親指で掴んでいた。
なびきの前には、物乞い様の缶詰の空き缶が置いてあるので、気まぐれで誰かが寄付金を入れてもらう用に置いてあるのだ。
突然現れた男は、その空き缶に持っていた500円硬貨を落とし入れた。
スゥッ・・・・カランカランッ!
「おお~っ!有難うございます!」
なびきは、素直に喜んだ、寄付金は滅多に無い貴重な生活費になるからだ。
しかし、思ってもない事が起こる。
ガシッ!グイっ!!
「ちっちょい!何するんですかっ!?」
なびきは驚いた、無理も無い、男が突然胸ぐらを掴み空中に体を浮かせられたの
だから。相手は大人の身長だ、なびきの体は簡単に持ち上げられた。
「おいっガキッ!お前はここにずっと居たのか?」
「大きなリュックを背負った中学生くらいの女の子を見なかったか?あん」
「おいっガキ!俺に嘘はつくなよ!俺は近くの事務所の松田組の者だ!」
なびきは、困惑した表情で小さく呟く
「・・やっヤクザ?」
突然現れた、松田組のヤクザ・・そして更に新たなトラブルに巻き込まれていく・・・
東京ストリートチルドレン にーさん @shinka5483
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