黄昏時の王女の決意②

そう冷徹な目で言い放つ。


「なんで?みたいな顔しないでよ。当然でしょ?護衛である貴方がその主たる私に忠誠を誓うのは当然のこと。即ち私が貴方に対して要求したことは全うするのが当然じゃないかしら」


 全くその通りだが理解はできなかった。


「おっしゃる通りです。でもなぜ――――」

「貴方、私の要求を拒絶したじゃない」


 全く心当たりがなかった。ここへ来て彼女と面識してからものの数十分、ましては命令など受けるなd―――まさか―――――。


「私がこっちへ来て座りなさいと言ったのに貴方それを拒絶したじゃない」

「そ、それは従者たる私の立場を考慮しての発言でして・・・お気に障られていたのなら謝罪いたします」

「謝罪なんていらない。私は別に従者たる礼節をわきまえる人物なんか鼻から欲してない。私が求めてるのは私の言うことを全うしてくれる付き人、それを望んでるのよ。というか主である私の言うことを聞けない時点で礼節も何もないって話よ。根本的に間違っってるのよって話」


 それとこれとは別な気はしたが全く理にかなっていないわけではなかった。彼女は一度ため息をつくとしっしっと手を振り払う様に出ていけと言う合図を指示した。

 だがもうこれ以上、私はここで足踏みをしている余裕なんかなかった。静かに深く深呼吸をして意を決するように私は口を開く。


「それは困ります。もし私を拒絶しようものなら・・・今、ここでルシナ様、あなたを殺します」


 当の彼女は驚きを隠せていない様に目を丸くしながら私を見ていた。まあ当然の反応だろう。だがそれも一瞬のことで彼女はすでに冷静さを取り戻していた。


「いいわよ。やってみなさいよ」


 彼女は座っていた席から立ち上がり挑発的な不敵な笑みを浮かべていた。予想外の返答に今度はこちらも驚いてしまったが私はそれを一切表情には出さないようにしていた。


「私は本気です」

「そんなの貴方の眼を見ればわかるわ」

「最後のお願い・・・いや、です。私をあなたの護衛としてお雇いくださいませ」

「い・や・よ」


 彼女はかたくなに拒絶の意志を見せ続けた。数秒間冷たく重苦しい空気が流れる。

 するとどうしてか彼女は何かひらめいたように手をパチンとたたいた。


「私を殺したら、私の従者に雇ってあげてもいいわ。さっき覚悟を見せるって言ったでしょ?それが今。さあ、存分に殺しにかかってきなさい!」


 彼女の発言一つ一つに見当がつかなかった。

堂々とした面持ちでそう告げる彼女の表情がどことなしか期待が満ちてるようにも見えた。

 私は腰に装備しているサイドポケットから短剣を取り出し彼女に向ける。


「ルシナ様を殺しにかかれば覚悟表明され私が認めらる…ということでよろしいんですね?」

「ええ。そうよ」

「ですがそれでは元も子もありません。主であるルシナ様を殺しては」

「思い上がらないで。貴方は私を全力で殺しにかかるそれだけでいいわ。まあ、私が殺されるかは別としてね」

「確実に殺せます」

「大した自信ね?まあ、いいわ。万が一私が殺されたら今の私の地位、名声、財をすべてあなたにあげる」

「強がりはほどほどにしてください」


 私は握っている短剣により一層力を籠め睨みつけた。

 彼女はまるで威嚇をあざ笑うかのように私を見据えている。その態度に少しイラッとはしたが私はその感情を押し殺した。いつも効率重視を心掛けている自分には要らない感情なのだ。だが今回はどうにも正解が見いだせていなかった。冷静に頭回っっているはずなのになぜか常に彼女のペース。立場の違いからなのかもしれないがそれとはまた別のものを感じる。今ここで私が下す判断が正しいかどうかはまったくわからない。かといって行動に移さなければ何も始まらない。だから決めた。


 すう―――っと大きく息を吐き私は彼女の顔を見つめていた視線を胸部――心臓部へと移した。

 そして物静かに私はそっと足を前に出した。



******



 手に持っている短剣が真っ赤に染まったのは一瞬だった。

 胸部から惜しみなく滴り落ちる血は致死量に至るのには十分だった。私は心臓に刺したことを手の感触で確認しながら紅に染まっている自分の手を見た。

 それから彼女の顔をそっと見る。まだ意識はあるらしいが目はうつろだった。


「何よその技・・・。まったく、、、みえ、、なかっ、、、たじゃない」


 彼女はその場にぐたりと倒れこみ自分の手で胸部を抑えながらとぎれとぎれに私に喋りかける。

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黄昏の決意は戦慄を歩く。〜弱小国家からの異世界下克上〜 関つくね @nisigaki

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