黄昏時の王女の決意①
「こちらになります。」
大きな白い扉を前に誘導するように手を示すとても穏やかで背の高いガタイのいい白髪の目立つ老人の執事。私はその案内に従い扉の前に立った。城内は扉同様、白を基調とした作りになっていて全体的に清潔に保たれており清掃がいきわたっているのだろうなと客人ながら余計なことを思ってしまう。いや、むしろこんな状況だからこそ余計なことを考えてしまうのかもしれない。
「ご案内、誠に感謝致します。」
「いえいえ。あなたのような可愛らしいお嬢さんが訪問してくださることなんて初めてなものでしてね。とても物珍しく思ってしまってね」
「そう、なんですか」
私はその返答にどう返していいかもわからず曖昧な相槌をうった。
「ええ。それでは私目はこれで失礼します。それでは」
しわ一つないタキシードをビシッと着こなした執事は私に朗らかな笑みを向けてそう言い放つとこの場を後にしていった。私はそれに対し小さくお辞儀をして対応した。
静寂に包まれた城内は妙な緊張感を漂わせ、どこまでも神秘的な雰囲気を纏っている。そして私は自分の胸をそっと手で撫で下ろし小さく深呼吸をしてから前にたたずむ扉へと手をかけた。
「失礼します。王都:中央ギルドより紹介にあずかりました。《リーシア》と申します。護衛の件を伺いたく参りました」
扉をコンコンと叩くのと同時に少しばかり声を張り上げ扉の向こうにいると思わしき人物へと訴えた。
「入れ」
向こう側から短くはあるが了承の異を示す言葉が返ってきた。私はそれに従い取っ手に手をかけ扉を開けた。
「失礼します。」
部屋へ入った瞬間に私はしゃがんで膝をつき頭を下げ従順の意を示した。
「えっ?!女の子?!?!」
とっさに聞こえてきたその甲高くも甘く優しげな声の
「・・・こほん。まあ、まずは面を上げなさい。」
その言葉を合図に先ほどまで伏せていた頭を上げた。するとそこには先ほどの城内とは違い部屋全体が淡い薄ピンク色を基調に統一されてた空間が目の前に広がった。部屋の内装としては二階造りになっていて螺旋階段から続いている上の階が目に入るとそこには巨大な本棚がづラリと並んでおり、そこには分厚い本がびっしりと整理されていた。
今現在居る一階はとてもシンプルな内装で置物もとても淡白なものだった。一人用の高級そうな椅子に合わせたサイドテーブルにいろいろな種類の食器が整理整頓されている棚。レースに包まれた一人用としては大きすぎるベット。そして堂々と存在感をなす石で造られたような長テーブルにそこにずらりと並ぶ椅子。極めつけは天井にあっけらかんと輝きを放つ巨大なシャンデリア。この部屋に存在しているどれをとっても高貴さがあふれ出るものばかりでお城とはこういうものだといわれたら納得してしまうほどに。
「貴方がリーシアね?」
「はい。いかにも」
「女の子だなんてびっくりだわ!ほらほらそんなとこに伏せてないでこっちきて座んなさいよ」
声の方向へ顔を向けるとそこには長テーブルの中心の椅子に座っている一人の少女の姿があった。その艶やかで淡い栗色とも取れるような金髪をハーフアップにまとめ上げられていて、そして凛としたその目鼻立ちは彼女の純粋さを表しているようだった。
「いえ。私はこの場で十分ですので」
慎むように彼女にそう告げかたくなな態度をとった。それを見かねたのか先ほどまで行儀よく持っていた右手のティーカップを皿の上にカチャンっと勢いよく置き肘をつき始め何やら挑発的な口調で話し始めた。
「ねえ、リーシア。あなたここに何しに来たの?」
「中央ギルドより紹介されルシナ様の護衛を承りに来ました」
そう。私はこの城の
「220・・・この数字の意味わかる?」
「にひゃくにじゅう、、、ですか」
今度は意味ありげなトーンで問いかけてきた。当然理解できるわけなくその場で立ち尽くすほかなかった。
「10秒以内に答えてみなさい?じゅーーーーう・きゅーーーう・はーーー」
「すみません。私には存じかねます」
「あきらめるの早くないかしら?いいから何か言ってみなさいよ」
退屈そうに肘をつきながらツーンとした表情で言い放つ。ここで彼女の意に背く理由もなくメリットもなかったので私はその場で思いついた限りの答えを彼女にぶつけた。
「交際人数でしょうか?」
「・・・へ?」
「いや、ですので――ルシナお嬢様の今までに交際されてきた人数なのかと思いまして・・・。」
「ぷっ。あはははははははははははははは!」
素直に思ったこと告げただけなのだがなぜか大いに笑われてしまった。私は何かおかしなことを言ったのだろうか。
「はあ。はあ。笑い死ぬところだったじゃない」
「も、申し訳ございません」
なぜ謝ることになったのかはさっぱりだがここはこの判断で正しいとは思う。
「そんな人がいたら紹介してほしいものね。交際人数が220人いるなんてとんだ色女だわ」
「ち、違いましたか?」
「違うに決まってるじゃない」
きっぱりと断りを入れられた。王女くらいの地位のお方ならあり得るのではと思ったのだがどうやら見当はずれだったらしい。
彼女は一度置いたティーカップをもう一度手に取り非常に上品な手つきで口まで運んでから一泊おいて話し始めた。
「あなたのように私の護衛になりたいですって訪ねてきた者の数よ」
彼女は淡々とそう告げる。だが私がここへ来るときに聞いていたのは護衛が見つからずずっと募集しているとのことだった。なぜ220人も志願者がいたにもかかわらず一人も雇われていないのか・・・当然220もの数があるものなら一人や二人かなりの手練れはいるはず。
「まあ。気づいているでしょうけど希望してここへきた220人は全員拒否したわ。なぜだがわかる?」
「い、いえ。」
「教えてほしい?」
「もちろんです。私もルシナ様の護衛を目的としてここに参りました。ですのでその理由を聞かずにはいられません」
はっきりと彼女にそう告げた。部屋には沈黙と静寂が流れ彼女とのこの距離感が妙な居心地の悪さを感じさせた。だが私はしっかりと聞く耳を立て椅子に座っている彼女の瞳をじっと見る。
「みんな、覚悟がないからよ」
「か、覚悟?」
「ええ、そう。覚悟」
「私はございます」
「じゃあ、その覚悟はどうやって証明できるの?」
「ルシナ様が方法を提示してくださいますならいくらでも致します」
すると今度は両肘をつき私の顔をじっと見つめなおしてきた。
「ならもうあなたは失格よ」
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