第89話異世界への道
「佐藤様、長年子供達を護って下さって、本当に有り難うございます」
「御前はあの時の妖狐か」
「はい」
「ママァァァァ」
「ママ、御久しゅうございます」
全く不意に。
唐突としか表現できないタイミングで、桃と緑の母親が現れた。
俺達三人が、ビルで遊んでいる絶妙のタイミングだった。
いや、俺達だけの時間を選んで来たのだろう。
「母国のゴタゴタも収まり、桃と緑を迎えても大丈夫な状態になりました。
全ては佐藤様の御陰でございます。
御礼の言葉もありません」
「いや、俺の方こそ、桃と緑には世話になっているのだ。
桃と緑の御陰で、この世界で一番の金持ちになれた。
いや、世界で一番の権力者になれたんだ」
「そうですか。
それはようございました。
それでは、直ぐに桃と緑を連れ帰りたいのですが、宜しいですか」
「本当、ママ」
「一緒に暮らせるの、ママ」
さて、ここで嫌と言っても始まらないな。
欲を言えば、これからも桃と緑の力を借りた気持ちはある。
だが、母親が生きて迎えに来てくれたんだ。
邪魔をするわけにはいかないだろう。
「ええ、桃と緑に異存がなければ、直ぐにでも連れて帰ってあげて下さい」
「えぇぇぇ、パパも一緒に来てよぅぅ」
「パパと一緒に帰る訳にはいかないのですか、ママ」
「……」
母親は黙っているが、流石にそれは難しいだろう。
漫画や小説じゃあるまいし、何の力もない人間が、異世界に行って生きていける訳がないのだ。
桃と緑の力を見れば、人間等虫けら以下だ。
妖狐達に人間を害する気がなくても、普通に振舞っているだけで、人間を踏み潰しかねないだろう。
「いや、それは無理だよ。
桃、緑」
「なんでよぉぉぉ、パパ」
「何故なんですか、パパ」
「人間と妖狐では、能力が違い過ぎるんだよ。
俺が向こうに行けば、何気ない妖狐の行動だけで、潰されて死んでしまうかもしれないんだよ」
「ママァァァァ、本当なの」
「本当なのですか、ママ」
桃と緑が、それこそ詰め寄るように、母親に質問している。
その姿に、今日までの生活が報われた気がする。
いや、恩を受けたのは俺ばかりだ。
確かに保護はした。
だがそれ以上の、とんでもない利益を得ている。
「いえ、それは大丈夫です。
大規模な儀式魔法は必要ですが、世界渡りをすれば、人間も強大な魔力を手に入れることが出来ます」
「やったぁぁぁぁ」
「パパ、一緒に行っても大丈夫です」
困った。
桃と緑と離れ難い気持ちはある。
嘘偽りなく、別れがつらい。
胸が引き裂かれるほど辛い。
だが、まだこの世界でやらなければならないことがある。
「ごめんよ。
まだこの世界でやらなければいけないことがあるんだよ」
「えぇぇぇぇ」
「パパ、一緒に来て下さい」
「ごめん。
本当に、今から危険で重大な仕事があるんだよ」
「では佐藤様、こうしませんか」
「なんですか」
「一度我々の世界に行って、直ぐにこの世界に戻って来られてはいかがですか」
「どう言う意味ですか」
「一度向こうに行って戻られたら、佐藤様自身が大魔法を使えるようになります。
その力を使って、この世界でやり残したことを達成され、その後で我々の世界に来ると言うのはいかがです」
「そんな事が出来るのですか」
「はい」
「では、それで御願いします」
土魔法で富国強兵? 克全 @dokatu
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