エピローグ

「あのね」



 ミホは軽い口調で真実を口にした。



「自己管理、できてないの? その年で」



 そういうミホは七十代に見えない。私の倍は若く見える。


 聞いてみたら、薬膳料理に凝っているという。


 道楽かと思っていたら、本格的にお教室に通っているらしい。



 金持ちは違うね。



「私も結婚しとけば、よかったなあ」


「さんざんいじめられてきた姑を介護するのって耐えられる?」


「遺産が入ったんじゃないの? それでチャラでしょ」


「そりゃ、旦那にはね。私は無償でご奉仕したの」



 ミホは長かった髪をばっさり切って、パーマをあてていた。



「確実に痩せられるダイエットってないかしら」


「年よりが痩せたって国は豊かにならないわ」


「数値が水準、こえたんだもの」


「マラソン選手が体重落とすのにつかうメニューなら知っているけれど」


「それでいい! それにする。教えて!」


「自分、責任もてないからヤだ」


「教えてくれなくちゃ、死んじゃう」


「死ぬよりキツイメニューなんだから」


「それでも!」


「本望だっていうのね」



 美春こと私は、効果的なダイエットメニューを手に入れた。







 メニュー三日目、体重はかなり減ったが、ものづくりへの注意力が散漫になってしまい、気力がわかなくなっていた。



「おなかへった……気晴らしに、ドライブへ行こう」






「こうなると思った。で、運転するのはだれ?」


「車持ってないし」


「レンタカーとか」


「無免許だし」


「もういい」


「体質が変われば、サビついた体も少しは張りを取り戻すと思うの」


「その前に、栄養失調になっても知らないから」


「私、キレイな姿で死にたいの」


「七十すぎて、それはぜーたくというものよ」


「せめてお肌キレイにしたい。やせたら、きっと若返ると思うの」


「勝手にしてよ」




 鏡を、見る。


 ダイエットで減量は成功した。


 しかし、冬場のことだ。



 肌トラブルは避けられなかった。




「私、老けた……?」




 年よりの冷や水、という言葉が、浮かんでは消えていった。







 END








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スタートライン~70歳だけど、今に見ておれ~ 水木レナ @rena-rena

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