パンダになりたかった白熊
田中紀峰
1話完結
「俺も君のような人気者になりたいなあ。一年中エアコンの効いた部屋で寝っ転がってるだけで、たくさんの人たちが君を見るために訪れる」と、白熊は言った。
「君も僕のようになりたいのかい」と、パンダはたずねた。
「ああ。なりたいねえ。」
「君だってパンダになれるさ。どうすればパンダになれるか知りたいかい。」
「俺も君のように、白と黒のブチになれるのかい。」
「うん。しかし、君がその苦行に耐えられるかなあ。」
「それって苦しいのか。痛いのか。手術するのか。」
「違うよ。実は僕も昔は北極に住んでいて、君と同じように最初は全身真っ白な毛だったんだ。だけどエスキモーにつかまって、ロシア人に売られて、ロシア人は中国人に売って、そうして中国の山奥の秘密の牧場で、毎日毎日、竹ばかり食べさせられたんだ。そうするとたいていの熊はおなかを壊したり、栄養失調になって死んでしまうんだけど、百頭に一頭、僕のように、黒の斑ができる熊ができる。そうすると何億円という値段が付いて、外国の動物園に売られて、そこで一生安楽に暮らせるというわけなんだ。」
「へえ。そうだったんだ。君ってエリート中のエリートなんだなあ。」
「いや、たまたま運が良かったのさ。竹と相性が良い体に生まれついただけさ。」
パンダにだまされた白熊はそれから竹しか食べないことにした。
白熊は日に日にやつれていった。それでも白熊はパンダになりたい一心で、竹を食べ続けた。
「ねえパンダ君。俺はもうダメかもしれない。毛があちこち抜けて、はげてきた。」
「もう少しだよ、頑張れ。その抜けたあとに黒い毛が生えてくるんだ。」
「そうか。よしもう少しの辛抱だ。」
飼育員のおじさんは白熊のことを心配していた。白熊はぐったりとしていた。
「どうして君は最近竹しか食べないんだい。そんなに竹が好きなのかい。」
「こんな固くてまずいものはないな。」
「じゃあなぜ。このままじゃ君は死んでしまうよ。もっと栄養のあるものも食べないと。」
ある日奇跡が起きた。
白熊は白と金のブチのパンダになっていたのだ。
白熊はパンダに礼を言った。
「君のおかげで俺は金色のパンダになることができた。きっと俺は君たちのような普通の白黒パンダよりも人気者になれるだろう。」
驚いたのはパンダだ。
「どうやったら金色パンダになれたんだい。」
「いやあ。別に。」金色パンダは口ごもった。
「君、ほんとに竹しか食べなかったのかい。」
「実はおなかがすいて仕方なかったので、竹以外のものも食べたんだ。」
「何を食べたんだい。」
「飼育員のおじさんにこの金のリンゴをもらって食べたんだ。」
「僕にも一つそのリンゴをくれないか。」
「ああ、いいとも。」
しかしそのリンゴは白熊が自分で作った毒リンゴだった。パンダは毒にあたって死んでしまった。
白熊は飼育員のおじさんの話を聞いて、パンダが自分をだましていることに気づいた。そこでわざと毛を金色に塗って、パンダに仕返しをしたのだった。
パンダになりたかった白熊 田中紀峰 @tanaka0903
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