こっから本編ス。
00-1.プロローグ 人知れず歩み寄る脅威的な奴
男には、負ける事が出来ない戦いが有る。
恋のライバルとの決戦。
ヒーロー物の最終話。
恋愛映画の告白シーン。
人それぞれに、絶対負けてはいけない戦いがあるのではないか、と、私は思う。
「番号札1番の方~!」
「あ、俺っスー」
東京都豊島区池袋、某大型パチスロ店「極楽園」
30歳前後の上下赤いジャージで銀髪長髪の男、吸っていたタバコを手に持っている携帯灰皿へ放り、店員の元へ駆け寄る。
そう、この男は勝ったのだ、パチスロは当たりやすい台と当たりにくい台が有り、店への入場順番抽選の勝利こそが、今日一日の勝ちを決める。
既に数百人は並んでいるだろうパチスロ店、この男は1位、もはや勝利確実である。
男はスマートフォンを片手に、狙っているパチスロ台の前日の総当たり回数等を確認し、若干ニヤけ顔で入り口の前に立つ。
「開店です!走らないでどうぞ!」
店員がそう叫んだ瞬間、男は若干速足で店内へと足を進める。
だが、他の客が動かない。
店内は大きな音量で射幸心を煽る曲が流れている筈だが、流れていない、まるで時が止まったように。
「このタイミングっスか…いや、本当…マジかよ…」
ピリリ、ピリリ…
現代には合わない、ただの電子音の着信音が無音の世界に響く。
先ほどまで音楽を聴いて居ただろうイヤフォンのボタンを押す。
「はい烏丸」
「室長、未確認脅威人物です」
「嫌です、久々の一番なんです」
「関係ありません、今回の脅威値は室長で十分な2ですので」
「…どこよ」
「西口公園です」
プツン
イヤフォンから淡々とした女性の声が響く。
男は諦め半分に拒否するが、女性に押し切られ溜息交じりにパチスロ店を後にする。
「西口公園…10分ってとこかね」
誰も動いていないのを確認し、タバコを咥えて火をつける。
気だるそうに歩き目的地へ向かう中、道中に落ちている朽ち果てたビニール傘を手に取る。
「まぁ、2ならこれでいいか」
傘のビニールを剥ぎ、骨組を折り、一本の金属の鋭利な槍とした所で西口公園に到着する。
すると、人々が制止する中、とある宝石店から爆発音が響く。
「ウハハハハハ!こりゃいいや!大金持ちじゃん俺ぇ!」
宝石店からはごっそりと高価なアクセサリーを手に満足げな若い男が小走りで現れる。
「ただの小悪党か、最近多いねぇ、こういうの…そこのクソガキ!止まれ!」
現れた若者に声を張って足を止めるよう促す、が、若者は止まらない。
「てめぇ!なんで動けるんだよ!止まるわけねぇだろバーカ!!!」
若者は若干驚いたように目を向けるが、少し距離があるのを良い事にこちらへ中指を立てて走り去ろうとする。
キュイイイイ…
銀髪の男はジャージの上着を脱ぐ。
すると、両腕の肩から先が機械で出来ており、両腕からは耳を突くようなモーター音が鳴り響く。
「あ、そう」
その瞬間、右腕が目に見えぬ速さで回転し、ピッチングマシンの要領で先ほど鋭利な槍とした傘を若者へ射出する。
射出された傘は若者の足を貫き、若者は転倒する。
「グッ…!ンンン…!イデェ…!アァァ…!」
「大人の言う事はちゃんと聞かなきゃね、君」
右腕から冷却の為の蒸気をフシュッ、フシュッ、と放ちながら痛みで暴れる若者へ歩み寄る。
若者の頭上に立つと、鋼鉄の右腕で若者の頭を掴み持ち上げる。
慣れた手つきで若者の衣服を剥ぎ取ると首元に注射跡を見つける。
「また人工かー」
ピリリ、ピリリ
イヤフォンを用いて通信を始める、通信先は先ほどの女性だ。
「烏丸だ」
「室長、もう終わったんですか?」
「終わったけど、まただ、また人工だ。まーいいや、研究班呼んで研究班」
「わかりました、今エリを送ります」
「え、エリはやめてくんね…?」
「今、エリしかいないので」
プツン
通信が終わった瞬間、男の頭上から一人の女性が落ちてくる。
ズズンッ
あたかも鉄球が落ちて来たような音が響く。
目の前には薄いピンクのフリルが縫い付けられた甘ロリファッションを纏い、巨大なリュックを背負った小柄な少女、かなり高い所から降って来た事がわかる。
「やーやーカラス君!今日も今日とて実験体をありがとねー!」
「あ、ど、どうも…やっぱやるんスかね…?」
「もちろん!実験体に逃げられちゃ困るしねー!戻ってから復元すればOKOK!」
手には身長と同じ様な大きさの巨大な鋏を持ち、男に軽く会釈すると躊躇無く男が手に持っている若者の首を切り落とす。
「…キッツいわ」
若者から放たれる大量の血液を二人で浴びながら、男は溜息を吐き、少女は嬉しそうに遺体を背負う大きなリュックへと放り込む。
「そろそろ慣れなよカラス君!あ、今回の事件で被害を受けた場所は?」
「あー。そこの宝石店が強盗されてた」
「おっけー、おっけー、修復しとくね!」
女性が宝石店を指差すと、時が遡る様に宝石店が修復され、盗まれていた宝石もショーケースの中に再生されて行く。
「あのさ、エリちゃん。これさ、この力使えばいくらでも宝石生み出せるんじゃねーの?」
「カラス君、特殊化学をそう言う事に使っちゃダメだよ?」
「へい…」
「まー、地道に稼いで…カラス君の場合は宝くじでも当てるんだね!」
冗談半分に少女へ提案すると、にこにこ笑っていた少女は真顔になり男を叱るような目付きで告げる。
その後、少女がポケットから粉末を取り出し、床へ振りまくと若者の飛び散った血液が見る見るうちにコンクリートへ吸収されていく。
「じゃ、あと5分でまた時間動くから!早いとこ本部へ帰っておいで!その返り血じゃお巡りさんに怪しまれちゃうよー!」
少女は手をぱたぱたと振って見せた後、男が浴びた返り血を指差して笑いながら、靴に仕込まれた小型ジェットパックの噴射で空へ飛んでいく。
「…帰るか」
飛んで行く少女のスカートの中を眺めながら見送った後、男は大きな溜息を吐き、サンシャインビルへと足を進める。
池袋ガーディアン よしだ @YoshidaXX
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