第5話 ドラキュラさんは不器用

「有難う御座いました..」

やはりこれだな、薬屋の夜勤。

場所は違えど一番落ち着く

「皮肉だが、正しいぞ。」

改装中のドラッQとは別の店

ドラッグ館サンウィッT、バリバリのライバル会社だが気にするものか。


「ごめんねレジやらせちゃって、私は雑務でいいって思ったんだけど。そっちの方がラクなのにね?」

「いえ、大丈夫ですよ..。」

「そ?

無理しないでね、絶対。」

こちらには店長が点在し、尚且つ善人寧ろ好待遇だ。

「あっ..と。」「..大丈夫ですか?」

「うん、平気だよ。

昨日遅くまで起きててさぁ、薬の調合に手こずっちゃった。これじゃあ薬屋失格だね、でも頑張るよ?」

「...はい。」

この女の何処が魔女な事か。

調合を自ら行い、睡眠を削ってまで尽力する。いい女だ。

「成分合ってたかな?

蛇の眼と牛の心臓と..鼠の脾臓と...」

「……」

いや、やはり魔女だな。言い過ぎた。

お陰で専らここの薬は効くようだ。

「軟膏一本で太刀打ちできるか..?」

最早争う事は無い、少なくとも彼女は望んでいない。

「本当の美女とはこういう者だ、自撮りも上げず、映える事も気にせず..」

やはり貴方は魔女だ。

「私は魔法に掛かっている」

「ん、何か言った?」「い、いや..!」

青春よ、俺の胸に返ってこいっ!


「ちょっと裏で作業してくるね。

大変だけど、レジお願いね?」

「は、はいっ!」

お釣りしっかり渡せるかなぁ..!


『ウィーン』「いらっしゃいませ!」

「ふふっ、元気ね。」

夜勤だが太陽が見えるぞ!

「今回はいらん、総登場してのカッパ占めなど。」

私は久し振りのトキメキを感じている

邪魔する者も幸いいない、今日は世界が味方をしている!

「いらっしゃいませ。」

客よ品を出せ、存分に会計をしてやる

「あ、蓋が空いてる..」

そうか、ここは薬だけじゃなくちょっとした惣菜やらを買える余裕まであったのだな。いつもならこんかパックの開閉など無視するが...

「輪ゴム、付けておきますね。」

ふはははは、感謝するがいい!

お前に親切をひけらかしてやるぞ!

「..っと輪ゴム切らしてるな。

少々お待ちください?」

私とした事が、雑務を蔑ろにしていた

店長は確か..中の事務所か。


「すいません店長、輪ゴム切れてて」


「新しく来た人?

あ〜大丈夫大丈夫、暗くてホイホイ言う事聞く奴だから。今日もね、めんどくさいレジ押し付けたら簡単にやってくれたわ!役に立つわアイツ!」

「……。」

やはり、魔女だな..。

「どうせ数日の契約だからさ、馬車馬みたいにコキ使ってやるわよ!

いざとなったら十字架にニンニクよ!

うん、ホント!じゃね〜!」

満足か?

「……全っ然更新してないわ。

丁度いいや、さっきの呟こっ!」

おいおい。

『レジめんどくせぇからバイトの暗い男に頼んだら簡単にやってくれたww

やっぱ持つべきものは権力っしょ!』

 ご機嫌の様で何よりだ。

『カシャッ!』

自撮り? え、なんで自撮り?

ていうかそういう事するんだぁ..!


「随分と愉しげだな..」「はっ!」

「ドラキュラくん!」「どうも..。」

苦し紛れに気づかんフリか?

「いつからいたの」「……」

初めから眼中に無いか。

「話、聞いた?」

 「話..何の事ですかね。輪ゴムを取りに来ただけです」

「あ、そうなのね?

レジの方悪いけど引き続きお願いね」

「..大丈夫ですよ。

僕は簡単で役に立つらしいので」

「え..?」


太陽も世界も、やはり敵だ!

沈め、沈んで静かに眠り果てろ。


「お待たせ致しました..」

済まんな客人、私用で手間を取らせた

「有難う御座いました」

せめて安全にゆっくり帰れ。

「ふぅ..」

さっさと終わらせて聖書でも読もう。

「お願いします」「あ、はい..」

客がいたのか、気付かなかった。

「ポイントカードをお持ちですか?」

「カード..あ、待って下さい。

確かバックの中に...」

何故財布に入れないのだ、それ程乱れた生活を強いられているのか?

「あった!

..これ、お願いします。」

「失礼致します...ん?」「え..?」

顔をずっと見ていなかった。

カードを差し出す、その直前まで..

「久し振りだね..」「あ、あぁ。」

家に残されたトマトの冷製パスタのレシピ、あの時返しておけば良かった。


「ここに、移ったんだね..」

「今改装中で..」「あ、そうなんだ」

移ったのはお前の方だ。

「ポイント、貯めてるんだ..」

「うん、一応..ね?」

来るのは初めてじゃ無さそうだな。

「軟膏、買うんだ。」

「あぁこれ?

そう、何処も傷付いてないんだけどね偶に買っちゃうんだぁ。」

あの頃もよく買っていた、しかしあれは日差しでやられる私の為に..!


「あ、あの..!」

「わたし、行くね?

明日、凄く朝早いんだ。」

「冷製パスタ!

一人で作って食べてるから!」

「え..?」

「御飯ちゃんと食べてるからさ!」

「.....うん、またね..!」

「あ、有難う御座いましたぁっ!!」


これでいい。

「そうだ、これでいいんだ..。」

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ドラキュラさんのリクルート  アリエッティ @56513

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