第2話 幼少期Ⅱ
お父さんと一緒に帰宅しためいちゃんは、少し疲れたような顔をしてた。
しかし私を見たら、いつものようなやんちゃなめいちゃんに戻って
「遊ぼう!」と言って、三輪車を引っ張り出してきた。
「ねぇ、犬みかけなかったけど散歩?どこか遊びに行ってるの?」
「ううん、お父さんが連れてった。やけんもう帰ってこんよー」
「連れてったってどこに?」
「どこやったか忘れた!三輪車乗るけん後ろから押してー!」
子供ながらにモヤモヤとしたものを抱えたまま、それ以上聞き返す事も出来ず
めいちゃんの乗る三輪車を押して、私の乗る三輪車をめいちゃんが押して
と、そんな遊びを交互にしていたときだ。
めいちゃんの三輪車を押していた時、いきなり漕いでスピードをあげ
押していた背中から私の手が離れた。早すぎ!道に出てしまう危ないよ!!と追いかけ、走り続ける三輪車の後輪当たりに手をかけた。
その瞬間、いきなり左にぐいっと方向転換をし、その勢いで私の右手小指は車輪に巻き込まれ、骨が見える程に皮膚がめくれていた。
「……っう!」
「眠子ちゃん!?大丈夫!?」と駆け寄ってくるめいちゃん。
「痛いぃ指がっ」
「見せて!……お母さん呼んでくる!待ってて!」
意識が飛んでしまいそうな激痛の中、必死に、損傷した指を握った。
血がぼたぼたと、アルファルトに落ちていく…
「眠子ちゃん!!!!!!!!」
血相かえて飛び出してきためいちゃんのお母さんは、すぐさま私の傷を見て
それで更に血の気が引いていく。あの時のお母さんの顔は、未だ忘れてない。
「眠子!指怪我したって、どういうこと?何があったの!!見せて!指!早く!」
真っ青な顔をしながら息を切らせて、私の母が駆け寄ってきた。
多分めいちゃんが母を呼びに行ってくれたんだろう。
「血が…病院に連れて行ってきますから!話はその後聞かせてめいちゃん!」
がしっと抱えられながら家に戻り、応急処置で包帯を巻き、母は私を病院へ。
車の中で一生懸命経緯を説明しようと試みたが、痛みのほうが強くて話せなかった。
母は懸命に私を落ち着かせようとしてくれていた。心配してくれていた。
あの時、どんな気持ちでハンドルを握っていたか、そこは未だ聞けていない。
診察の結果、皮膚がめくれ骨に小さいヒビが入っていて、全治約一ヶ月の怪我。
固定とかなんとかで、かくしてしばらく右手を使えない生活をすることとなった。
その日の夜、めいちゃんのお父さんとお母さんが我が家に挨拶に来た。
そこで話をした所、めいちゃんはお父さんお母さんに
「眠子ちゃんが三輪車を真っ直ぐ押してくれず揺さぶってくるから上手く進めなくなって、グラグラしてて、そしたら…」と話していたそうだ。
今でも胸を張って言える。揺さぶってなどないと。
道に出ちゃうと危ないから止めようとしたんや!と言っても
耳も傾けられず、めいちゃんのお父さんお母さんは、めいちゃんを信じた。
「子供同士の遊びの最中の事ですしどうかこれで…」
「眠子ちゃんが荒くたいという話も聞いたことはありますし…」
「三輪車ではもう遊ばせないようにしますから…」とお菓子を渡されたと。
ご両親からのその言葉を受けて怒り心頭の母は、お菓子を受け取らず、しかし冷静に振舞い、帰ってもらったそうだ。
「めいちゃんとはもう遊んだらあかんで。めいちゃんとこにも行ったらあかん」
悲しそうにそう言ってくる母に、その時は、うん…と答えた。
いい子ちゃん 紗江 眠子 @kanokirisaki
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