45話目、エピローグ

「おいマール、しっかりしろ。大丈夫か?」

「ん……うん……?」


 地面に倒れていたマールが、ゆっくりと目を開く。


「ここは……? 天国か……?」

「まだ死んでないぞ。死にそうだったけどな」

「え……? はっ!」


 マールが勢いよく起き上がる。目が覚めたようだ。それにしてもエリクサーってすごいな。さっきまで死にかけていたマールが完全回復するとは。


「ムラト!? 無事だったのか!?」

「ああ、こいつのおかげでな」


 俺は砕けた命の指輪を見せる。死に至る一撃を防ぎ、HP1で生き残るレア装備だ。とくに装備したいアクセサリーがない時は、念のため常にこの指輪を装備していた。しかしまさか本当に助かることになるとはな。それにしてもHP1って本当に死にかけなんだな、俺自身も死んだかと思ったわ。


「それって……」


 マールも自分の指を見る。そこにも砕けた命の指輪があった。全員分の命の指輪を手に入れておいて本当によかった。マールがあんな無茶するとは思ってなかったし。


 アークとサキさんも目を覚ます。さっき使ったエリクサーが効果を発揮したようだ。


  俺たちが全員無事だったことに安堵していると、魔王城が揺れ始める。あっ! 魔王を倒したから、城が沈み始めているのか。


「城が沈むぞ! 逃げろ!」




 落ち着く間もなく魔王城から脱出した俺たちは、その後すぐに王都に戻り王に魔王を討伐したと報告した。


 どうやら王都でも、四天王のブラドを倒すことに成功したらしい。ギルガメッシュたちはその後さっさと帰ってしまったとの事だ。


 王城は彼らの戦いでぼろぼろで、魔王を討伐したことを祝うパーティーを行うことはしばらくできないらしい。その時に奴隷解放宣言も出すつもりだったのだが。


 とにかくこれでようやく俺も肩の荷が下りた。もうこの世界が滅ぶ心配はないだろう。




 俺はFQというゲームが好きだ。だから何度もプレイした。


 この世界はFQとは似て非なる世界だ。魔王に世界が滅ぼされると知っていて、それを無視してこの世界を楽しむことなんて今まではできなかった。


 これからは違う。もう魔王は倒したのだ。純粋にこの世界を楽しんでもいいはずだ。FQというゲームに似たこの不思議な世界を、隅々まで見て回りたい。まだ俺は、この世界の10分の1も見てないだろう。


 ついでに、元の世界に帰る方法でも探してみようか。もしかしたら、俺の知らない帰る手段がどこかにあるかもしれない。ここは俺の知っているFQとは少し違う。あってもおかしくはない。


 突然いなくなった俺の事を家族は心配しているだろうし、それなりに仲の良い友人もいたし。


 ただまあ、戻る方法を見つけたとして、俺は戻るだろうか? 確かに向こうには家族もいるが、こっちの世界にも仲間たちがいる。別れたくはない。自由に行き来できる方法とかを見つけられるとベストだが……。


 ま、そもそも帰る方法なんてないかもしれないのに、悩むだけ無駄か。万が一見つけたらその時悩めばいい。


 俺はマール、サキさん、アークにこれから俺は世界を見て周る旅をするつもりだけど、皆は今後どうしたいのか聞いた。すると、皆俺の旅についてくるつもりらしい。


 まさか全員ついてくるとは思わなかったな。まあ、旅は人数が多い方が楽しいか。


 こうして俺たちは、世界を救う旅ではなく、ただ楽しむための旅に出たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やりこみゲームの最弱村人、世界を救う セラ @sera777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ