第35話

夕暮れには街へと着いた。

しかし、山側には検問がない。城壁の門の方では身分証を確かめてるのに、山側には無しとかちょっとザルなんじゃなかろうか。


あの後、更に2回木に頭をぶつけた幼女は、ひどく怒ってはいるが、断固として俺の肩から降りなかった。

つうか剣に戻れとも言ったのだが、それだけは絶対に嫌だと駄々を捏ねる。幼女には戸籍がないのだから面倒だと思ったのだが、まあ、いざとなれば便利屋ランセルにお願いするとしよう。


店までたどり着くと、店内に誰かいる。またガヤガヤ騒いでいる、誰か来たのか。


「ったく、この世界は人の留守中になると誰か来る文化でもあるのか」


店の中に入って、来訪者を確認しようとすると、


ガシッ!ダン!


「ぐえっ」


ドアを潜ろうとすると、何かに引っかかり止まってしまった。

上を見ると、幼女がモノホンの暗殺者のような目で俺を見下ろし、ドアの上の壁に両手を当てて、足を首4の字のようにして俺を拘束している。


「お前……、わざとやってるなのよ?」

「ち、違う!ちょっと忘れてただけだ!」


こ、怖い!

これはマジギレだ。

流石に天罰が落ちるかもしれない。


「……次はないなのよ。いつでもあたちがここにいることを忘れるんじゃないなのよ」

「わ、わかった!とりあえずここがおれんちだから一回降りろ、来客があるみたいだから、な!?」


マジ恐ろしい幼女を肩から降ろし、俺と並んで店のドアをくぐる。


「あっ!店長!」

「閣下、お邪魔させて頂いてます」

「おお、ランセルか」


そこにはミリル、ランセル、ジュジュ、それと知らない爺さんが居た。


「閣下、そのお子は?」

「あー、詳しくは後でな。ミリル、こいつに何か甘いものを食わせてやってくれ」

「良いよ、はいっ」


ミリルは俺に右手を差し出してきた。俺は銀貨を乗せてやろうとすると、


「もちろんあたしの分もねっ」

「……」


ちゃっかりしてやがる。俺はミリルの手に銀貨10枚ほどを乗せてやる。


「店には戻らなくて良い、飲み食いしたら俺の家の方にこいつを連れてってくれ……」

「りょうか〜い、店長、この子の名前は?」

「あー、…………、ラー子だ……」

「ラーコちゃんね、わかった!行こっ、ラーコちゃん!」


幼女は俺の名付けに絶対文句を言ってくると思っていたが、何故か何も言わずにミリルと手を繋いで出て行った。だが、幼女はずっと爺さんを見ていた。


「で、今日はどうした?ランセル」


何げなく聞いたのだが、ランセルはあからさまに眉をしかめた。


「閣下、それはあんまりです。驚かないのですか?」


と、ランセルが言い切る前に、爺さんがランセルのまん前に出てきて、俺をまっすぐ見る。すると爺さんはゆっくりと腰をまげて俺に頭を下げた。


「久しいのマサト、いや、もう息子のフリは無用でしたな。お久しぶりです、マサトおぼっちゃま」

「……」

俺が「は?」と疑問符を打つ前に、爺さんは更に言葉を続ける。


「格好つけてお別れしたにもかかわらず、このセバスチャン、おめおめと生き残ってしまいました」

「っ!!!!」


来た!

マジで来やがった!!やっぱりか!

俺はギュンと俺のやや後ろにいるはずのハスキーを見る。するとハスキーは自らの身体を抱くようにして、プルプルと震えながら俯いている。

くそっ!使い物にならねえな!この駄犬が!


「お、おおお!生きていたかセバス!」

「はい、ぼっちゃま。ご心配をお掛けしまして申し訳ありません」


セバスチャンはゆっくりと頭をあげる。そして眼光鋭く俺とハスキーをチラ見し、片側の口角をニヤリとあげた。

ランセルも爺さんのとなりに出てきて、


「閣下、今日の朝に突然セバスがやってきまして。それで無事閣下がこのタリアにたどり着いたことを教えてやりましたところ、セバスからも30年前閣下をお救いしてから今までの話を聞きまして。いやぁ、やはり昔は閣下も赤子だったので仕方ありませんが、セバスから話を聞いた方が臨場感が違いますな。閣下も相当苦労されたようですね」

「お、おう……」


爺さんにチラリと目線を送ると、爺さんはニヤリと笑った。

こ、こいつ!

セバスとランセルが一緒に居るなら俺は窮地に立たされるはず。なのに……、わかってやがる!わかってて話を合わせてるのか!

何故だ!目的はなんだ!


「か、体は大丈夫なのか?セバス……」

「はい、おかげさまで、今ではピンピンしております。いやはや年は取りたくないものですな、たかだかカリュームの追っ手程度に不覚を取るとは……」


セバスは俺をギッと睨みつける。まるで「このワシがカリュームの雑兵程度に負けたなんぞとよくも言ってくれたな!」とでも言いたそうだ。

悪かった!悪かったよ!実在すると思わなかったんだよ!

しかしまずい。

爺さんの目的はわからないが、このメンツで一時でも一緒に居たくない。なんとかしてセバスだけつりあげるか、ランセルとジュジュを帰す方法はないだろうか。

俺が考えこんでいると、


「ありがとうございます、ぼっちゃま。このセバスが生きていたことをそんなに喜んで頂けるとは」

「お、おお……、本当に良かったよ」

「して、ぼっちゃま。指輪とラーの剣はとても大事なものでございます。大変申し訳ございませんが、お預けした指輪とラーの剣を見せてもらうことは出来ますかな?」

「お、おお……」


俺は指輪をはずしてセバスにわたし、剣を抜いてセバスに渡した。

セバスは指輪を繁々と眺め、剣を舐めるように確認すると、剣身の根元あたりで眉を寄せた。が、すぐに剣を返してきた。


「ぼっちゃま、はぼっちゃまのこれからに必要でございましょう、そのままお使い頂ければと思いますが、指輪はとても大事なものです。万が一お無くしになっても困ります。これは私の方で預からせて貰うのはいかがでしょうか?」


今度はセバスはハスキーをギロリと睨んだ。要は指輪は返せと。剣はもしかしたらラーのつるぎじゃないと見抜かれたかもしれない。


「もちろんだ。俺も心配だからな。セバスが持っていてくれた方が安心だよ」

「ははっ、ではそのように」


セバスは指輪をポケットにしまうと、


「ぼっちゃま、今日は夜も更けてございます。もしお許しが頂けれるのでしたら、私はランセルと昔話にでも華を咲かせたいと思います。明日お伺いさせていただきたいのですが、ぼっちゃまのご都合はいかがでしょうか?」

「っ、お、おう……、助かるよ。今日はアカデミアタイガーとやり合って疲れてるんだ」

「っ?、あぁ、アルカイックタイガーですか。それはまた大物ですな。流石ぼっちゃま、日々の鍛錬を怠ってないご様子。このセバス、安心しました。これならば死に直しても大丈夫ですかな」


またチラリとハスキーを見る。どうやら俺じゃなくハスキーが戦ったのも見抜いたようだ。ひょっとしたら変身したのも気づいたのか?


「……、い、いや、セバスには長生きしてもらいたい」

「お心遣いありがとうございます、わははははは」

「あは、あははははは……」


俺、こいつ苦手かもしれない……。

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ラーメンズ ビー アンビシャス!〜ラーメンよ、大志を抱け!〜 はがき @bird919

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