第34話
幼女の話を聞くと、約500年前のミキヤスと言う勇者はゴールデンブラッドだった。
当時、魔族と人間との熾烈な戦争により、人間は疲弊しきっていた。ミキヤスが来た時には人間は滅ぼされる寸前だった。
人間側として召喚されていた勇者は、5つのアーティファクトを集め、その力を使い魔族を絶滅寸前まで追いやった。
だが勇者ミキヤスはその当時の魔王と恋仲になり子供を作った。その子供が初代ミッドランド王家となる。言うなればミッドランド王国とは勇者と魔王の合作と言うことになる。
勇者は世界の調和を掲げて、戦争を終結させた。当時の人間の国々は納得はしてなかったが、勇者の力には争う事が出来ず、戦争を続ける事が出来なかった。
ハスキーは父の思いと勇者の思想が重なっていることに喜び、
「ならば、やはりミッドランドは魔族と人間とが仲良く平和に暮らすために作られたのだな」
「違うなのよ」
「え?」
俺も驚いた。今の話を聞いた限りではそうなると思うが。
「平和じゃないなのよ。世界の調和なのよ。魔族には人間を
「意味がわからねえ、それじゃ戦争は無くならねえじゃねえか」
「ミキヤスは世界の調和を望んだなのよ。世界のバランスを壊さない程度に、魔族と人間が永遠に争うことを望んだなのよ」
「……マジかよ……」
救いがねえ。
ならば永遠に小競り合いのみをしてろと。
その小競り合いで死んだ奴は、そういうものだと諦めろと。
なんだか物凄い傲慢に思える。
「お前、もちこの世界が人間だけになったらどうなると思うなのよ?」
「そりゃあ、争いのない平和な────」
「全滅なのよ」
「……なんでそうなる」
なら地球は全滅か?そんなことにはなってない。
「人間は高い知能があって、どんどん文明を発展させるなのよ。だけど人間は強欲なのよ。最後には育った文明で戦争しあって終わりなのよ。魔族だけになっても魔族特有の破壊ちょうどうが抑えられずに全滅するなのよ。たちょうの違いはあっても結果は同ぢ。お互いに憎む相手が必要なのよ」
「暴論すぎんだろ!実際俺の世界は人間だけでも滅んでねえよ!」
幼女は悲しい顔で遠い目をしている。
「でもぢっさい全滅ちてきたなのよ」
「見てきたように言うんじゃねえ!」
「……お前、この世界がなんて名前かちってるなのよ?」
「名前?」
異世界の名前?
「あー、たしかアーステン────」
「そう、これが10回目のアース、アーステンなのよ」
「……ば、ばかな……」
俺は目を見開いた。
「お、お前神だろ?!神ならそうなる前に止めろよ!」
幼女は小さく首を横に振る。
「あたちたちは、作られた神なのよ。契約ちゃがいないと力はだせないし、きんちぢこうに触れることは出来ないなのよ」
「作られた……?……、だ、誰に?」
幼女は、年齢に似合わない真剣な表情を作り、
「あたちたちを作ったのは、この世界の初まりの人間、今ではこう呼ばれている。……エルフなのよ」
「……っ!」
頭が真っ白になる。ハスキーの顔を見ても俺と同じだ。あまりの衝撃に頭が空っぽになる。
「最期に1つ、ミキヤスから伝言があるなのよ」
「俺に?」
「【僕は僕の思う通りにちた。何が正ちいかはわからない。だから君は君の思う通りにすれば良い】。あたちが次の黄金の血と出会ったら伝えてと頼まれてたことなのよ」
「……」
ここまでふざけた内容ばっかりだったのに、随分重い話をぶっこんできたもんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「んっ、んんっん、ん〜♪」
「おい、あんまり揺れるなよ」
「うるたいペテン、今日からここはあたちの椅子なのよ」
「椅子ってお前な……」
俺のシャツをハスキーに貸して、俺たちは下山を始めた。胡椒は取れてないのだが、時間も遅くなったしトラに襲われたり押しかけ幼女が来たり、重い話をしたりして疲れたからだ。
そして幼女はまた「んっ」と両手を伸ばして抱っこを求めてきた。俺がため息をついて持ち上げてやると、幼女は俺の頭をよじ登り肩車になるように肩に座った。
するとハスキーが、
「なあマサト……」
ハスキーは悲痛な面持ちで俺に問うてきた。
「あん?どうした?流石に裸ワイシャツみたいな格好じゃ恥ずかしいか?」
「いやそれは良いのだが」
「良いのかよ」
むしろ女として、ノーパンでその格好で帰ることが1番大問題だと思うのだが。
「何故そんなにすっきりしてるのだ?」
「いやすっきりはしてねえよ」
「しかしだな……」
こいつも基本的にはランセルと同じで真面目タイプだからな。
「ミッドランドの再興か?……まあ、気が向いたらな」
「いや、もうそう言う問題ではない。それにミッドランド再興は妾には出来ぬことがわかった。だからマサトと妾の子にミッドランドを継がせるのでそれは良い」
「ひとっつも良くねえけどな!」
幼女から、ハスキーは黄金の血が薄すぎてラーの剣を光らせるほどの魔力が取れないらしい。だから認める認めない以前に物理的に無理だと言われた。それがしたいなら俺との子を為してそいつに継がせればいいと言われたのだ。
だが子供を作る以前に、まず再興が終わらなければ継がせることも出来ない。山積み問題を先送りにしてやがる。
「マサトは同じ勇者に命を狙われるようになったり、実は神はエルフが作ったものだったり、人間と魔族が敢えて憎み合っていたり、この世界が9回滅んでいるとか、その他諸々気にならないのか?」
「お前な……」
俺は幼女を肩車したまま、少し後ろを歩いているハスキーに振り返る。
「俺だって気になるよ。知りたいって好奇心もある。けどよ、例えばよ、その勇者ってのが俺を襲いに来るとしても、もう決定事項なら考えても仕方ねえだろ。来るなら来るで準備するだけだ。それにエルフが神?どうでも良いよ。元々神様なんてのは得体の知れないものだし、それがエルフでしたって言われても、あーそうですかとしか言いようがねえ。人間と魔族にしてもそうだ、お互い殺し合ってて必要としてるからやってんだろ?なら仕方ねえじゃねえか。俺に火の粉が降りかかれば払うけど、それ以上でもそれ以下でもねえよ。世界が10回目?だからなんだよ。俺たちは今を生きてんだよ。昔9回滅んでリセットされてようが、超昔からずっと続いてようが、過去には生きれねえし、寿命があるから未来にも生きれねえの。だったら今を生きるしかねえだろ。今を生きるのに昔が滅んでたかどうかが関係あるか?……、たくっ、ややこしく考えすぎだ」
「そうなのよ、考えてもどうにもならないこともあるなのよ」
お前が言うのかと言ってやりたいが、黙っておいた。
そんなことより首都エステランザの風俗事情はどうなってるのか、とびきりイケてるねーちゃんがいるのかのが大問題だ。
ハスキーは俺の言葉を聞くと、胸に溜めていたものを吐き出すようにして、呆れたような笑顔を作り、
「…………、強いのだな、マサトは……」
「強くねえよ。襲われたら死んじまう。だからハスキー、明日から少し剣の修行をするぞ。俺も死にたくはないからな。お前、俺に剣を教えられるか?」
ハスキーは一瞬目を丸くしたが、すぐに花開くような笑顔になり、
「うん、うん!妾に任せろ!妾が手取り足取り教えてやる!」
「……お前が言うとベッドまで入り込んで来そうに聞こえるよ……」
「何を言ってるのだ?子を成すにはベッドしかないだろ?それとも森でしたいのか?」
「剣を教えろってんだよ!!」
幼女はこんな話をしてるにもかかわらず、足をブラブラさせて高い視界を楽しんでいる。
「第一、神がこんなんだぞ?気も抜けるってもんだろ」
「確かに……」
すると幼女は俺の額をペチペチと叩き、
「ペテン!あたちを大事にちないと絶対困るなのよ!あたちを敬うなのよ!」
「敬うって何してほしいんだよ」
すると幼女は木々が茂る空を見上げて、
「んと〜、ラーメンも食べたいち、甘いものも食べたいち、……、んと、おいちいもの!」
「食いもんばっかかよ!」
安い神もいたもんだ。
俺が歩き出すと、幼女はまだ空を見上げながら、食いたいものを羅列していた。
ゴン!!
「あいたぁ!!」
「あっ」
幼女は枝に頭をぶつけた。
あれは痛そうだ、すごい音がした。
自分の額を押さえて痛がっていた幼女は、鬼の形相になり、俺の頭をポカポカ殴る。
「痛いなのよ!ペテン!」
「いてっ、っ、やめろ!お前意外と力強えぇんだから!」
「あたちの方が痛いなのよ!ペテン!おに!アクマ!ロリコン!勇者!オッサン!詐欺ち!」
「ロリコンじゃねえ!あと、勇者はやめろ!絶対だ!」
ハスキー、お前も黙れ。ボソボソと「だって勇者じゃないか」とか言うな。聞こえてんだよ。
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