第33話
別にオリハルコンの剣が消えたわけでもない。確かに幼女は恐ろしく強かったが、今日はタマタマ冒険に来ただけで、こんな恐ろしい目にあったんだから、もう冒険することはないだろう。だから「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」とか必要がないのだ。
俺が断ると、賠償だから断れないとかすぐに呼ばなかったくせにとか強気なことを言っていたが、頑なに断り続けると、ぐすぐす鼻を鳴らし出した。子供かよ。
だが俺にガキの泣き落としは通用しない。それでもなお断り続けると、幼女は切り札を切るかのように言ってくる。
「むちろ契約したんだから、断れないなのよ」
「ならここに置いていくわ」
「っ!ひどっ!おにっ!あくま!ペテン!オッサン!」
「オッサンは関係ねえだろ」
「こんな小さいあたちを山に捨ててくなんて!」
「だってうるせえし、オリハルコンの剣はあるし、お前が必要になることがねえもん」
すると幼女はハッとした顔をして、
「必要になるなのよ」
「……なんでだよ」
「お前、もちかちて、あたちたちを呼べるのがぢぶんだけと思ってないなのよ?」
「……は?」
「黄金の血はあと2人いるなのよ」
「……え?」
「そいつらもみんな、あたちらを集めたくて探ちてるなのよ」
「……」
マジか。
地球に43人しかいなかったRH nullがあと2人?あのジジイ、とんでもねえことをしやがる。
「って、あぶねえ。だからなんだよ。別にそいつらがアーティファクトを探しても俺には関係ねえじゃねえか」
「あたちを持ってれば奪いにくるなのよ」
「だから奪われるも何も、お前はここに置いていくって言ってんだろ?」
「あたちはもうお前と契約ちたなのよ。お前がちななきゃそいつらはあたちと契約出来ないなのよ」
「は?」
幼女はまたドヤ顔になる。
「もう手遅れなのよ。あたちを呼んだ時にお前の運命は決まったなのよ。もう他人事ではないなのよ」
「こ、この……」
一瞬幼女の胸ぐらを掴みかけたが、110cmほどしかない子供の胸ぐらを掴むのは絵面的に最悪だ。俺は踏み止まる。
「呼んだのはお前なのよ。お前があたちを呼ばなければこんなことにはならなかったなのよ」
「……」
クソが。
幼女は「どうだ?参ったか?」と言わんばかりの顔をする。
つうか何か?
エステランザ国王の話と合わせて考えると、5つのアーティファクトを集めろ、集めたら願いが叶う、アーティファクトは黄金の血を持つ者が契約出来る、契約は所持者が死亡しなければ解除出来ない、だから狙われて殺される、譲渡も不能ってか?
「最悪じゃねえか!!!」
これじゃバトルロイヤルだ。
まさかラーメン屋からその展開になるとは想像してなかった。
それもこれも、俺がラーの剣を固有名称で呼んだから?ただそれだけ?嘘だろ?
「お前に良いことを教えてやるなのよ」
幼女は半眼で片側の口角をあげ、嫌味な顔をする。
「なんだよ……」
「運命とは掴むものぢゃないなのよ、落ちるものなのよ」
「くっ……」
落ちたってか!地獄の底に落ちたってか!
「これが神のお告げなのよ」
「もう神死ねよ……」
神を呪うとはこのことか。
本気で最悪だ。他の奴がどんな力を持ってるかはわからないが、俺にはラーメンを生み出せるしかないのだ。こんな定番異世界モノをやっていける能力じゃない。
「それに悪いことばかりぢゃないなのよ」
「ちっ、早く言え」
「あたちと契約したならば、あたちの力を使うことが出来るなのよ」
「っ、力?ってことはお前みたいに魔法が?」
「違うなのよ、あたちを使って戦うことが出来るでちょ!」
「そう言う意味かよ……」
てっきりあのラーの魔法を俺が使えるようになるのかと思っていた。
俺があからさまにがっかりすると、幼女は憤慨して怒り出す。
「あたちを使えるのに何が不満なのよ!」
「俺が使えねえんじゃな……」
「お前があたちを持って、あたちが力を使えばお前が使ってるようには見えるのよ」
「ん?」
「やってみるなのよ」
すると幼女は光を放ち、剣の状態になった。ラーの剣はふよふよと浮いて俺の手に収まると、いきなり頭の中で声がする。
『サンレーザーと唱えるなのよ』
「……」
びっくりしたが、声質が幼女だったのでラーの声だとわかった。俺はラーの剣を前に向けて、
「えー、サンレーザー?、ぐっ」
俺が一言発した途端、まるでロボットアニメのメガ粒子砲のような、剣から直径1mほどの光が発射された。光が当たった場所は、物質と呼べるものは何もなくなった。森の木々がどこまでも続くトンネルのように、ポッカリと穴を開けている。少し遅れて幹が消え失せた木々が轟音を立てて倒れていく。
同時に、ラーメン1000杯ぐらい出した時のように、急に身体から力が抜けた。
剣がまた幼女に戻っていく。
「どうなのよ?これならお前が使ってるように見えるなのよ」
「た、確かに……」
実際にはラーが魔法を唱えてるだけだが、他人から見たら俺が発射したように見えなくもない。
「って待て。なんで俺の魔力が減ってる?」
この疲れは魔力切れの時と同じだ。間違いないだろう。
「当たり前なのよ。あたちは
「勝手に使うんじゃねえよ!」
「契約ちゃなんだから当たり前でちょ!」
「……」
だが巨大な力を手に入れたとも言えなくもない。ならばアリか?
いやねーよ!
結局はバトルロイヤルに強制参加じゃねえか!
今までと全く同じだ!どんなに剣が強かろうと、俺が一発食らったら終わりなことに変わりはない。しかも後の2人もこんなバカげた力を持ってるとしたら、余計死にやすくなってるじゃねえか!
「……、おい、ラー」
「なになのよ」
「正直に答えろ」
俺は本気で幼女を睨みつける。だが幼女は神だ、全く怯まない。
「俺が死ぬ以外で契約解除方法があるだろ」
「っ、な、ないなのよ」
ほら来た。
完全に動揺してんじゃねえか!
「教えろ、そして解除しろ」
「い、嫌なのよ!あたちは現世に居たいなのよ!もうちんかいは飽きたなのよ!つまんないなのよ!」
「悪いがこっちは命がかかってるんだ、可哀想だが帰れ」
俺の全力の気合を乗せて幼女を睨みつける。
すると幼女はうっすらと涙を浮かべて、
「刀身を折るなのよ……、あたちの紋章が入っているばちょを折れば、あたちは治っても契約は解除されるなのよ……」
「っ!無理じゃねえか!!」
神の金属であるオリハルコンを折れ?!
未だに傷1つつけられたことがないのに?!
「でも不可能じゃないなのよ……。あたちはもっと遊びたいなのよ……」
「くっ……」
きっと同じオリハルコンならオリハルコンが折れるかもしれない。だが、それだと結局アーティファクト持ちと戦って、そして折れるってことは負けるってことだ。
どちらにしろ俺は死んでいる。
俺が思案し出すと、ずっと黙っていたハスキーが動き出した。
あまりに衝撃的な出来事があったので忘れていたが、ハスキーはまだ全裸だ。ハスキーは全裸で幼女の前に片膝をつき、頭を下げる。
「偉大なる太陽神、ラーよ。妾はエリザベスシャインフラワー=フォン=ミッドランドと申します」
幼女はあまり興味がなさそうにハスキーを見て、
「ジークの娘なのよ」
「はい。どうか、このマサトが偉大なる神と契約をしないのならば、妾と契約をしてください。父と同じように!」
「ジークとも契約はしてないなのよ。だからお前とも契約は出来ないなのよ」
契約の必要事項である黄金の血ではないからだろう。
「ならば妾をミッドランドの後継者と認めてください!そのご威光をお貸し与えください!」
幼女はひざまづくハスキーを見下ろす。
って言ってもほぼ同目線だが。
「お前はダメなのよ」
「っ!な、何故ですか!」
「お前は黄金の血が薄いなのよ」
「……は?」
俺は2人の話に割って入る。
「ちょ、ちょっと待て!ならミッドランドの代々の王たちはみんなゴールデンブラッドだったのか?!」
「正確にはミキヤスの、むかちの勇者の子孫だったなのよ」
「……」
ここに来てわけわからん情報が山盛りだ。
山に居るから?ほっとけよ。
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