第5話ボーリングデート。

俺は今、千葉県の勝田駅にいる。


今日はイチルさんと1日デートすることになった。


数日前に和也の隣で電話した日からちょこちょこメールでやりとりしてこの日になったのだ。


デートの基本は先に男が待ち合わせ場所にいるのが普通だろ。


そう思った発芽は電車を一本早く乗って待ち合わせの15分前に来ている。


「発芽くーん、おっはよー!!。」


後ろから抱きつかれて振り返ると変装したイチルさんがいた。


「あ、イチルさ………。」

「しーだよ?。」


発芽が挨拶する前にイチルさんに人差し指で唇を塞がれてしまった。


あ、そうだ忘れてた。


今や国民的スターの名前を出していたらさすがにバレるとのことなので偽名を使うことにしたのだ。


「ごめんなさい彼方さん。」


「よろしい、それでは行ってみよー!。」


「ちょっと待ってください。」


発芽は行こうとするイチルの手を握って立ち止まらせる。


「ん、どうしたの?。」


「いや、あのーえーとですね………。」


なかなか言葉が出ない。


「なーに?、もう早く言ってよ〜。」


手を握られてデレデレし始めるイチルに発芽は言った。


「その格好…………何ですか?。」


「これ?、見ての通り変装だよ!。」


ババーン!、という感じの効果音が出そうなドヤ顔で決めポーズを決めるイチル。


今のファッションはこうだ。


星形のかけてる本人が見えているのか不思議なくらいキラキラしているメガネにファミコンからお馴染みの配管工髭おじさん、マトリオットの頭まですっぽり入るフードつき全身パーカーを着ている。


これじゃあイチルさんに見えないよね、悪い意味で。


「これなら天超イチルなんて誰にも見えないよね!。」


「天超イチルには見えませんが僕から見ても変な人には見えます。」


「え?。」


イチルが辺りを見回すと変な目で見てたり、スマホで写真を撮られていたり、ちょっとした集まりができていた。


「話は後です、今は逃げましょう。」


発芽は握った手を引っ張り駅の改札の階段を下って反対側の階段を上り、ショッピングモール直通無料バスに急いで乗った。


その後すぐにドアは閉まって発車した。


「ハアハア、イチ………、彼方さん怪我はありませんか?。」


「うんありがとう、また私のせいで迷惑かけちゃったね………。」


発芽は落ち込んでいるイチルさんをなんとかしようとして話題転換をする。


「僕は全然構わないですよ、今すごく楽しいですし、それよりその服は自分で仕立てたんですか?。」


「………うん、いつもはファッションデザイナーさんとかに服選んでもらっているんだけど、今日は発芽くんとデートだ!、って勢い余ってやりすぎちゃった!。」


最初暗かったのに最後の方には元気になっていた。


ショッピングモールに着くとまっすぐ向かった場所は服屋だ。


なんでって?、言わせないでくれ。


「ねーねー、これはどう?。」


イチルは気に入った服を発芽に体に重ねて見せる。


が、発芽の顔は苦虫を噛んだみたいななんとも言えない顔をしていた。


「私が選んだ服、そんなに似合わない?。」


自分が選んだ服が気に召さなかったと思ったのか、イチルが恐る恐る聞く。


「はっ!、ごめんなさい、ボーとしてました。」


いやなんかね、頭に入ってこないのよ上がまともでも下のズボンがネタみたいな柄してるから評価がつけづらい。


「とりあえず、目立たない程度の服を上下揃えて試着室で一度着替えてみましょう。」


そう言ったのち、発芽はイチルに似合いそうな服を何着か選んで渡してイチルを試着室に押し込んだ。


「どう?。」


やがて、試着室から出てきたイチルを見て発芽は目を覆ってしまった。


「くそ、眩しすぎて見えない!、何だこの天使は!!。」


これほど素材が良いと輝く物なのか、声優ってのは!。


「もう、ちゃんと見てよ〜!。」


恥ずかしがるも、怒ってるイチルさんちょー可愛い。


結局その後も何着か買って大きな紙袋二つ分になってしまった。


立てた予定が開始数分で崩れたがこれは嬉しい誤算だ、なんだっていつも衣装を着たイチルさんしか見たことがないのでなんだか新鮮だった。


髪も俺が結んだ。


俺は髪が長くないが、師匠が「女子力をたたき込んでやる。」とか言って身の回りの家事や、師匠の世話までもさせられてから家に帰っても定期的に家中の掃除とかをしている。


師匠のところにいた時は毎日髪を結んでいたのである程度の結び方はマスターしている。


「…………これであとは、眼鏡をかければ終わりと。」


最後に服の胸のポケットに刺していた伊達眼鏡をイチルさんにかけてあげた。


「発芽くん、私がめっちゃ可愛くなってる!。」


そう言ってポケットからスマートフォンを取り出して上に掲げて発芽に抱きつく。


「ウェ!?、ちょ…………!。」


発芽が驚いた瞬間をパシャリ。


「え?。」


「記念写真だと思って、インスタにあげちゃお。」


「ちょま!。」


そのあと発芽が強引に止めにかかったため後に撮れた写真3枚は思いっきりぶれていた。


気を取り直して次に向かったのはこのデートの目的であるボーリングだ、実はイチルはこのかたボーリングを一度もしたことがないと言う。


「わぁ〜!、すごいよ、一階にゲームセンターがあるよ!。」


「はい、ボーリングはその上ですよ、いきましょう。」


発芽はイチルの手をとってエスカレーターに乗る。


次に向かったと言ったが、あれは嘘だ。


実は他の服屋か靴屋を探しているときに途中でCDショップを見つけた。


最近は、インターネットで曲とかを買うことができるからCDショップの存在がめっきり減った気がする。


と、思っていたら気づいたらイチルさんがCDショップの中に入っていた。


正直、すごく寄り道楽しいけど、めっちゃ時間食った。


朝と昼の間にボーリングに行こうと思っていたが、気づいたら昼を丁度過ぎるかくらいの時間になっていたので結局フードコートでご飯を食べてからボーリングに来ている。


「これを押せば靴が出てくるの?。」


「はい。」


ガタガタゴトゴトと言う音が鳴ってシューズが落ちてくる。


イチルさんがビクッてなって俺に抱きついてきた。


発芽は表情には出ていないがかなり興奮しているようだ、少し心の中をのぞいてみよう。


オープン ザ プライス!!(言ってみたかっただけ。)


(ヒャアァァァァァッッッッッホホホォォォォォォウ!!!!、やばい何この生き物!?、てかオッパイオッパイムニュッて!!……………………。)


…………………………これ以上は色々世間的禁止用語になるのでやめておこう。


「シューズが出てきましたね、じゃあ上に行きましょう。」


「ねえねえ発芽くん!、コースがいっぱいあるよ〜。」


エレベーターが開いた途端目の前のボーリングのレーンの多さに驚きが顔に出ているイチル。


「レーンにはオイルが塗ってあるので近くを走ると危ないですよ。」


発芽はレシートみたいな紙を見ると8番レーンを指差す。


「あっちですよ、ボーリングの球も持っていきましょう。」


「ンー!なにこれおもーい。」


両手で持てるくらいの球を持ってきた。


だが、すごい嬉しそうで何よりだ。


2時間後。


「やったーー!、ピンに当たったよ!!。」


「やりましたね彼方さん!!。」


※6ゲーム目で初めてピンに当てた。


「うっ!、肩が……………!、これはまさか前兆………?。」


「それただ単に球の投げすぎで肩が壊れてるだけですよ、あとサラッとアニメのセリフを使わないで下さい、俺はご褒美ですけど他の人に聞かれたらどうするんですか。」


「てへ、発芽くんが喜ぶと思って。」


「僕は一緒にいるだけで大喜びですよ!。」


発芽の何気ない一言、意識はしていなかった。


発芽が我に返った頃にはイチルの顔が今にも爆発しそうに赤くなった。


「今のは忘れてください!、すごく恥ずかしいので…………。」


発芽はそう言うとイチルは急いでポケットからスマートフォンを取り出してビデオモードをスタンバイする。


「もう一回言って、永久保存版にするから。」


「恥ずかしいのでもう言いません!。」


発芽は恥ずかしすぎてそっぽを向いてしまった。


結局、8ゲームまでやってやめた、肩が限界である。


「ん〜肩が痛い、けど楽しかった!。」


「帰ったら湿布とか貼ってくださいね、次の日とかは手をグーパーするだけで痛いので。」


「え!?、そうなの?、でも確かにちょっとピリピリしてきた。」


行きは直通バスだったが、実はショッピングモールと駅は歩いて10分も掛からないので帰りは歩いて帰ることにした。


途中まで歩いているとふと思った。


今日は楽しかったな、またイチルさんと来ようかな。


そう思ってイチルに言おうとした瞬間、イチルは少し前に走って後ろを振り返り少し腰を曲げて、発芽に上目遣いする。


「発芽くん、私、久しぶりにいっぱい遊んですっごく楽しかったんだけど、また一緒にデートしてくれる?。」


クッ!、こんな可愛い彼女が上目遣いでしかもかわいい声で言われちゃあOKするしかないっしょ!!。


て、思ってたら口に出てた。


「そう言うと思って、実は撮ってました。」


するとスッと口元に出たるわおなじみのスマートフォン。


イチルがボタンを押すと。


「こんな可愛い彼女が上目遣いでしかもかわいい声で言われちゃあOKするしかないっしょ!!。」


駅の近くで大音量で響き渡る俺の心の声だと思ってた声。


「お。」


「お?。」


発芽は口をパクパクさせながら言う言葉にイチルはドヤ顔で耳をたてて復唱する。


「お願いだから、けしてええぇぇえ!!↑↑。」


他の人から比べたら展開は早いのかもしれない、だけど俺とイチルさんと普通のカップルは別だ。


このままこんな楽しいことが続けられると思いたい。


ちなみにしばらくこのことで陽奈太さんにからかわれるネタになった。

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