第二話 旅立ち <2>
†
村が見えなくなってきた頃、突然腰に差していたジャンヌが人間の姿に戻って、僕の腕に自分のそれを絡めてきた。
「いよいよ旅立ちですね!」
彼女は僕の高揚感を代弁するように言った。
「ああ、そうだね……」
村を離れることに一抹の寂しさはあったが、期待感はそれを上回る。
「ありがとう。僕の旅に付き合ってくれて」
僕はジャンヌにそう言って頭を下げた。
正直、僕の旅はジャンヌなしには成り立たない。
なにせ、彼女の力がなければ、僕は剣も魔法も全く使えない無能な村人に過ぎないのだから。
「たぶん、これからもめちゃくちゃジャンヌを頼ると思うけど、よろしく」
僕が言うと、ジャンヌは笑みを浮かべた。
「私はご主人様の剣属です! どこへでだって、ついていきますよ!」
「ああ、頼むよ」
さて、僕たちはひとまずは王都に向う。
王都ならば、剣士向けの仕事が見つかるはず。
まずはそこでお金を稼いで生活の基盤を作りたい。
……とは言っても、王都はそれなりに遠い。歩いてだと多分一週間はかかる。
なので、基本的にはその途中にある村や町を経由して進むことに決めている。
「さて、野宿は避けたいからな。少し急ぎ気味で歩くか」
僕たちは森の中の道を進んで行く。
道、と言っても行商人や村の者が行き来する中で自然と踏み固められてできた道なので、獣道に近い。もちろん人通りなどは皆無だ。
鳥と虫の声、そして風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
それから僕とジャンヌはお互いのことを少しずつ話しながら、一時間ほど道を進んで行く。
「あ、あそこ、池がありますね」
見ると、道から少し外れた所に小さな池があった。
ちょうど喉が渇いていたので、僕たちは道を外れて池に向かう。
見ると、湧き水でできた池で、そこからちょっとした小川のように水が流れていた。
「ちょっとだけ休むか」
「はい!」
僕たちは池の近くにあった大きめの石に腰掛けて、水を飲む。
――と、一息ついていると、遠くからから物音が聞こえてきた。
足音だ。
僕たちは耳をすませる。
モンスターだったら――と警戒したが、現れたのは人だった。
「すみません、お邪魔していいですかな?」
そう声をかけてきたのは40代くらいのおじさんだった。
白髪混じりの頭髪に、肉つきのいい体。表情は朗らかで、優しそうな人だった。
「もちろん、どうぞ」
「じゃぁ、失礼」
そういっておじさんも池から水をすくって飲む。
「君たちはソレムに向かうのか? それともリラン村に?」
リランはこの先にある村で、僕たちの育ったルールから一番近い集落だ。
「これからリランにいきます。僕はルール村出身なんです」
「なるほど、じゃぁ私とは反対方向か。私はリラン村から来たんだ。ルール村の先に、カルドの街があるだろう。あそこにちょっと用事でね」
「ああ、なるほど」
「さて、君たち、最近はこの辺も物騒だから気をつけてな……」
そう言っておじさんは立ち上がり、僕たちに手を振ってその場を立ち去ろうとする――
と、その時だ。
「危ない!」
ジャンヌが叫んぶのとほぼ同じタイミングで、
僕は地を蹴り、おじさんに覆いかぶさるようにした。
次の瞬間、僕の頭上で何かが風をきる音がした。
僕はすぐに立ち上がり――そしてジャンヌが剣の姿になり僕の手に収まる。
「わ、ワイバーン!?」
会話に夢中で気がつくのが遅れたが、僕たちを頭上からワイバーンが狙っていたのだ。
「なんでこんなところにワイバーンが?!」
ワイバーンは、人間を襲う極めて凶暴なモンスターだが、このあたりには生息していないはずだ。
「おじさん、そこで隠れてて」
僕はワイバーンの鋭い目を睨みつけながら、後ろにいたおじさんに言った。
と、おじさんが立ち上がる前に、頭上でとんでいたワイバーンがこちらに向かって急降下してくる。
――速い。
だが、剣属であるジャンヌの加護を受けた僕ならば、見切れないほどではなかった。
僕は体をひねってクチバシを避けながら、逆に横薙ぎの一撃を加える。
「――ゃぅッ!!!」
声にならないうめきが残響する頃には、ワイバーンは真っ二つに引き裂かれて、後ろの木にぶつかっていた。
「危なかったなぁ……」
気がつくのが遅れたら、おじさんはあのクチバシに真っ二つにされるところだった。
「おじさん、大丈夫?」
僕が声をかけると、おじさんは「ああ……」と僕たちを驚きの目で見ながら立ち上がった。
「ワイバーンを一撃で仕留めるなんて…… しかもそのお嬢ちゃんは剣属……かい?」
と、その質問に対して僕が答える前に、ジャンヌが人間の姿に戻って答える。
「ええ、私はエド様に仕える剣属です!」
「その若さで剣属の主人とは……。通りで強いわけだ」
世間的には、剣属は強い剣士を主人にする、ということになっている。
なので、必然、僕みたい才能ゼロの村人でも、ジャンヌの主人であるというだけで強いやつ認定を受けてしまうようだ。
ちょっとズルをしたような気になって気まずい。
「いや……たまたまで……」
僕が頭を掻きながらいうと、しかしジャンヌが横から口を挟む。
「いえ! ご主人様は本当に熱心に稽古をしていて、実はめちゃくちゃお強いんです! 将来大剣豪になるのは間違いないです!」
見ると、おじさんはジャンヌのお世辞を疑う様子もなく信じきっているようだった。
「いやぁ、とにかく、君のおかげで命拾いしたよ。本当にありがとう」
「いえいえ……」
ちょっと気恥ずかしいが、しかし早速人助けができて何よりだった。
†
倒した敵を従者にできる「マスタースキル」で僕は王になる アメカワ・リーチ@ラノベ作家 @tmnorwork
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