Dream Fantasy

園咲 そら

◆プロローグ~始まりの時~

「おはよう・・・ミク・・・」

貴方はそうやって、いつも私を呼んだ。

・・・そう、いつものように・・・。

「おはようございます」

私は、いつもの笑顔で見下ろす彼を毎朝かける言葉で返した。



「どうしたんだい?ミク・・・そんなに怯て・・・」

彼は、いつもの笑顔とは全く無縁の笑みを浮かべ、私を見ていた・・・。

「・・・ぁ・・・っ、こ・・・来ないで・・・」

私は彼の持っているモノに怯えていた。

持つ事の許されない、禁断の書物。

彼は、それを私に近づける。

「や・・・やめ・・・て・・・」

私は震える声で彼を見た。

「時は来た。さあ、受け取りなさい」

時・・・?何のこと・・・??

「何を言っているの・・・?私は・・・そんなモノ・・・要らないわ・・・」

私が幼い時から、絵本の代わりに彼は(私に)読んでいた。物語の内容は酷く怖いものだった。

それに、あの本を手にすると、彼は人が変わってしまう。

私は怖くなって、その場から逃げ出した。



怖いけれど、私はあの本が何なのか、この歳になっても分からない。とっても恥ずかしい。けれど、色んな人の生き様が書かれた本。

あの本は――――。

「予言の書」

「!!」

彼は、私の正面に居た。

「さあ、追い駆けっこは、お終いだよ?」

そう言って、小さな私の背丈に合わせてしゃがみ、にっこり笑った。

「まだ小さいのに、怖い思い、させちゃったね・・・ごめんね、ミク」

そう言った彼は、大きな手で、私の小さな頭を撫でた。

「もうあの本は読まないよ、嫌いなら言ってよ」

そう言った彼の顔は、いつもの笑顔だった。

私は安心して、彼の胸の内で涙を流した。



あれから時が過ぎ、私は16歳の誕生日を迎えた。

あぁ、まるでおとぎ話の決まり文句ね・・・。


コンコン


「ミク様、お食事のお時間です」

「分かりました」

毎朝来ていた彼は、祝いの日に限って姿を見せなかった。

何故かは、深く考えたことはないけれどきっと、お仕事している・・・と軽く流していた。



「王家の血を引く姫様に、祝福を~!!」

両手を高らかに広げ、パーティの幕開けを毎年のように言っている、トランプのキングをちょっと小太りにしたイメージの方。争い事が起きないように、色んな国へ足を運んで、お話されていたり活気付くよう手助けをされてる方でもあるの。屋敷に居る方でも、お仕事の詳しい内容までは分からない。


盛り上がる空気の中、私は小声で話しかける。

「毎年大げさよ?」

「し・・・しかし、折角の祝いですし・・・」

屋敷に集まった大勢の人に囲まれて1年に1度の時を満喫した。

しかし、楽しい時間はそう長くは続かなかった。



「じょ・・・女王様・・・!た・・・大変です!!」

「何だ!?騒がしいぞ!!」

「はい・・・。『デスロイトの王』がこちらへ向かっているそうで・・・」

「なんだと!早くミクを安全な場所へ!!」

「はっ!!」

その会話は屋敷中に響き渡った。

兵士はそれぞれ、戦闘態勢をとっていた。

「お母様・・・なぜこんなにも慌ただしいのですか?」

私はウィンクリーの女王である母に尋ねた。

「ミク・・・貴方は逃げなさい」

「え・・・?それって、どうい・・・」

「ミク様、早くこちらへ!!」

1人の兵士が私の手を取り、母から遠ざけようとする。

「放して!私はお母様と話しているの!!」

「ここは危険です!早く!!」

「お母様~~~!!!」

兵士は、強引に私を連れて、外へ出た。



「ミク・・・貴方だけは死なせたくない・・・」

女王は小声で呟いた。

「おや?貴方1人とは、珍しいこともあるものですね~」

兵士達が持ち場へ着いたにも関わらす、剣を交える音も声も無く、女王の居る広間へ向かい、コツコツと足音だけが響く。明るい広間に照らされ、1人の若い青年が立っていた。

「やはり、お前も1人か・・・フィクト」

女王は少々冷めたような口調で話す。彼女の瞳に映る黒髪、タキシード、かかとまであるだろう長いマント。そこには戦闘による傷が一切無い。

「当然。話は簡単です。『予言の書』を俺にください」

フィクトは手を伸ばし、それを渡せと促した。

「裏切り者には渡さん!」

「相変わらずキツイお言葉ですね~」

「楽しんでいるだろ?」

「おっと、バレてしまいました?」

「用件は済んだだろう?さっさと散れ」

女王はフィクトに背を向けた。

金色に輝く長い髪。透き通る青い瞳。それを引き立たせる白いドレス。背を向けた彼女にどこか懐かしさを感じるのか、その気持ちを抑え込み、口を開く。

「本当にそれで良いんですか?ウィンクリーの女王、ハル様。姫様が暴走しちゃいますよ?」

「・・・!!どういう事だ!」

ハルは振り向き、フィクトは暗い笑みを浮かべていた。

「・・・。時はきました」

「な・・・んだと・・・!」

その時、強い風が吹き荒れ、(屋敷の)柱を崩していった。

「!!・・・これは黒魔法!?」

「ご名答、後は任せましたよ?カオス・・・」

「逃げる気か!!」

「散れと言ったのは、貴方の方でしょ?まぁ、いい。ここで見物しておきます」

フィクトはマントを翻した。

「フィクト・・・コノ場で雑用ハ、ゴメンダヨ?」

フィクトの前には黒い布のようなものをまとい、頭にはニット帽を被った少年が立っていた。

「何だ!その子供は!?」

「?・・・ボク?・・・カオス・ド・ゲート。キミ、ヤルネ。コノ黒風ニ耐エルナンテ・・・」

カオスはにっこり笑った。

「キミニハ悪イケド、シバラクノ間、眠ッテモラウヨ?」

そう言った瞬間、下にかかる重力にハルはその場で倒れた。

「貴様・・・何を・・・!!」

「タダ重力ヲ操作シテルダケダヨ?ドコマデ耐エラレルカナ・・・?」

カオスはただ、面白がっていた。

「もう十分だろ?あとは俺がやる」

フィクトがカオスの前に立つ。

「モウオ終イ?全ク、フィクトハ子供ノ扱イガナッテナイネ・・・。

次ハモット良イオモチャヲ用意シテヨネ?」

そう言って、カオスは闇の中へ消えていった。

彼が居なくなった後は、嘘のように黒風と重力の重みは消えた。

「すみませんね~、貴女に手荒なマネはしたくなかったのですが、仕方ありません。それでは、さようなら・・・」

フィクトは静かに片手を前に出し、崩れかけの床に結晶を作り出した。

「!!」

立ち上がったハルが結晶の中に閉じこめられた。

「あ~・・・。もう少し、綺麗な形で閉じ込めたかったな~。そうだ、予言の書を探さないと・・・」

フィクトはそう言って、戦場となった広間を後にした。



「もう、敵は居ないわ!早く放して!!」

私は、屋敷から遠く離れた森の中に居た。

「姫様をお護りすることも兵士としての役目。もう少しで、目的地へ着きます」

そう言って、暗い森の中を歩いていった。

「!!」

私は激しい頭痛の中、その場に座り込む。

「ミク様、どうかしましたか?」

心配して駆け寄った兵士が、私に声をかける。

「・・・こ・・・ないで・・・・」

頭痛は痛みを増し、何かが私を襲った。

「ああぁあぁ・・・や・・・めて・・・」

震える声に誰も応えることなく、私の身体は白い光に包まれ、森を破壊した。

傍にいた兵士も、それに巻き込まれた。

私は、その膨大な力に耐えきれず気を失った。



「意外と早い力の解放だったね・・・」

フィクトが(気を失った)ミクの前に立っていた。

「こっちも用は済んだし、後は時を待つみ・・・」

フィクトは闇に向かいこう言った。



「さぁ、ショータイムの始まりだ」

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