第26話 旅先で、違うこと。
旅が好きだ。
多分、自分にとってはリセットなのだと思う。非日常。行ったことのない場所で、見たことのないものを見て、美味しいものを食べて知らない場所で眠るのが楽しい。
大体は寺社仏閣などその土地の歴史が深い場所を巡り、そこでしか展示されていないものがある美術館や博物館を見て、その場所ならではの物を食べるようにしている。色々なことに気づき、学びになる。
カメラも持ち歩いて写真もよく撮る。
ただそれとは別に、旅先っぽくないことをするのも好きだ。
寺社や博物館などは大抵夕方で終わってしまうので、それ以降の時間をどう過ごすか。荷物は全て宿やロッカーに預け、まるで地元の人のような身軽な恰好で町を歩いてみる。本屋に立ち寄って前から欲しかった本を買ったり、予約なしで受けてくれる美容院に飛び込みで入って髪を切ったり。映画館で映画を見て、地元の人しか行かないような路地裏のバーで、映画の内容を反芻しながら一杯飲む。そしてコンビニでアイスでも買って宿に帰り、買ってきた本を読むのだ。
これは、一人旅のときの楽しみだ。家にいないから、家事や仕事などのルーチンから解放され、暇ではないけれど暇に近い状態になる。だからこそできる行きあたりばったりの時間の使い方。
もしこの町に住んだらどんな感じだろうかと、想像してみる。きっとこのカフェは行きつけになるだろう。ここに図書館があるのは便利そう。ふらふらと歩いていると、旅行者に道を訊かれることも多い。地元の人に見えたのだろうかとちょっと楽しい気分にもなるのだ。
今の自分とは違う自分に、ちょっとだけ出会える。それは、可能性でもある。いつか本当に、この町に越してくることもあるかもしれないのだし。
たくさんある未来の可能性を、常にあるはずの自由への気付きを手に入れて、家へ戻る。
それからまた、現実と向き合う。自分が何を現実として選ぶべきなのか。どれを選び取るかは、本当は多分自分で思っているよりもずっと、自由なのだ。
ちいさなしあわせ 巴乃 清 @sakuyuki
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