第14話 男子の思い

 「何が………」


 後方から聴こえてくる、激しい爆音と風切る音、そして複数の物が落下する轟音。

 一度はアムルに言われるままに逃げ出した三島和夫であったが、危険域から安全地帯へと逃れてみると、はたして言われるままに逃げ出してよかったのか?との疑問が湧いてくる。


 「俺は………」


 (このまま麓まで逃げるか………それとも………)


 心を揺らす男の子である。


 ヒュゥオオオオオッ! ドンッ! ズドォオオオオオン………!!!


 「うっ!?」


 足を止め振り返った和夫のもとに、一際大きな轟音が聴こえていくる。


 逃げるか? 戻るか?


 「俺は………俺はあっ!!!」


◇ ◇ ◇

 

 「これでも!?」


 アムルの驚愕し焦りの混じった叫びを上げる。


 度重なる攻撃を受けても、凄まじい再生能力で傷を癒す蔦の魔獣。


 アムルは、一度ならず大地のエナジーを吸収する魔獣の根を断ち切ってみたが、その球根に蓄えられたエナジーが、すぐに断ち切られた根の代りを用意する。


 間を置かずに開始される細胞分裂。


 球根下部から素早く根を伸ばし、切断された根と新しい根が癒着していく。


 烈風符で切っても切っても、そのいたちごっこが続くのだった。


 (私が魔獣を甘く見ていたのね。なんて耐久力と再生力………姉さまたちが、対魔獣戦では攻撃用霊符をフルバーストするって言っていた理由が、よく理解できた)


 予定通りに魔獣を倒せない状況に、アムルは臍を嚙む思いだった。


 「それでも!」


 だからと言って逃げ出す理由ももない。


 アムルは魔獣本体である巨大球根との距離を取りながらも、必死に次の策に思いを巡らす。


 (霊符の連続使用…新たに生み出した両腕に雷霆のエンチャントを施し、伸びる蔦を無理矢理突破。球根内部に突入して核を破壊しないと………勝ち筋がない………)


 アムルは、様々な方法を模索するも、結局、身一つではそんな博打のような手段に辿り着くのだった。


 味方さえいれば、十字砲火で別々に攻撃するなど、様々な方法も考えられるのだが、何しろ、自分自身で単独行動を選んだ身である。


 いまさら、臆病風に吹かれてイモを引くなどできるはずもない。


 「…覚悟を決めるのよ、アムル」


 そう結論をつけて、セーラー服の胸元にある残りの霊符を加えるアムル。


 両腕がないアムルは、まず形態変化符で突撃用の義手を生み出し、次に、その義手の両腕に雷霆符のエンチャントを施すつもりだった。


 そうして、両腕の雷霆の威力を持って多数の蔦を切り飛ばしながら、蔦の魔獣の中枢である球根へと飛び込むプロセスを踏む作戦なのである。


 正直、危険な方法であった。


 突撃時に、あの大木ほどの太さを誇る蔦に叩き落とされ、集中攻撃を浴びたなら、如何に聖少女であるアムルといえど、二度と立ち上がれはすまい。


 「…それでも!」


 この場から逃げる選択肢などないアムルは、その作戦を強行する覚悟を決めていた。


 「おおーい! 君ぃ!」


 !?


 驚いたアムルが、男性の声が聴こえた方向へと視線を移す。


 「!? どうしてっ!」


 驚きの叫びを上げるアムル。


 何と、そこには逃がしたはずの和夫が姿があった。彼は、「女子供を置いて逃げられるかよ!」と、一旦は走って逃げた道を、こうして引き返してきていたのである。

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聖少女アムル~激闘編 @byakuennga

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