第2話 さすがに狙われるよね


今日も今日とて殺人を楽しんでいた晃だったが、30分ほど前から何者かに尾行されていることに気づいていた。彼は能天気なように見えて、割と周囲に気を配っている。それは切断したら気持ち良さそうな人間を探しているという最悪な目的の為でもあった。


「そろそろ出てきてはいかがですか。尾行にはとっくに気づいているんですよ。おバカさん。」


人生で言ってみたかったランキング4位のセリフを、ドヤ顔で呟いた晃は内心のワクワクを抑えて後ろを振り向いた。彼はなんだかんだと言って殺人数が多すぎる為、能力者の中でも危険レベルは5。ほかの能力者や、特殊な機関に、頻繁に尾行、襲撃されている。本人はそれを心の底から楽しんでいるらしいが。


「ちっ、やっぱ気づかれていたか。やっぱあんたは只者じゃないな。」


晃の後ろ約40センチの距離で尾行していた、パーカーのフードを被った全身黒づくめの男は、若いのか高めの声で言い放った。


「いやいや、なかなかの尾行でしたよ。この私でも尾行されていると確信を持つのに時間がかかりました。ところで、こんなに太陽出てるのに、全身黒だと暑くないですか?紫外線とか気をつけたほうがいいですよ。」


今日の晃は赤と黄色多めのアロハシャツに、綺麗に剃ってある足をふんだんに露出した短パンを履いていた。

それは別として、背後40センチの距離で尾行する全身黒づくめの男も、それが尾行だと確信を持てなかった晃も相当な馬鹿である。

一般的に、能力者で強力な能力を持つものは少ない。大抵はしょぼく、日常生活に役に立つ程度のものでしかない。

しかし、ごく稀に、晃のような得体の知れない強力な能力を持つものもある。彼らは強力な力を持つ自分に絶対の自信を持っており、だいたいが傲慢で馬鹿である。


「聞かれたなら答えないといけないな。俺の名前は風上 誠だ。名前の通り風を操れる。お前の噂は聞いているぞ"スプラッター"」


「なんですかその頭の悪そうな名称は。いきなり失礼ですよあなた。」


"眼"を使おうとした瞬間、誠は視界から消えた。風の膜を張って一時的に身をくらましたのだ。晃はそれに気づいた瞬間、背後に大きく飛んだ。ヒュウン、と鋭利なものが目の前を掠め、晃の前髪を何本か掠め切っていった。


風を圧縮して、鋭利な刃物にして飛ばしているのは想像がついていた。しかし透明なのが厄介で、晃は風の流れを読んで避けることしかできないでいた。手当たり次第に"眼"を使って空間を切り取っていくが、やはり居場所がわからずからぶっている。


均衡した戦闘を止めたのは、晃の右手の人差し指を切られた瞬間だった。晃は自分から半径3メートルの空間に突如として"眼"、つまりは眼球を125個生成した。切られた指を抑えながら、憤怒の表情で辺りをにらめつけ、125個の"眼"で町中を隙間なく切り刻み始めた。巻き込まれた一軒家、マンション、電柱、通行人がどんどん犠牲になっていった。


これには誠も焦る。現在誠は晃から15メートルほど上空に滞空していたが、いつ"眼"が上空に向くかわからないからだ。街の被害がこれ以上拡大しないように手を打つしかなかった。


「おい!これ以上の攻撃はやめろ!お前じゃ俺を見つけられんし、倒せないぞ!」


自分の声を風に乗せ、晃にまで届けた。これが間違いだった。

晃は自分の耳元に届いた"声"の方向を一瞬で把握して、全ての眼をその方向へ向けた。動向が広がり、切り取る。

どさ、と目の前に肉塊が落ちてきた。晃はブチ切れながらぐちゃぐちゃと踏み散らかす。


「このクソガキのせいで、わたしの機嫌は最悪ですよ!このっ!このっ!」


「やはり、あいつじゃ無理だったか...だが、大体の能力は分かった。待っていろよ、"スプラッター"」


死体を踏み潰すのに夢中になっていた晃は気づかなかった。高層ビルの屋上から自分を観察していた、頭からツノを生やした女に。




本日の被害、住宅258棟、電柱188本、人間685人。影落市の人口は今日も減るばかりだ。

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徹頭徹尾"眼"を使え! 松尾刺繍 @momotaku397

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