第32話 少女の涙を拭ったのは…

-嗚呼、誰も私のことをわかってくれる人なんていないのね。

-お母さまもお父さまもわかってくれなかった。

-ワタシはオトナになんてなりたくない

-このままがいい

-おうちにわかってくれる人がいなかったから

-探しに来たのに

-結局どこにもいないのね。


炎の中少女はひとり。

『紫』の籠の中。

ずっとずっと泣いている。

声を上げて、

かみ殺すように、

涙だけがながれて、

これらを繰り返すようにずっとずっと。


ずっと夢見るままでいたかった。

無邪気でいたかった。

汚いものに染まらないままでいたかった。

…こどものままでいたかった。


昔のままが良かった。

あの頃に帰りたい。

オトナになんかなりたくなかった。

みんなみんな言っていた。


-だったらワタシはこどものままがいい。

-オトナがそんなに嫌なら、

-ワタシはこどものままでいい。

-ただそれだけなのに…。


少女はずっとずっと泣いていた。

周りの音なんて気にしてはいなかった。

目の前に彼女が現れるまでは…。


-何でいるの?

-あなたはだれ?

-あつくないの?


少女は泣くのをやめて彼女を見つめた。

この『紫』の炎の中、

彼女のドレスは美しかった。

炎の中でも負けないような、

力強い『紫』だった。


-きれい…。


少女はその姿に見惚れていた。

ふと、彼女が少女の頬に手を当てた。

優しく頬を撫でて、

まるで、涙を拭っているかのようだった。

彼女は少女を抱き寄せた。

「大丈夫」

彼女は優しく語り掛けた。


轟々とした炎の渦にもう一つ新たな渦が生まれた。

その渦は最初の渦とは反対に回り始めた。

渦と渦は互いに打ち消しあった。

気が付くとあれほど大きかった渦は、

火花とともに散った。

まるでそれは祝福の花びらのようだった。

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Ms.Color 木染 こころ @cosomesan

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