嫉妬1

「いやはやいやはや、素晴らしい」

 生徒が下校していく姿を屋上から見下ろしながら、晴香さんはニヤニヤといやらしく笑う。

「親衛隊がついてるじゃない、彼女」

 視線で正門付近を示した先には、三人の男子生徒と一人の女子生徒に囲まれて下校する八上さんの姿があった。

 

 あの事件から一夜明け、俺も八上さんも登校していた。案の定、学内では一躍有名人となっており、俺には興味本位の奴らが、八上さんには心配するふりをして距離を縮めようとする奴らが、一日中どっと取り囲んでいた。そんなこんなで非常に疲れる学校生活を終え、早々に帰ろうとした矢先、今度は晴香さんに捕まえられ、ある目的のために立ち入り禁止となっている屋上へ来ていた。


「知ってる?八上ちゃんってファンクラブあるのよ?」

「ああ、それ、俺も今日知りました」

 ちなみに、これを気にと、八上さんに近づこうとしていた何人かの友人がその会員だと言うことも今日知った……。

「ほんと、確かに可愛いもんね。なんだかT○LOVEるの春菜ちゃんみたい」

 私はダークネス始まる前からヤミちゃん派だけどと付け足す。ちなみに俺は御門先生派だ。

 手すりにもたれ掛かる晴香さんの横に立つと正門から出て行こうとする八上さん一行を見た。

「あの、なんで八上さんを監視するんです?昨日の様子を見る限り、彼女が鬼だってことはないと思うんですけど」

 昨日の憔悴しきった彼女の顔が演技だとは到底思えない。いくら目撃者といえ、彼女を疑うのはお門違いのように思えた。

 すると晴香さんは、はーっとわざとらしくため息をつく。

「これじゃ赤い彗星には勝てないわね、二手先三手先どころか、一手先すら読めてないじゃない」

 いや、別に勝とうと思ってないしとバカにした様子の晴香さんに心の中でムッとする。いいじゃないか、先がよめない坊やでも……。

「別に美津ちゃんが鬼だと言ってるわけじゃない。ただ、私たちの知る限り彼女が出来事の一番近くにいる」

 そう言うと、親指と人差し指を立てた。

「1つ、今回狙われた井上くんは、前日に美津ちゃんに告白していた。2つ、事件はまるで美津ちゃんに見せつけるように、井上くんと接触している時に起きた。この2つは、偶然なのか、それとも意図的なのか、調べてみる価値はあると思わない?」

「まあ、確かに」

 納得いった様子の俺に、晴香さんは、それにと続ける。

「ああ言う子は争いの中心になりやすい」

「……ああ言う子?」

 校門の方を見ると、すでに八上さんたちは校内から出て、帰路を歩き始めていた。

「ふふっ、面白いものでいつの時代も美女は男どもを狂わせるのよ。さ、行きましょ、また嫉妬の炎が燃え出す前に」

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陰陽鬼 @rakusei2

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