最終話あなたに届ける音となれ

 文化祭が終わり、世間はもうすぐハロウィン気分になってくる頃だった。彼はいつもと変わらなかった。

私は彼の告白現場を見てた事を彼に見られたので、話しかけづらかった。せっかく仲良くなったのに、このままではだんだんと疎遠になってしまう気がした。


「最近、話してないけど何かあった?」


友達が彼の方を見ながら言った。友達に私が彼のこと好きなことを話してないが、何となく知っていそうなので全部話した。


「あちゃー、それは話しかけづらいね。で、いつ告るの?」

「さすがに失恋した相手に告白するのずるい気がする……」

「もー、恋は早い者勝ちだよ!君の好きな彼は、いつ誰が狙ってるか分からないんだから!」


「バッキューン!」と手を銃を形にして、私に向けてきた。


「きっと、いい結果になるよ!」


友達は満面の笑みで部活に行った。告白かー、彼といい雰囲気になったらするつもりだったけど、今するのはちよっと怖いかな。

だけど、友達の言葉が頭に残っていた。



午後5時、日が落ちるのも早くなり、学校全体がオレンジ色に包まれていた。

誰もいない教室で、私は帰る準備をしていた。扉が開く音がした。そこには彼がいた。目と目が合う。私は彼に何か話しかけようとした。


「あっ、あの――――」

「あのさ、実は告白成功すると思ったんだ。同じ部活だし、よく話すし。でも、違った。初めから俺の事を何も見てなかった。俺が過ごした時間は無くなった。だけど、俺にはあの人しかいないんだよ。」

「……」


彼から話しづらい内容を喋って来るとは思わなかった。

どうして私に話すのだろうか。彼は私に何を求めてるのか。なんて声をかければいいのだろう。


「そのままでいいんだよ。好きな人はそのままで。諦めないでいたらなにか起こるかもしれないから。」

「そしたら、ずっと忘れられない。俺はあの人の心からいないのに。」

「忘れなくてもいい。君の気持ちはずっと残したっていい。この世界は広いのだから、新しく好きな人は見つかると思う。」

「そうかもだけど、新しく好きな人ができるのは、申し訳ない気がするんだ。」

「好きな人は何人いてもいいんだよ。同じくらい好きなら。」

「…………俺はもう少しこのままでいくよ。ごめん。なんか急に話だして。今度奢るよ。」

「……」

「……」

「それじゃあ、私の心臓の音聞いてくれる?」



2人きりの教室で私たちは背中を合わせた。床に三角座りをして、頭と頭、背中と背中が合わさる。彼の方に少し体重をかける。

背中に彼の温かさを感じる。私と彼の心臓が交互に鳴る。彼の心臓の音に集中する。無言の時間がゆっくりと流れる。君を近くに感じられる時間は幸せだった。



「私の音、聞こえる?」


私の心臓の鼓動は少し早かった。君に1番届けたい音だった。


「小さいけど聞こえるよ。」

「私もちゃんと聞こえてるよ。」

「なんか恥ずかしいな。」

「そうだね。」


しばらく静かになる。不思議と気まずさを感じなかった。今の時間に会話は必要なかった。ゆったりとした時間が流れる。

オレンジ色だった校内はすっかり暗くなってしまった。


「そろそろ帰ろっか」


彼は反応しなかった。何か考えているようだった。ちょっと心配になったので、聞いてみた。


「どうしたの?」

「――俺は2人きりで話して楽しかった。だから、その遊びに行かない?遊園地とか、水族館とか。」

「私も楽しいよ。きっと、遊園地とか水族館とか行ったら、考えられないぐらい楽しいと思う。けどね、それよりももっと――」


私と彼は似ている。そう、多分彼も同じことを言うと思う。これが私の幸せだから。


『君の音を聞かせて』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の音を聞かせて 佐竹やのふ @SatakeYanohu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ