みずようび

安良巻祐介

 たぽ、たぽ、たぽ…と奇妙な足音を立てて、小人が僕の部屋に何人も入り込んできた。

「なんだこりゃ」

 思わずつぶやいた僕へ、きちんと横一列に並んだ小人どもは、声を揃えてこう言った。

「我らは、雨の精」

「雨の精だって」

 言われてみれば確かに、青みがかった薄い肌をして、同色の服を窮屈そうに着込み、何より雨の日の軒下の、あの少し気の滅入る様な匂いを、芬々とさせている。

 部屋の照明を反射してきらきらと白く光りながら、どこか昆虫のような印象を与える小さな目も、何やら窓ガラスに付着する水滴と通ずるところがある。

「それで、その雨の精が、何の御用だい」

「決まってる」

 即答であったので聊か面食らったものの、

「決まってるなら早くしてくれ。俺は本を読んでいたんだ」

 と、はっきり答え返した。

 昔話などでもそうだが、この手のやつらと、まともな議論が出来ると思うよりも、できるだけてきぱきと切り返して、うやむやにしてしまうのが一番だ。

「雨がやることは、一つ。降ることと──景色を隠すことだ」

 自称雨の精がそう言うと共に、ざあ、という音が響き渡り、部屋の中はあっという間に、湿気に満ち満ちた。

 読書がてら開いていたパソコンは、ぎゅう、ぎろぎるぎろと奇妙な音を立てて、ダウンしていく。

 わあ、なんてことだ、と慌てるより先に、雨の精たちが、続けてその青い体を閉じた窓のあちこちへ、護謨のように伸ばして、張り巡らして、部屋を封鎖し始めた。

「あっ、おい、何をする」

 言いかけたが、時すでに遅し。

 雨の精を名乗る奴らは、来た時と同じように唐突に、青い体を「概念」のようにして、そのまま僕と僕の部屋とを、青い幕の向こうへと隠して、誰からも見えなくしてしまった。…

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みずようび 安良巻祐介 @aramaki88

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