成功を祈る

naka-motoo

成功をお祈り申し上げます

 泣いても喚いても決して思い通りにならないことがある。

 そんなの人生の中では当たり前のことだ。わかりきってて、それでもどうしてもそれだけは許せなかった。


「それは叔母さんの自由だよ。ご神木を信じるのも信じないのも」

「ちょっと待ってよ。信じるも信じないもない。あなたのお父さん・・・つまりわたしのお兄ちゃんは、そのご神木の神さまのお怒りをに鎮めてもらったからこうして生きてるんじゃないの。そうじゃなかったら、あなたも生まれていないのよ?」

「ぼくはいじめに遭って、それを耐えたことでこうして研究者になることができたんだ。それはのお陰じゃない。ぼくがいじめを克服して人類のためになる研究をしているのは、ぼくに対する神さまからのご褒美さ」

「ちょ、ちょっと!お父さんもお母さんも何か言ってよ!」

「・・・この子が研究者として成功しているのは、いじめに遭ってそれを耐えたご褒美だ。この子の言うとおりだ」

「・・・じゃあ、わたしは?わたしはなんなの?」

「オマエはいじめに遭ったけどこうして生きてるじゃないか」

「・・・死ななかったから生きてるだけよ」

「バチが当たるぞ!感謝しなさい!」

「ふざけないでよっ!じゃあ、この子がを全く無視してるのはなんなのよ!お父さんとお母さんも、ご神木の神さまにご無礼をはたらいたっていうこと、もう忘れちゃったの!?それをが教えてくれて、人間業でなく神さまに新しいご神木にお移りいただくようにお願いしてくださったから、お父さんもお母さんも生きてるだけじゃない!お父さんとお母さんが特別に心がきれいだからとかいい行いをしたからとかじゃなく、のお慈悲にすがってやっとかっとで生きてきただけじゃない!この子だって、この子だって・・・」

「叔母さん。どういう考え方をするかとかどういうモノを信じるかっていうのはその人の自由だよ。だから叔母さんがを信じてるのは、別にそれでいいんだよ。構わないんだよ」

「『信じる』なんて言葉を使うなっ!信じるも信じないも、がわたしがこの世に生まれることを促してくれて、そもそもお兄ちゃんやお父さんやお母さんが生き延びることができたのも、が神さまにわたしたちの代わりに謝ってくださって、すべてのことが収まるようにはからってくださったからじゃないの!お兄ちゃん!お兄ちゃんはに背中をさすってもらって、それで死ぬところを助かったんじゃないの!」

「そういうことを信じるのも、オマエの自由だよ」

「お兄ちゃん・・・・」


 だからわたしはもう自分の思い通りになることは、もう、いらない。

 逆に今更思い通りにならない方がいい。


 そうした方が、が永遠に駄々をこね続けることになるから。


 自分の好きな学問をして、自分の好きな仕事に就いて、自分の好きな会合に出て、自分の好きな場所に暮らして、永遠に自己実現をしつづけてちょうだい。


 墓は朽ちる。

 仏壇は蜘蛛の巣が張って位牌は崩れ落ち。

 神棚の榊は替えられずに水が腐り。


 このまま、物理的な家もろとも消え去っていく。


 それが失敗じゃないというのなら。

 あなたたちので永久に成功しつづけてちょうだい。


 わたしはこのままこの地に埋もれ朽ち果てて参ります。


 なるかんにんは誰もする

 ならぬかんにんするのこそ

 まことのかんにんと皆さんよ

 とかくこの世はかんにん土


 さようなら


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