翌朝には前日の記憶を全て失ってしまう、美しい女性。
そんな彼女を、ただ自分の欲求を満たす都合の良い道具のように買った主人公。
彼女と暮らすうちに、彼女に対する彼の思いは少しずつ違う色合いを帯びていきます。
けれど——彼女の心には、何も積み重ならない。
不幸も、幸せも。
そんな静かな切なさが、胸を締め付けます。
愛というのは、お互いの心に暖かなものが積み重なるからこそ育つもの。
当然のように記憶が積み重なる私たちがつい見落としてしまうそんな大切なことを、はっきりと目の前に突きつけられたような気がしました。
大切な人と幸せな記憶を積み重ねることの意味を気づかせてくれる、深い余韻に満ちた物語です。