記憶を踏みつけて愛に近づく

作者 侘助ヒマリ

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★★★ Excellent!!!

翌朝には前日の記憶を全て失ってしまう、美しい女性。
そんな彼女を、ただ自分の欲求を満たす都合の良い道具のように買った主人公。
彼女と暮らすうちに、彼女に対する彼の思いは少しずつ違う色合いを帯びていきます。

けれど——彼女の心には、何も積み重ならない。
不幸も、幸せも。
そんな静かな切なさが、胸を締め付けます。

愛というのは、お互いの心に暖かなものが積み重なるからこそ育つもの。
当然のように記憶が積み重なる私たちがつい見落としてしまうそんな大切なことを、はっきりと目の前に突きつけられたような気がしました。

大切な人と幸せな記憶を積み重ねることの意味を気づかせてくれる、深い余韻に満ちた物語です。

★★★ Excellent!!!

好都合と思っていた条件が、刻を経ていくうちに形を変えていき。
最後には寂しさとほのかな幸福だけが残る。

人の心がその気持ちひとつで、残酷にもなり愛にもなり得る。
こんなにも両極のものへと変化していく様子が、端的でかつ直線的に伝わってくる切ない物語。

他の作品では味わったことのない読後感でした!!

★★★ Excellent!!!


 どんなに酷い仕打ちを受けても、翌日には記憶を失ってしまうという奴隷を買ったのは、その奴隷が美人だったから。
 毎朝彼女に事実を告げ、その絶望を煽り、凌辱し、自らの嗜虐を満たす男。だが、いつからか、何かが変わり始める。

 失われてゆく記憶と、積み重なる記憶。
 消えてしまう真実と、紡ぎだされる嘘。

 厳しい現実と幻の愛。
 本当に残酷なのはいったいどちらであろうか? 読者に想像させる余地を十分にとっているだけに、心に響く短編です。