第7話 一蓮托生
「ちょっと!一体何が…!」
木の上から地面に落ちた時についた制服の泥を気にする様子もなく、メイは後から自分と同じように落っこちてきた七輝に詰め寄ろうとする。しかし彼は近づくその口を右手でふさぎ、反対の手で自分の口に人差し指をあてる。
「むぅー!むぅー!」
唐突に自分の口をふさがれたメイはうめき声をあげてなお抵抗する。
(バカ、静かにしろ!俺たちがまだここにいるってバレる!)
顔を近づけメイの耳元で七輝がそうささやくと、そのまま固まったようにメイは動かなくなる。
相当の距離を一瞬で詰めてきたような相手ならば、そのまま壁を越えこちら側に来ることなど造作もないだろう。油断がなくなった軍人にもうさっきのようなまぐれはない。そんな最悪の予想が当たらないように二人はじっと息を殺す。
その状態のまま少し二人でじっとしていると壁の外から足音が遠ざかっていくのを確認することができた。
「ふーっ……何とか撒けたけど…これ俺は後で個別に出頭コース確定だな……はぁ……ん?」
「貴様またやりやがったな……」
耳まで真っ赤に染まったメイが恨みがましく七輝の方をにらみつけていた。
「なんだよ?」
「いいえ~?べっつに~?何でもないですけど~?自分の胸に聞いてみたらどうですか~?」
やけに含みのあるメイの言葉が気にかかったが、なにはともかく二人は学校に潜入することには成功した。
「それって普通に犯罪じゃないですか」
「やっぱりそう思う?」
先に放り投げたカバンを回収したのちとりあえず校舎に向かおうと、二人がうっそうとした森の中を歩き出し、その道すがらいきなり口をふさいだ状況の説明を求められた七輝が事情を話したとき一通り話を聞いた後にメイが漏らした素直な反応であった。
「いやー、相手の服がモロ軍服だったし軍人だってわかってたからつい癖で最初に手が出ちまったんだよ」
「なんですかそのエラい物騒な癖。もしかしなくとも長波さんって相当ヤンチャしてきた人ですか」
いきなりのサイコ発言に若干メイが引く。
もしかしてこの潜入作戦の相棒として隣を歩く人物と一緒にいるのはイロイロ間違っているのではないかと思いだしていた。
しかし今さら別行動に、というのもなんだか申し訳ない上メイ自身もこの学校の地理は学校紹介のパンフレットでざっと眺めただけで明るくない。
結局、
「はあ……私も腹をくくります!死なばもろとも!一蓮托生!プリーズヘルプミーオンリー!」
「おい、最後だけなんか違ってたよな???」
いよいよメイがこのサイコ野郎を生贄に捧げても自分だけは遅刻を回避するべく覚悟を決め大声で決意を叫んだとき、うす暗い森の先に光が見えた。
「おっ、どうもあそこでこのうっとおしい森ともおさらばできそうな感じか」
「おおっ!あれ!あれ!おあつらえ向きにすぐそこに入り口がありますよ!」
メイはそう言い終わらないうちに光の先の校舎に向かって駆け出していた。
「あっ!オイ、ちょ、ちょっとまて!俺を置いていくな!」
そして森を完全に抜けたときに、七輝の目の前には本当に学校かと思うような巨大な真っ白な校舎が目に飛び込んできた。
「うおっ……なんだこれ…でっか……」
デカい。遠くから眺めていた時にも大きいとは感じていたが、こうして目の前に立つとその大きさが身に染みる。全面純白の外壁があたえる威圧感はまるで要塞の前に立っているような気分であった。
「俺も今日から毎日ここに通うことになるんだよな……」
改めて七輝は自分の入った学校がどれだけの物であるかを認識する。すると自然身が引き締まる。
しかし、そんな七輝の感傷はメイの自分の今の立場をわきまえていない大声で彼を呼んだことでブチ壊された。
If魔術世界 ちょこさんど @tyolosando
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。If魔術世界の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます