第39話 盗賊団討伐作戦 ~終幕③~

 血飛沫を上げながら、シオルは後ろに倒れ込んだ。


「嘘だろ…?シオル様が…。」


「魔力も使えない状態で、あの3人を…。」


「ありえねぇ…。やべぇよ。逃げろ!」


 戦いを見守っていた周りの盗賊達は一斉に騒ぎだした。

 その中に、一人だけ先に逃げ出そうとしている奴が目に映った。


「クソ!ありえねぇ、なんだあいつらは…!」


 逃げる男に気付いたミユが出入口まで駆け出し、剣を構えて、その男を捉えた。


「バンディ!あなたは絶対逃がさない!『力の解放』ウィスリベロ!」


「なっ、勇者!?くそ!そこをどけぇ!」


 ミユは身体と剣に金色のオーラを纏わせ、剣を振りかざす。

 逃げる男も両手に4本ずつ針を持ち、ミユに向かって投げつけた。


『聖なる煌剣』エクスカリバー!」


「がぁ…!!」


 ミユは力強く剣を振り下ろし、その剣から放たれた金色に光る斬撃が投げられた針を吹き飛ばし、男を捉えた。

 その斬撃で男は縦に真っ二つになって、左右に倒れた。そして、その男の服から光る玉が転がった。


 ―何やってんだ、ミユの奴。やけにムキになってたけど、なんかあったのかな。…まぁいいか。問題無さそうだし。


 俺はミユを横目に、ポーションをシオルにかけた。

 すると、シオルの致命的な傷が癒えていく。


「こっちもさっさと終わらすか。おい、起きろ。」


 俺はシオルの傷が癒えた事を確認して、頭をつま先でつつくように蹴る。

 すると、シオルの目がうっすらと開いた。


「…何だ?俺は生きてるのか?」


「生きてるぞ。寝惚けてねーでさっさと起きろ。」


 俺がそう言うと、シオルはゆっくり起き上がり、俺が斬った箇所を手で抑える。すると、傷が治っている事に気付き、声を上げた。


「…?!傷が無くなってやがる。おまえが治したのか?」


「あぁ、おまえには聞きたい事がいくつかあるからな。とりあえず、勝負は俺が勝ったんだ。負けたおまえには拒否権も黙秘権も無い。そうだろ?」


 シオルは視線を落とし、ふてくされた様な態度に変わる。


「わざわざそのために…。ちっ。聞きたい事ってなぁ一体何だ。」


「なぜ俺達は魔法を使えなくなった。そのカラクリはなんだ?」


「あぁ、ありゃ魔導具だよ。最高神アヌが残した聖遺物らしい。とくしゅな結界を張って、その中にいる者は魔力と神力、それに耐性やスキルまでも封じられちまう。あそこに転がってる玉がそうだ。」


 シオルはそう言って、ミユが先程斬った男の方を指差した。

 そこにはソフトボール程の玉が転がっている。その玉は光をなくし、透明に変わっていた。


 ―あれか。また神が絡むのか、厄介な魔導具だな。後で回収しとくか。


「それで、なんでおまえらはスキルや魔法が使えたんだよ。」


 俺が再び問いかけると、シオルは自身の首に掛かるペンダントを見せてきた。そのペンダントは黒い金属でできていて、盾の形をしており、その中央に紫色の小さな石が埋め込まれていた。


「これも魔導具なんだが、これは冥界神ハデスが残した冥遺物だ。状態異常から封印まで、あらゆる術を無効化する力を持ってる。」


 ―これも神の作った遺物か。次から次へと。めんどくせー。


 俺はため息混じりに、次の質問を投げ掛ける。


「次はおまえについてだ。何故盗賊なんかやってる。」


 俺がそうきくと、シオルは視線を横にずらし、言い淀む。


「…おまえには関係ない話だ。」


 だが、俺は構わず質問を続ける。


「そうだな。だが少し興味が湧いた。おまえの今後を決める話だ。正直に話せ。」


 俺がそう言うと、暫く沈黙が続いた。


 暫く俺がシオルを見ていると、シオルは諦めた様に、深いため息をついて話し出した。


「…捨てられたのさ。国にな。」


 シオルは自身の過去を話し出した。


 シオルは元ソル王国の騎士だったそうだ。当時の五天将の火天の補佐をしていたそうで、それなりに真っ当に生きていた。


 ある時、魔人と呼ばれる者と当時の火天が戦い、敗れて死んだ。


 その時、シオルが次代の火天を継ぐ話になった。


 シオルは火天を継ぐつもりだったが、突如、当時の火天を、魔人と共謀し、殺したという疑いがかけられ、幽閉される。

 その時、現火天のミハエルに外に連れ出され、一人の所を襲われたが、丸腰で太刀打ち出来ず、命からがら逃げ出した。


 その後は国に戻る事もできず、盗賊に身を落とした。


 それがシオルの過去だ。


 ―それが本当なら魔人騒動もミハエルが黒幕だな。さしずめ、火天の座を狙っての犯行ってとこか。


「ミハエルの奴に復讐するまでは死ねねぇ。そう思ってたんだかな…。」


 シオルは自身の過去を話した後、倒れている盗賊達を見て、小さくそう言った。


 ―当時の出来事はミハエルが一枚上手だったな。力こそ世界の真理…。こいつが言ってる事もなんとなく理解できる。どの世界でも人の世は理不尽で不平等って事か。


 俺がシオルを見てそう考えていると、シオルは静かに目をつむり、口を開く。


「もう聞く事がねぇならさっさと殺せ。」


 ―覚悟はできている…か。


 だが、俺はシオルの言葉と覚悟を否定した。


「いや、おまえは殺さない。国まで連れて行く。殺すかどうかはそこで決める。」


 俺がそう言うと、不意に後ろからミユが話に入ってきた。


「ちょっと、あんた何考えてるの?こいつは盗賊団の頭目なのよ?!」


「お、元気になったみたいだな。おつかれさん!泣き虫ミユちゃん。」


 俺はミユの言葉を聞き流して、肩を二回軽く叩き、笑顔を作って見せた。話に入られると面倒だと思ったからだ。


 ミユは顔を赤くして、俺の言葉を否定する。


「なっ…!誰が泣き虫だ!」


「え?だって、さっき泣いてたじゃん。いやー、おまえにも女の子らしい部分があったんだな!なかなか可愛かったよ。」


 俺はミユの泣き顔を思い出し、笑みを堪えきれなくなって、ニヤニヤしてしまった。


 ミユは余計に顔を赤くし、大声を張り上げる。


「な!!かわいい…!?…ちょっと待って。それ、どうゆう意味よ!あんた、私より年下でしょ?あなたはもう少し目上の人間に敬意を払うべきだわ!」


 ―はぁ?なんでいきなり歳の話になるんだよ。


 俺はミユの言葉に少しイラッとしてしまい、言い返してしまった。それが良くなかった。


「俺に助けられた挙げ句、ビービー泣いてたくせに、よく言うぜ。大体なんで年下ってわかるんだよ!たいして変わんねーだろ!」


「あからさまにあなたの方が子どもじゃない!私は17よ!あんたこそいくつなのよ!」


「おい、それは見た目の事言ってんのか!?確かに、俺は16で年下だが、おまえみたいな口の悪い女には敬意なんてはらわーん!」


「なんですって?!女の子みたいな顔して、背も低いじゃない!どう見たってあなたの方が子どもでしょ!それに、あなたがムカつく事言うから言い返してるだけよ!」


「なにをぅ?!」


「なによっ?!」


 俺とミユはいつの間にか口論になり、お互いガンを飛ばし合った。ミユに言い返すと長くなるとわかっていたのに。失敗だ。


 それを側で見ていたシオルがため息をつき、呆れた様に口を開く。


「…おい、仲良いのはわかったからよ、とっとと話を進めてくんねーか?」


「仲良くねー!」

「仲良くない!」


 俺達は同時にシオルを睨み、口を揃えて言い返した。


「…息ぴったりじゃねーか。」


 シオルはもはや冷めた目をして俺とミユを見ていた。


 すると、今度はフローラがこちらを見て、おかしな事を言い出す。


「…ショウ様は16歳…。あぁ、もう結婚できるお歳なのですね。」


 ―あれ、ちょっと待て。何言ってんのこの子。目が怖いんですけど。ってか16歳じゃ結婚できねーだろ。


 俺が困惑していると、再びミユが口を挟んできた。


「…あんたねぇ…、こんな小さな子までたぶらかすなんて、何考えてんのよ!」


「たぶらかしてねぇわ!フローラも変な事言うなよ!」


 だが、フローラはお花畑へいってしまったようで、俺の声は届いていないようだ。


「あと三年、いえ、二年お待ち下さい。そうすれば、私も結婚できる歳になります。そしてショウ様に相応しい女性へ成長してみせますから!」


 ―おいぃ!人の話を聞いてくれ!ここ盗賊のアジトですから!


 すると、リトラがフローラの肩を軽く叩き、声をかける。


「フローラ殿。残念だが、見るにフローラ殿では無理な気がするぞ。」


 ―おぉ!意外なところに味方が!そうだ!俺にそんな気はないと言ってやってくれ!


「リトラ様?それは一体なぜでしょうか?」


 フローラはリトラに振り返り、泣きそうな顔で聞き返す。


「うむ、主殿は大きいのが好みのようだからな。フローラ殿ではちと…な。」


 リトラは自身の胸を掴み、真面目な顔でフローラに口を開く。


 ―あれー?なんの話ですかー?


「…リトラ、おまえ何言ってんの?」


「おや?違うのですか?我やリオ殿と話す時、チラチラ見ているではありませぬか。」


 ―おふっ。バレてる…。じゃなくて、おまえ何サラッと爆弾放り込んでんだよぉぉ!リオもリオでモジモジしないでくれ!


「いや、待て待て!違うんだ!」


 俺は背後に殺気を感じ、急いで振り返った。そこには般若の如き顔をしたミユがいた。


「…クズめ。あんたも盗賊達と一緒に処刑されるべきだわ。それとも今ここで死ぬのがお望みかしら?」


 ―えぇ?!死ななきゃいけない程の事?!


 ミユは剣を鞘にしまったまま、ゆっくりと上段に構える。

 だがフローラは構わず俺の服を掴み、泣き出しそうな目で見つめてくる。


「ショウ様…私ではダメなのですか…?」


 ―え?ちょ…。


 リトラも笑いながら自身の胸を持ち上げ、おかしな事を言い出す。


「我は身も心も主殿の物。いつでも好きにして良いのですぞ!」


 ―ちょっと、ま…。


 リオは下を向き、モジモジしながら小さく呟く。


「…ショウ様が望まれるのなら…。」


「やっぱり今ここで死ねー!『聖なる煌剣』エクスカリバー!!!」


 ミユの剣は俺の頭頂部にクリーンヒットし、俺はゆっくり地面に倒れた。

 この時、やっぱりこの世は理不尽と不平等でできていると改めて思った。


「…俺はこんな奴に負けたのか…。」


 シオルは額を手で押さえ、小さく呟いた。




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悪食錬成士の異世界道中記~生きるためなら魔物だって食べられます~ ヲ太 @kawasho777

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