第38話 盗賊団討伐作戦 ~終幕②~

 シオルと盗賊二人は一斉に動き出した。


 ラダーはシオル達の後ろに下がり、杖をかざす。

すると、シオルともう一人の盗賊の身体が紫色に光だした。


 ―なんだ?二人の気配が強くなってる。能力向上系の魔法か?


 俺は不思議に思ったが、シオルが俺に狙いを定め、真っ直ぐ向かってきたのが見えたので、思考を中断した。


「俺の相手はおまえがしてくれんだろ?」


 シオルはそう言って、大剣に炎を纏わせ、俺に振り下ろした。

 それに合わせて俺は横に飛んで、距離を取った。その隙に三人のステータスを覗き見る。


 ラダー (ヒューム) Lv 78 ジョブ 魔術師ウィザード

 HP 5600/5600 MP 8200/8200

 攻撃力 410 防御力 430 魔力 880

 器用さ 780 素早さ 460 成長度 8.4

 耐性 毒Ⅴ 麻痺Ⅴ 暗闇Ⅵ 混乱Ⅲ 恐怖Ⅴ 沈黙Ⅳ

 スキル 高速思考Ⅴ 魔力操作Ⅳ 暗視Ⅵ 魔力譲渡Ⅴ

命中補正Ⅴ 火術Ⅴ 水術Ⅴ 雷術Ⅴ 風術Ⅲ

土術Ⅴ

  EXスキル ーーー

加護 闘神の加護


 ゴラン (ヒューム) Lv78 ジョブ 戦士ウォーリアー

 HP 8000/8000 MP 3800/3800

 攻撃力 810 防御力 760 魔力 430

 器用さ 580 素早さ 490 成長度 8.5

 耐性 麻痺Ⅵ 暗闇Ⅵ 毒Ⅴ 混乱Ⅵ 魅力Ⅴ 恐怖Ⅵ

 スキル 威圧Ⅵ 暗視Ⅵ 狂戦士化Ⅵ 剛力Ⅴ 鉄壁Ⅴ

斧術Ⅷ 体術Ⅴ 盾術Ⅴ 

 EXスキル ーーー

加護 闘神の加護


 ―シオルはLv100。大した事はないけど、EXスキルと加護を持ってるのか。それに他の二人も加護持ち。なるほどな。ミユが負けた訳だ。


「はっはぁ!」


 そんな事を考えていると、ゴランという盗賊の声が聞こえ、そちらに目をやった。

 すると、リオに攻撃を仕掛けている所が目に映った。


 ゴランは笑いながらリオ目掛けて、斧槍ハルバートを勢いよく振り下ろす。

 だが、振り下ろされた斧槍はリオには当たらなかった。

 リオはタイミングを合わせて身体を横にずらし、簡単に避けていたのだ。

 リオにとっては欠伸が出るほど遅い一撃だったのだろう。


「ほう。今のを避けるか。だが姉さん、あんた槍士ランサーなんだろ?得物も持たずに、俺とどう戦うつもりだい?」


 ゴランは笑いながらそう言って、斧槍を肩に担いだ。


 しかし、リオに焦る様子もなく、冷めた顔をして口を開いた。


「…あぁ、槍ですか。お気遣いなく。必要無いと思うので。」


「…姉さん、そりゃ俺を舐めてるって事かい?」


 ゴランは赤いオーラを纏い、額に血管を浮き上がらせて、斧槍

 の矛先をリオに向ける。


 それを見たリオは何も言わず、ただ、ため息をつくだけだった。


 一方、リトラはというと、少し苦戦しているように見えた。

 ラダーという魔術師は、空中に浮き上がり、様々な属性の魔法をリトラに向かって撃ち込んでいる。

 そのせいか、ラダーに上手く近付けないようだ。それに、リトラは時折、自分の手を見つめて困った顔をしている。


 ―何やってんだあいつ。あれくらいなら問題無いはずだろ。


「よそ見してんじゃねーよ。」


「どわっ?!」


 俺がリトラを見ていると、シオルが俺の首をめがけて斬り掛かってきた。

 俺は上体を反らし、ギリギリ避けた。ただ、少し炎に驚いて、反射的に変な声が出てしまった。


「…こんのやろう。あぶねーじゃねーか!」


 俺は少し恥ずかしくて、照れ隠しに叫んだ。だが、シオルはあまり気にしてないようだ。


「そんなに仲間が気になるようなら、早く俺を倒して加勢に行ったらどうだ?」


 シオルは大剣を肩に担ぎ、余裕な表情でそう言った。


「そうだな。ならそうさせてもらうわ。」


 俺は魔力を込めて、魔法を使おうとしたのだが、なぜか魔法が発動しない。


 ―あれ?なんでだ?!


「どうした?何か困り事か?」


 シオルはその様子を見て、ニヤッと笑い、大剣を振り下ろす。


 俺は横に飛び、それを避けた。


「…おい、何しやがった。」


 俺はシオルを睨みながらそう聞いた。

 だが、シオルは鼻で笑い、答えを濁す。


「さぁな。ただ、おまえが今相手にしているのは騎士や戦士じゃねぇ。盗賊だ。どんな手を使ってでも勝つ。それが俺達だ。」


 ―よくわからんが、どうやら魔法を封じられたみたいだな。『神魔眼』も機能しない。恐らく、リオとリトラもだろうな。


 リトラが自分の手を見て不思議そうにしていた理由がわかった。だが、正直言えば、魔法が使えなくても大した問題じゃない。魔法が使えれば楽だったってだけの話だ。

 それに、これは殺し合いだ。卑怯もクソもない。


「…おまえらの美学はよくわからんが、どんな手段を使おうが別にいいんじゃねーか?命のやり取りなんてそんなもんだろ。」


「はっ!勇者の仲間と聞いて、おまえも、『正義』を語る口かと思ったが、そうでもねーようだな。」


 ―『正義』ね…。俺にはよくわからねーな。


「…そんなもんは周りの奴等が勝手に決めればいい。俺は『正義』だの『悪』だのに興味はねぇんだ。気に入らない奴は殴るし、仲間に手を出す奴は叩き斬る。それだけだ。」


「あめぇな。気に入らない奴も叩き斬ってこそだろ。」


「俺は盗賊じゃない。分別ふんべつくらい弁えてる。」


「それじゃあ、俺には勝てねーよ。」


「どうだかな。」


 俺は刀に手を添え、腰を落とした。


「お前の剣に足りないのは全てを斬り捨てるというだ。それがそのまま強さに変わり、力となる。それこそがこの世界の真理。選んだ者しか斬らないお前の剣じゃ、全てを斬る俺の剣には勝てやしねーんだよ!」


「誰彼構わず斬る事を強さとは言わねーよ。自分より弱い人間を見下したいだけのただの傲慢だろ?」


「はっ。ならこれではっきりさせようじゃねーか。おまえの剣が正しいのか、俺の剣が正しいのかをよ。」


 シオルはそう言って真剣な眼差しに変わった。それは先程までとは違う、本気の殺気。


「正解なんざどっちでもいいが、そうだな。そろそろ終わりにするか。」


 俺も刀を握り、抜く体勢をとる。


「いくぜ!『金剛力』、『力の解放』ウィス・リベロ!」


 先に動いたのはシオルだった。

 シオルは身体に金色のオーラを纏い、さらに腕にはそのオーラが巻き付いていく。


「俺の行く手を阻む奴は全部斬り殺す!『甕速火神』ミカハヤヒノカミ


 シオルの大剣は炎で金色に輝く。その熱で、あたりの温度が一気に上昇する。

 その熱く燃え上がる大剣を、シオルは全力で振り下ろした。


 ーーー


「あっちも決着のようだな。こちらも終いにしようか、姉さん。」


 ゴランは俺とシオルのやり取りを見て、口を開いた。


「そうですね。飽きてきたので終わりにしましょう。」


 そのゴランの言葉に、リオは小さく欠伸をしながら、答えた。


「槍も魔法も無いおまえには止められねーぞ!『剛力』、『力の解放』ウィス・リベロ!くらえ!『絶対の破壊』アブソリュート・クラッシュ


 ゴランも金色のオーラを纏い、今度はニタッと笑った。

 次の瞬間、宙に飛び上がり、落下の勢いと共に斧槍を振り下ろした。


「死ね!女ぁ!」


 しかし、リオは避ける素振りもなく、身体を回転させ、後ろ回し蹴りの要領で右足を振り上げた。


 斧槍の柄とリオの靴底がぶつかって、轟音が響き、リオの軸足を中心に、足下が大きくひび割れた。


「蹴りでこの技が止まるとでも…!」


「はっ!!」


 ゴランが言葉を投げ掛けている途中で、リオは更に力を込めた。


「なにぃ?!」


 その瞬間、リオの足下は割れ、破片が飛び散る。それと同時にゴランの持つ斧槍が手から離れて、吹き飛んだ。


「あなた程度に、槍も魔法も、必要ありません。」


 リオはただ冷静にゴランに向けてそう言い放った。


 ーーー


「どうしました?避けてばかりでは勝負になりませんよ?」


「はぁ…主殿に新技を見せようと思ったのだが、魔力が使えないのでは無理だな…。」


 リトラは小さくため息をつき、足下の小さな小石を軽く蹴った。


 それを見たラダーは少し苛立ったように、口を開いた。


「…戦いの最中ですよ?ふざけているんですか?」


「…いや、真面目にやっておるぞ。だがもう諦めるとしよう。」


 リトラは首を横に降りながら、口を開く。


「…諦めましたか。では望み通り、これで殺して上げます。『力の解放』ウィス・リベロ『岩塊』ザ・ロック!」


 ラダーも金色のオーラを纏い、両手を掲げ、直径15メートルはあろう巨大な岩の塊を作り出し、それをリトラに向けて落とした。


「そうだな。少し残念ではあるが…。」


 そう言ってリトラは巨大な岩石に向かって真っ直ぐ飛び上がって、左の拳で殴りつけた。

 すると、岩石は粉々に割れて石の雨を降らせた。


「なんだと?!」


 ラダーはそれを見て、驚くあまり、リトラを見失ってしまう。


「クソ、どこだ?!」


「これで終わりだ。」


 リトラはそのままラダーの真横に高速で移動し、右手を強く握り締めた。


 ーーー!!!


 それはほぼ同時だった。


 ショウは刀を鞘走らせ、横凪ぎに大剣を斬りつけた。その瞬間、シオルの大剣は真っ二つに折れた。


 リオは軸足を瞬時に切り替え、今度は左足を振り上げた。その蹴りは自由落下してくるゴランの顔面を捉え、ゴランは首を変な方向に曲げ、吹き飛んでいった。


 リトラはラダーの顔面を殴り、地面へと叩き落とした。もうスピードで地面に激突したラダーは、地面にめり込んだ。


 二人の盗賊がリオと、リトラによって、同時に倒された。そして、シオルの大剣も俺が叩き斬った。

それは勝負がついた瞬間だった。


「終わりだな。ミユを斬った借りは返させてもらうぞ。」


 俺がそう言うと、不意にシオルが俺を見て、小さく口元を緩ませた。


 ―?!


 俺は一瞬戸惑ったが、すぐに刀を両手で持ち直し、上段に構えた。


「いけー!ショウー!」


「ショウ様ー!」


 俺の後ろからミユとフローラの叫び声が聞こえる。


「クソが。おまえの勝ちだ。」


 シオルは笑いながら俺にそう言った。その言葉を合図に、俺はシオルを左肩から斜めに斬りつけた。

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