第37話 盗賊団討伐作戦 ~終幕①~

 ―負けた…やっぱり守れなかった…。


 私が薄れ行く意識の中に見たのは、私を切り捨てた盗賊団の頭目、シオルの笑みだった。


 ―悔しい。けど…。


 私は悔しさの反面、どこかホッとしていた。『勇者』という重圧から解放されると思ったから。


 ―みんな、ごめん。私には無理だった。けど私、頑張ったよね?もういいよね?


 真っ暗な視界の中に複数の人物の顔が浮かんだ。それは、両親と、私がこの世界に召喚されてから、初めて組んだパーティーメンバーだった。


 現世で私はとても身体が弱かった。両親は優しかったけど、ずっと病院にいて、友達も兄弟もいなかったから、仲間と呼べる存在が出来たとき、とても嬉しかった。


 メンバーの皆は、とても良い人達だった。誰も知らない世界で、初めてできた仲間達。とても大切な存在だった。

 しかし、アルマロスという、黒い翼を持った魔人に殺されてしまった。


 圧倒的な実力差に、手も足も出なかった。そして私だけ生かされた。


「これは、神からの試練です。乗り越え、強くなりなさい。あなたが本物の勇者と成った時、もう一度お会いしましょう。」


 アルマロスが最後に私に言った言葉だ。

 私は決めた。仲間の仇を討ち、平和を取り戻すと。


 それから私は誰とも組む事はなかった。


 一人でドラゴンも倒した。多くの命を救ってきた。けど…。


 ―…もう疲れちゃった。私も今からそっちに行くよ。


 段々浮かんだ者達の顔がはっきりとしていく。その者達の顔はとても悲しそうな顔をしていた。


「来てはダメ。」


 そう聞こえた。


 ―どうして?何故そんな顔をするの?守れなかった私を恨んでいるの?


 私はわからなかった。仲間達が、何故私を拒絶するのか。


「あなたまだ死なない。諦めちゃいけない。目を覚まして。」


 今度はそう聞こえた。まだ私に戦えと?


 ―無理よ。私には何も守れない。


「大丈夫。あなたは一人じゃない。目を開いて良く見て。」


 その言葉が聞こえた時、辺りがとても眩しくなった。


「さぁ、起きて。もう一度、立ち上がって。『勇者』ミユ。」


 眩しさが増し、皆の顔が消えていく。そして皆の顔が完全に消えた時、元の景色に戻ったきた。それは、先程まで戦っていた、盗賊団のアジト。


 そして、先程までいなかった一人の男の背中が、私の目の前に見えた。


 その者は、銀色の長い髪をなびかせ、大量の返り血を浴びた白いローブを羽織っている。

 その手には真っ白な刀が握られ、私に振り下ろされたであろうシオルの大剣を受け止めていた。


「俺のダチに何してんだよ。」


 ローブを羽織った男がシオルにそう言った。聞き覚えのある、憎たらしくも、どこかホッとする声。


「…ショウ?」


 ―来てくれた。


 私はその姿を見て安心した。これでみんな助かると。そう思った瞬間、涙が止まらなくなった。


 ショウはシオルの腹部を蹴り、勢いよく吹き飛ばした。

 そしてこちらに振り返り、ニコっと笑った。


「フローラを守ってくれてありがとう。よく頑張ったな。後は俺に任せろ。」


 ショウは私にポーションを振りかけてくれた。

 痛みがどんどん無くなり、あっという間に傷が癒えていく。


「ショウ、私…。」


 私が口を開くと、ショウは遮るように私の涙を指で拭い、口を開いた。


「心配すんな。必ず助け出すよ。おまえも、フローラも。」


 ショウが私にそう言うと、不意に怒声が聞こえてきた。


「てめぇ!おい、このガキがどうなってもいいのか!?」


 フローラを掴んでいる盗賊は、シオルが吹き飛ばされた事に動揺したのか、フローラにナイフを突き付けて叫んでいる。


「その子を早く離せ。じゃないと死んじまうぞ?」


 ショウは戸惑う事なく、盗賊に振り返り、そう言った。


「てめぇ…何言ってやが…!!」


 ショウがそう言った瞬間、部屋の入口から白い一筋の光が飛んでいき、フローラを掴んでいた盗賊に突き刺さった。その勢いで盗賊は声を上げる間もなく吹き飛ばされ、壁にはりつけにされた。


 見ると、その盗賊には真っ白な槍が突き刺さっており、その時盗賊の手元から離されたフローラを、紫の髪をした女性が抱え混んで救出していた。


「だから言ったじゃねぇか。って。」


 ショウは呆れたような顔で、飛んで行った盗賊を見る。


 ―あの槍は?!


 私がその盗賊を見ていると、女性の声が二つ聞こえてきた。私は入口の方に振り返り、その正体を確認する。


「やはりショウ様もこちらにいらしたのですね。」


「フローラ殿!無事か!?」


 部屋の入口から一人の女性がゆっくり歩いてくる。そして紫の髪の女性がフローラを抱えながら声をかけている。


「やっぱりお前達も来たんだな。考える事は一緒か。」


 ショウはその二人の女性を見て、うっすらと微笑む。


「リトラ様!リオ様!」


 フローラは驚き、二人の女性の名を叫ぶ。


「なんなんだこいつら!」


「侵入者だ!見張りはどうした!?」


 突然の乱入者に、辺りはざわつき始め、所々でそんな怒声が聞こえる。


「…うるせーなぁ。俺達は盗賊団討伐隊だ、馬鹿野郎。」


 ショウがそう言うと、辺りは一気に静まり返り、盗賊達は震え上がった。中には、気絶する者もいて、ドサドサと複数の倒れる音が聞こえる。


「…盗賊団討伐隊だ?いきなり現れて何を言い出すかと思えば…英雄ごっこでもしてーのか?」


 静まり返った空気の中、そう言ったのは、先程、ショウに蹴り飛ばされたシオルだった。


 シオルは赤いオーラを纏いながら、ゆっくり立ち上がった。


「あいにく、俺は英雄だの正義だのに興味なんかねーよ。俺はそんなもんのために剣を握っちゃいないんでな。さっきはああ言ったが、ぶっちゃけ、盗賊団討伐ってのも今となっては、ただのついでだ。」


 ショウはシオルに向き直り、冷静に返答する。


「なら、何しにこんな所までてめえらは来たんだよ。」


 シオルはその言葉を聞き、額に血管を浮き上がらせて、再度問いかける。


「おまえらは俺のダチを傷付け、泣かせた。だから斬る。これは悪だの正義だのと言った大層な話じゃない。俺らに喧嘩売って、助けてもらえるなんて思うなよ?」


 ショウがそう言うと、再び空気が震える。そしてショウはそのまま剣先をシオルに向けた。


「…いいねぇ。ならとことん売ってやろうじゃねぇか。てめえらこそ、生きてここから出られると思うんじゃねーぞ。」


 シオルは怯む事無く、口元を緩ませた。

 すると、二人の盗賊が壁際から歩み出て、シオルの両脇に立った。


「シオル様、あの娘共は我々にお任せを。」


「ガハハ。久しぶりに暴れてやるかぁ。」


 二人の盗賊もまた、ショウに怯む事なく、笑みを浮かべている。


「ショウ様。あの二人は私共にお任せ下さい。」


「そうです、主殿。我にも譲って下され。」


 それを見たリオとリトラはショウに声をかけ、また、二人もショウの両脇に立つ。


 リトラから下ろされたフローラは私の横で行く末を見守っている。


「フハハハ。始めようぜ、第二局目をよ。」


 シオルは声を出して笑い、そう言った。


「何言ってんだ。これで終幕だよ。」


 ショウもそれに反応し、うっすらと笑みを浮かべる。


 ショウとシオルのその言葉を切っ掛けに、盗賊団討伐作戦の幕を下ろす戦いが始まった。



















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