奇妙な話2【幽霊上司】1000字以内
雨間一晴
幽霊上司
「お兄さんがぶつかったせいで、俺の携帯電話が壊れちゃったじゃないですか?」
二人組の、いかにも不良といった、金髪の若い男達が、深夜の人気の無いコンビニ前で、スーツ姿の男に言い寄っている。手に持つ携帯電話は不自然に機種が古く、折り畳めるボタン式の物だった。
「あの、本当すみません……」
「あー?お前なめてんの?これ高かったんだよね、十万で許してやるから、早く出した方がいいよ?」
「すみません、本当に……。うわぁ!で、出た!」
スーツの男が地面にへたれ込み、若い男達の後方を指差した。
「う、うわあ!」
そこには、スーツ姿の眼鏡をかけた、おじさんが浮いていた、膝から下が透けている。
若い男達は、倒れそうになりながらも、その場から逃げ出した。
「はは!やりましたね、先輩!」
「はー、傑作だったな」
「それにしても、俺だけ足が無いとか不公平だよな」
「交通事故の時に足無くなったからじゃないですか、ウケますね」
「笑えないわアホ、お前も一緒に死んだのに不公平だ」
「良いじゃないですか、そっちの方が幽霊っぽくて」
「良くないわ、何で幽霊なんかになっちまうんだよ、成仏させてくれ」
「先輩、事故の前に、別れた彼女に、もっと優しくしとけば良かったって、泣きながら話してたじゃないですか、可愛い未練ですよね」
「お前、もう一度殺されたいのか?未練がある俺なら分かるが、お前が幽霊になる意味が分からん」
「俺は、その……。そんな泣いてる先輩に、もう一度彼女さんと、復縁させてやりたかったんですよ。俺、先輩のこと、尊敬してますから」
「お前……」
「嘘ですけどね」
「はい、殺す」
「はは、こうなった以上仕方ないですし、幽霊の可愛い女子でもナンパしに行きましょうよ、それとも、元彼女に会いに行きます?」
「こんな姿で会いに行ったら、余計に嫌われるだろ……。そうだな、第二の人生として、幽霊美女を捕まえに行くか!」
「さすが先輩、そうこなくっちゃ。でも、足がある俺の方がモテるでしょうけどね、はは」
「お前、生まれ変わったら、本当殺すからな」
「はは、成仏出来たなら、そうして下さいよ」
「何も変わらないお前を見てると、死んだ実感が無いから困る、早く行くぞ、同じように死んだばかりで、困ってる美女が居るもしれないからな」
「はいはい、もう死んでるんですし、無礼講で早い者勝ちですからね」
二人の幽霊は笑いながら、道路の闇に溶けるように消えていった。
奇妙な話2【幽霊上司】1000字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu
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