奇妙な話1【俺のリボルバーが火を噴くぜ】1500字以内
雨間一晴
俺のリボルバーが火を噴くぜ
「金がない。決定的な証言が出来れば三百万か。多額の現金を奪い、拳銃発砲殺人なんて日本じゃないみたいだな……」
スーツ姿の男は交番前の、指名手配のポスターを見て呟いた。大学を出たばかりの就活生、マッシュルームカットのあどけない顔が、そう思わせた。
「おい、動くな。そのまま左を向いて歩け。変な事は考えるなよ」
男は背中に硬い物を押し付けられていた。背後を振り向けずにいたが、それが拳銃の先端だと思わざるを得なかった。何も言えずに歩き出す。
「そこを右だ、路地裏に入れ」
路地裏に入ると、男の正面に脅した相手が回ってきた、マスクをして帽子を深く被っている。
「あんた、あの指名手配中の男か?」
「それは言えない、お前、金が欲しいんだろ、五百万やる、手伝え。拒否権は無いがな。ここに入れ」
雑居ビルの扉を開けた。何も無いコンクリートむき出しの床に、血を流した死体が転がっている。男はもう引き返せない事を覚悟していた。
「お前、ここにいてくれ、それだけで五百万やる。お前に渡す金と、死体を運ぶ車を持ってくる、三十分程で戻る。これ持っておけ」
「は、はい。分かりました」
男は拳銃を手のひらに預かった。ずっしりと重そうな銀色が鈍く光るリボルバーだ。緊張で手が震えてリボルバーが揺れている。
「はい、例のビルの一階です。はい」
マスクの男は電話をしながら、さっさと部屋を出て行こうとしていた。
「そろそろ着きそうですか?了解です、後はよろしくお願いします」
マスクの男が一つしかない入り口から出て行くと、ほぼ同時に警察官が一人入ってきた。
「動くな!銃を捨てろ!」
警察官が入ってくるなり拳銃を構えて威圧している、状況の読み込みが早過ぎる。
「やられた、ハメられたか……」
「動くなと言っている!銃を直ちに捨てろ!」
「お巡りさん、これは私の銃じゃないんですよ。誤解です……」
泣きそうな顔で、震えながらリボルバーの拳銃を力無く床に落とした。
「そう、これは俺の銃じゃない」
ポケットから黒いリボルバーを取り出して警官に向けた。手のひらから怪しく黒い銃身がはみ出している。全てが演技だったと思わせるほどの、鋭い目付きに変わっていた。
「お巡りさん、人を撃ったことあるのかよ?俺は撃てるぜ。見逃してやるから、さっきの男が、ここに戻るように伝えろ。分かったら、さっさと失せろ」
「……」
警察官は、少し考えてから何も言わずに、男に銃を向けたままビルの外に出て行った。
「やれやれ、どうしたものかな……」
男は黒いリボルバーをポケットにしまい、床に落ちた銀色のリボルバーを拾って、しばし観察して、いじくっていた。
あまり間も開かずに、静かにドアが開いて、マスクの男が新たな拳銃を男に向けている。男も銀色のリボルバーを構えていた。
「お前、なかなか出来るようじゃないか。うちに来ないか?金なら出すぞ」
マスクの男が探るように尋ねている。
「まず約束の五百万は持って来てないようだな。俺は嘘付きが嫌いでね」
男は迷わずにリボルバーのトリガーを引いた。低い銃声が響いて、マスクの男は床に倒れた。
「いってー……、こんな反動くるんだ。危うく罪を擦り付けられるとこだったが、良い経験をさせてもらった、ほら返すよ。さっさと逃げないと、これで俺が指名手配でもされたら笑えないしな」
マスクの男の手に銀色のリボルバーを握らせてから、男は自分の黒いリボルバーを取り出して、おもむろにドアに向けて撃ちだした。
「俺のリボルバーが火を噴くぜ、か。こんな趣味も捨てたもんじゃ無かったな」
パチンと軽い音が跳ね返り、プラスチックの白い玉が転がっていた。
奇妙な話1【俺のリボルバーが火を噴くぜ】1500字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu
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