婚約破棄された悪役令嬢は下町カラキマシタ

春野こもも

婚約破棄された悪役令嬢は下町カラキマシタ


「リンダ嬢、君との婚約を破棄する! マリアに対する数々の嫌がらせは決して許さんぞ。この悪女め!」


アルフ殿下の隣では小動物系の男爵令嬢マリアがぷるぷると震えている。そして彼の後ろでは両陛下が頭を抱えている。

折しも舞踏会場の外は激しい雷雨であった。


ガラガラピシャーン


突然激しい落雷とともに城に衝撃が走り、その場にいた全員が一瞬だけ意識を失う。そう、殿下とマリア以外は。

その瞬間公爵令嬢リンダは思い出す。自分の前世は日本の下町に住む平凡なJK真琴だ。自分の好みは横綱の笹錦であり、こんな優男は圏外だと。


「なんであんたをその女と取り合わなきゃいけないの?冗談じゃないわ!大体何の証拠があんのよ。そのマリアって子の証言だけで文句言ってんじゃないでしょうね」


そんな言葉が思わず真琴の口から出てしまう。


「煩い! 彼女は天使だ。嘘を吐く訳がない!」


マリアが王子の隣で何度も頷く。

そのときだった。真琴の近くにいた友人のジュリア嬢が突然声をあげる。


「ねえ、あんた婚約者がいるのに浮気しといて何偉そうなこと言ってんだい! このピーマン頭が!」

「その口癖は安田青果のおばちゃん!? あたし真琴だよ!」

「あら、まこっちゃんかい。ロクでもない男と婚約しちゃってたんだね。こんなクズやめときな」


何とジュリアは近所の八百屋のおばちゃんだった。


「これ以上醜態を晒すんじゃねえ、このバカ息子が! うちの真琴に何て真似しやがんでえ!」


突然陛下が立ち上がり王子を糾弾する。


「もしかして、父ちゃん?」

「おうよ。真琴、また会えて嬉しいぜ!」

「え、あんたなのかい?」

「お前節子か!」


王妃様が声をあげる。どうやら両陛下はうちの両親だったらしい。そして静かに事態を見守っていたふくよかな騎士団長ジークが手を差し伸べる。


「リンダ嬢。もしよければ私の手を取っていただけんでごわすか?」

「もしかして貴方は笹錦様……」


彼は何と横綱笹錦だった。好みドストライクな彼の手を真琴が取らない訳がない。


前世の真琴の町は突然の隕石の落下で大勢の死者を出した。だが住民全員が乙女ゲーム『愛が止まらない・春場所』の登場人物として転生し、先程の落雷で皆一斉に前世の記憶を取り戻したのである。笹錦は丁度真琴の町へ巡業に来ていたのだった。

リンダを陥れようとした罪で、王子は廃嫡となりマリアは修道院へと送られた。その後真琴と笹錦、そして下町の住人達は王国でいつまでも幸せに暮らしたのだった。




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婚約破棄された悪役令嬢は下町カラキマシタ 春野こもも @yamadakomomo

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