第5話
「まさか番を偽るとは………はっきり言ってこれはここだけの話では終わらないよ?」
ガタガタ震え始めたディアナに、伯爵夫妻も声をかけれなかった。
場合によっては国家反逆を企んでると思われても仕方がないからだ。
「この国では君が彼の番だと知られ過ぎている。まぁ初めに間違えた彼にも原因の大半はあるのだけど……」
チラリとみたジークは何とも情けない顔になっていた。
「しかし、君は訂正することもせず、堂々とそれを利用した。国は自分の国で見つかった番を材料に、有利になるよう取引をするつもりだったが、今回の件で反って不利になることは確実………彼はモナートでは重要人物だからね……あと、そうだねぇ……彼の国は番をとても重要視している。 もしかしたらその事を馬鹿にされたと思われて今後国交すら危うくなるかも………ねぇわかってる?ホントにバレないとでも思ってたの?それはなんて………愚かで浅はかな考えなんだろうね」
(人を騙すにはそれなりの覚悟を持たないと……私たちはそこまで番に対して執着はないけれど、その価値観で軽く考えて接してしまったのか一番の原因ね……自分の美貌ならバレても問題ないと本気で思ってたのね……相手を馬鹿にしすぎだわ…)
オルディナは黙って成り行きを見ていた。
まぁ口を挟む隙もなかったというか……呆れていたというか……
「まぁ君がこのまま彼女を迎えるっていう手もあるけど?」
「誰がこんな女!」
あれほど仲むつまじく寄り添っていたのに、ここまで嫌悪をあらわにするとは…よほど騙されたことに腹にすえかねたのだろう………当然だ。
(人を騙すってことは心のどこかで相手を下に見てるってことだもの……騙されるほど愚か…ってね)
「そっそんな!それなら娘は…娘はどうなるのですか?!」
伯爵夫人が涙ながらに訴えてきた。伯爵は両手をきつく握りしめ俯いていた。
「さぁ………それこそ切り捨てたらどうですか?」
「「!!!」」
二人が驚愕に目を見開いた。
「えっ…だって貴女方はたかだか妹を追い回したと言うだけでオルディナを追い出したんですよね?……それも簡単に」
最後の方が威圧感たっぷりの低音になり、二人は一気に顔を青ざめさせた。
「ほら?簡単でしょ?……家名に泥を塗るどころか国に泥を塗るような女ですよ?」
「いやぁぁぁぁっ!……お…お願い、お父様……お母様……助けて」
楽しそうに提案するクロイドに、ディアナは涙を溢れさせながら伯爵夫妻に泣き縋った。
それに伯爵は何も言えずに顔をそらしただけだった。
「そっそうよ!オルディナ…貴女はジーク様と一緒になるのだから、ディアナの事を助けてあげてちょうだい!」
「えっ嫌ですよ」
「「「へっ?」」」
名案を思い付いたとばかりに伯爵夫人がオルディナに訴えたが、彼女がそれをすぐに否定したことにより伯爵夫妻とディアナは間の抜けた顔になった。
「だから私を呼び戻したのですか?……妹の尻拭いをさせるために……」
「あっ……貴方の大事な妹じゃないの!私たち家族でしょ?」
「私が昨日追い出された時点で縁は切れたはずでは?」
オルディナの言葉に伯爵夫人は黙りこんだ。
「いくら私の番の妹と言えど、それは難しいだろう。それなりに罪は償って貰わねば」
両腕を組みウンウンと頷いているジークにも爆弾を落とした。
「そもそも私……貴方と結婚なんてしませんが?」
「なっ!」
今度はジークが間の抜けた顔になったが、オルディナはそれを無視して隣に座るクロイドの手を握った。
「だって私…彼と結婚しますから……」
オルディナは幸せそうに微笑んだ。
それにクロイドも満足そうに微笑んで、そっと彼女の手を撫でた。
二人の甘い雰囲気に納得のいかないジークは、立ち上がってクロイドの胸ぐらを掴んだ。
「貴様っ!」
「止めてください!」
オルディナの一言でジークの服を掴む手が弛んだ。
「何故……私は自分の両親のように番を得るのが夢だった……何故……」
「………初めて夜会で合ったとき、私は貴方が番だと認識しました。でも貴方はディアナに手を差しのべた。後ろにいた私に気づかなかったのだと思い、彼女の横に並んだけれど、貴方は私を一瞥しただけ………」
「それはっ!」
「えぇ貴方は間違いにすぐに気づいたんでしょう?」
「そっそうだ!それなら……」
「そういうことではないのです……貴方は二人並んだときに、本当の番か確かめることもせず、見目の良いディアナを選んだ」
「だが私の本能は君を選んでいたんだ!顔を合わせる度に香りは彼女からするのに、何故か胸が締め付けられたのは君だった。番ではないからと、それに気づかないようにしていたんだ!でも今ならわかる……君が本当の僕の運命の番だったんだ!」
「………ええっと……貴方は本能で私を選んでいたって言いますけど、それを上回る理性でディアナを選んだのでしょう?見目の良い彼女を……」
「違っ……」
「往生際が悪いぞ」
黙って聞いていたクロイドが、不快感もあらわに口を開いた。
「だいたい君はディアナに手を出したのだろう?今さら何を言っても無駄じゃないか?」
「それは騙されていたからで……」
「私に胸を焦がしていたのに?結婚もしていない男女が?……私の中では妹に手を出しておいて何を今更です」
オルディナにも指摘され、ジークは力なく座り込んだ。
(これで次期公爵なんて大丈夫なの?……まぁ番が絡まなければ優秀だと聞いているし、まぁ他国のことだしね……)
置いてきぼり状態の三人に視線を向けると、ビクッと怯えたように肩を震わせた。
「ええっと……」
「あぁもうこの事は国に報告済みだから」
にっこり笑って止めを指したクロイドに、三人はもう虫の息だ。
「本当は他国のことに首を突っ込みたくはなかったんだけど………一応オルディナの育った国でもあるし、彼女が濡れ衣を着せられたままなのは癪だったからね」
クロイドは立ち上がってオルディナに手を差し出した。
その手をとって立ち上がった彼女は何も言わずに部屋をあとにした。
玄関につくと、そこには自分の味方をしてくれていた使用人たちが並んでいた。
「「「「「どうかお幸せに」」」」」
深く頭を下げて言われた言葉に目頭が熱くなる。
クロイドはそんなオルディナの頭を優しく撫でて、「君たち…今後この屋敷はどうなるかわからない。よかったら来るかい?」と彼らに告げた。
弾かれたように頭をあげた彼らは戸惑いを見せるも、すぐに「「「「ありがとうございます」」」」 と再度深く頭を下げた。
「ありがとう……」
「愛しい婚約者のためなら」
クロイドの提案に感謝を伝えると、彼は茶目っ気たっぷりにウィンクしながら答えた。
◇
それから二人は煩わしさから逃れるようにグランドヘルムの学園に移った。
やはりきちんと卒業したいという彼女の希望に答えて─
彼を狙う令嬢たちはたくさんいたのだが、彼は一途に彼女を思い、他人が入る隙を与えなかった。
そして、卒業するとすぐに二人は結婚した。
結婚するまではグランドヘルムの国境沿いに、何度もジークが突撃してきてクロイドを苛つかせたが、それも結婚すると落ち着いた。
どうやら親の決めた相手と結婚するらしい──
レイティスト家はと言うと──
あの後爵位と領地を取り上げられ、家は取り潰しとなった。
国に与えた損害を考えれば当然だろう。
ディアナに関しては、本人に国を謀る意志がなかったことから、王宮にて5年の無償労働が課せられた。
ただ、事情を知るものからは冷たい目で見られ、今までもてはやしていた人々も一気に手を引き、針の筵だったらしい
さらにその5年の間に行き遅れとなったディアナだったが、それでも美貌は残るもので、どこかの強欲な商人に囲われたとか…囲われていないとか……
とりあえず…(完?かな)
黒鳥は踊る~あなたの番は私ですけど?~ @callas
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