第3話ーーおっさんはチートをGETする


「これは邪神召喚の陣にゃね……ふむ、わかったにゃ!!」

「うおおおおぉっ!邪神転生キター!テンプレキター!」

「ヒッ!」


 ネコの言葉におっさんは大喜びだ。部屋の隅で三角座りのままにモジモジしながら喜んでいた――まるでそれは肌色のデカいスライムのようで気持ち悪かった、ネコが悲鳴を思わず上げてしまうほどに。


「……盛り上がっているところ申し訳にゃいけど邪神転生ってにゃんにゃ?これは邪神を呼ぶための魔法陣で、お前はそれに捧げられた生贄にゃ。まぁそれは失敗したようだけど……お前はどこかで拾ってきて捧げたんにゃね。ただ頭の打ちどころが悪かったせいで色々忘れちゃったり、記憶の混濁があるようにゃ」

「いやいやこれは邪神転生でしょ、うん。ふはははは……」


 ネコの言葉など無視して1人大盛り上がりである――確かにおっさんはこの世界にとっては邪神かもしれない、それは残念な意味でだが。


「ちょっとこれを見てみるにゃ」


 呆れた表情をしたネコは、背負っていたリュックから何やら丸い物を取り出すと、おっさんに近付きそっと渡した。


「えっなに?」

「見てみるにゃ」

「えっーと、鏡だよね?」

「そんなマヌケ面の邪神はいにゃいにゃ」


 ネコは辛辣だった……

 つまり「テメェのような間抜け面が邪神なわけないだろ」と言いたいらしい。あまりにもなストレートすぎる言葉に、おっさんはまた固まってしまっている――おっさんもどこかで思い当たる節があるのだろう、きっと。


「いやいやいや、顔は関係ないで……おおっ!?若返ってる!?……この感じは10年くらいか?」


 マジマジと鏡を見つめていたおっさんだが、ふと叫んだ。そしておもむろに自らの指をおでこに宛てた……その広さを確かめるように。そう、おっさんの若返った判断はおでこ……つまりアレの事である、ハ〇具合を確かめたのだ。それで正確な年数を割り出すとは、かなり気にしていたようだ。

 実は身体も以前より小さくなっているのだが、額の事ばかり気にしていておっさんは気付いてもいなかった……


「冷静に見ているとかなり面白いにゃね。どういう混濁でこんな事ににゃっているのか。一体何を覚えていて、何を覚えていにゃいのから。そういえば里に研究しているやつがいたにゃね……モルモットとして売ればいい銭ににゃるかもにゃ……でも足でまといはまといにゃね」


 ネコはネコで何やら不穏な事をニヤケ顔で呟いていた。


「とりあえずモンスターではない事を信じてやるにゃ。それでにゃんていうにゃまえにゃ?」

「海野浩二、38歳……いや若返っているから28歳かも?」

「結構な歳にゃね……コウジにゃね。ポーはポーにゃ」

「とりあえずにゃんか着るにゃ」

「そうは言われても服なんてないし……」

「その辺のボロでも着ておけばいいにゃ」


 ポーと名乗った猫は近くの遺体から服を容赦なくひっぺがすと、おっさんに放り投げた。


「って魔法袋があるにゃね……おおっ、9つもあるとはよかったにゃ。中身は……服もあるにゃ、こっちを着とくにゃ」


 死体から剥ぎ取った服に嫌悪感を抱きつつも、いつまでも裸では居られないと覚悟を決めて着ようとした時だった、ポーが新しい服を投げた。それを受け取ろうとしたおっさん、慌てたために持っていた服を落としてしまい、更には両手を伸ばしたために立ち上がった状態ですっぽんぽんとなった。つまりここまで頑なに隠し通していた股間が丸見えという事である。


「変なモノを見せるんにゃにゃいにゃ!とっととその貧相で粗末な汚いモノを隠して着るにゃ!」


 おっさんも見せたくて見せたわけではないのだが……ポーの言葉にショックを受けていた。

 男とは誰しも大きさを気にしたりするものである。誰もが『WOW!BIG UTAMARO!!』とか言われたいと思ってたりするのだ。特にそれは若ければ若いほど、経験が浅ければ浅いほどその傾向は強くなる。そしておっさんは後者に該当していたりするのだから、かなり凹む結果となったわけである。


 肩を落としてドボドボと部屋の片隅に行くと、服をいそいそと着込む。時折チラチラとポーの視線を気にしながら……その姿は年頃の女子のようである。

 中年男の生着替えに需要などどこにもない事を理解して欲しいものだ。


「ちょっと手を見せるにゃ……うーん、剣は握った事なさそうにゃね」


 着替えが終わったおっさんを呼びつけ、両手のひらをジロジロと検分したポー。戦えるかどうかを確かめていた。


「自分の魔力量とか覚えてるにゃか?」

「っ!やっぱり魔法とか魔術とかあるの!?」


 おっさんは目を輝かせた、夢にまで見た魔法の存在に心躍らせていた。

 ライトノベルを漁って読んでいたおっさん、古武術は使えなくとも魔法さえあれば俺だって!なんて日頃から無駄に小説の中の主人公たちに張り合っていた悲しい人間なのだ。それが可能となるかもしれないと喜ぶのも無理はない。


「そこも覚えてにゃいにゃか……あるにゃよ魔術も魔法も。うーん、面倒にゃね」


 対してポーは呆れたような疲れたような顔をしていた。話が通じず何も覚えていない相手など、ポーでなくとも誰もが敬遠するのは当然の事だろう。


「にゃ……その魔法袋はコウジの物にゃ。じゃあまた機会があったらどこかで会うにゃ」


 9つ中4つの袋をおっさんの手元に放り投げ、片手を軽く上げてから踵を返して歩き始めた――どうやらお金より面倒くささが勝ったようだ、見捨てる事にしたらしい。それでも半分の魔法袋を渡したのはきっと優しいのだろう。


「ちょっ!ちょっと待って!!見捨てないで!!助けてっ!」


 状況に気付いたおっさんは必死である。自分の腰までしかない大きさのポーの足に腕を絡めつけ、必死に追い縋る――そりゃあそうだろう、ここで放り出されたらすぐに野垂れ死にするのは目に見えているのだ、恥も外聞もなくなるのは当然だろう。


「ちょっと離すにゃよ……魔力を測る準備するにゃから」


 困った顔をしてポーは背負っていた荷物を降ろし、中から紙と万年筆らしき物を取り出し、何やら作業をしだした。

 そして何も知らぬおっさんに向けて、ゆっくりと語りだした。


 ポーの説明はこうだった。

 まず魔力とは誰もが持っているものである。全ての生物の体内には、心臓のちょうど反対側に作成器官を備えており、その形は袋を3つ纏めたような物だ。1つは袋の中に魔石と呼ばれる魔力を生み出す石がある。1つはその作成された魔力を全身に送り出す役目を持つ袋。1つは生まれた魔力の余りを貯めておく蜂の巣状になった袋だ。その魔石の大きさと貯め込む袋の大きさと細さが、その者の魔力量を決める。


 ここまで聞いておっさんは一気に不安になった。それは当然だ、地球に生きていてそんな話を聞いた事はなかったし、そのような器官は存在しなかったのだから。となると、己が魔法を使える可能性など存在しないと思えるのだ。

 だが異世界転移したその身、額も狭くなった事だし、言葉も何故か通じる事だしと、僅かな夢に期待を寄せる事にした。


 ポーの話は続く。

 魔法とは、体内魔力を意志により放出する事により起こす事象全ての事を指す。体内に流れる魔力量を増やせば身体能力は上がるし、体外に放出すれば様々な効果を生み出せる。明確なイメージと放出出来る魔力さえあれば、どんな事でも起こす事が出来るという事だった。そこには詠唱などは必要ないらしい。

 では魔術はというと、文字や図を書き記す事により事象を起こす事を指す。特に道具などに使用される事が多い。だが魔術に使用する文字は古代語で、未だそれは解明されていない為に発掘物に描かれている物のコピーしか出来ないとの事だった。


「よしっ、書けたにゃ。ここに手を置くにゃ」


 ポーが差し出したのは、二重の円を包むように幾何学模様がある明らかに魔法陣といった物だ。また二重の円の間に文字があり、円の真ん中には細長い四角が10個書かれた紙だった。


「ポーは魔術が得意なの?」

「そうにゃよ。これでも知る人ぞ知る、有名な魔術師にゃ」

「へー、凄いんだね」

「にゃ、ポーの書いた魔紙ましなんて、市場に出せばとんでもない値段が付くにゃから、有難く思って使うにゃ」

「それはそれは……では有難く使用させて頂きます」


 うやうやしく紙を受け取って、マジマジと見るおっさんだったが、すぐに驚いた表情を見せた。


【ココに手を置いた者の総魔力量を示す紙である。真ん中にある四角を用いて10段階で示す事とする。塗りつぶされた四角が多ければ多いほど魔力量は多い。1の最大を縦10m・横10m・高さ10mの土壁を生み出す量とする】


 そう、書かれている言葉は思いっきり日本語だったのだ。


「これが古代語?」

「そうにゃ、5〜6種類の文字が使われているから意味不明にゃ」

「えっと……読めるんだけど?」

「にゃっ!?にゃ……にゃにを言ってるにゃ、ポーでも読めないのに、にゃんで読めるにゃか!!」

「いや、これは俺の居た世界の言葉だし」

「本当に違う世界から来たにゃか?……でも……いや先祖返りかもにゃ……うーん」


 頭をかかえるポーと、ドヤ顔のおっさん。

 おっさんはここぞとばかりにドヤってた。小さく「チートきたっ」と拳を握りしめていたりもした。


「見捨てなかったポーはさすがにゃ、金の卵が落ちてたにゃ」


 などとポーはポーで小声で呟き顔をニヤケさせていた。

 お似合いの2人である……出会うべくして出会ったとも思えるほどだ。


「おうっと、とりあえず魔力を測ろうか」

「そうにゃね、魔力の量によっては戦い方を考えにゃいといけないにゃ」


 とりあえず古代語の件は後回しにする事にしたようだ。おっさんとしては更なる魔力チートを求めていただけなのだが。


「では手を置きまーす……うわあああっ!」


 浮かれた声を上げつつ紙に手を置いたおっさんだったが、すぐに悲鳴を上げる事となった。なぜなら紙が突然燃え出したのだ。


「な、なんで?」

「にゃ……滅多にないけどたまにいるにゃよね、この術では測れないほど多いにゃよ」

「キタコレ!魔法チート!!」

「さっきから言うチートの意味がわからにゃいけど、それだけ魔力があればモンスターが出ても戦えるにゃね」

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おっさんの異世界無双夢物語 マニアックパンダ @rin_rin_rin

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