第7話 来客者



 少女は沈黙を耐えた。



 店主は黙ったままなのだ。いったいいつまでこうしているのだろうか、少女は残された時間を考え始めたのだ。こんなところでじっとしている場合では無いと。




ついに沈黙を破ったのは、耐えきれなくなった少女の方だった。





「あの……。母の様子を見たいんです。もう帰らせていただきます。」



 少女の言葉には力がこもっていた。



「大変申し訳ございません。お待たせしてしまいましたね。」


 店主の言葉が終わると同時に電話がなった。


 ジリリリリリリンッ…。



 電話は店主が出る前にすぐ切れてしまった。



「あの…電話切れちゃいましたね。なんだったんでしょう?予約ですか?」



「まあ、合図と言うべきでしょうか。」


「合図?……一体何の?」


 

「呼び鈴の様なものです。……すいません。お客様がご来店する様なのでお席を開けていただけますでしょうか。大変申し訳ございません、とても大切なお客様なのです。」



「あっ…すいません。タイミングが悪くて。そうですよね、何か悩みの様な事も依頼しにきたりしますよね…プライベートな事に私がいては……私、今度こそ帰りますから!」



「いえ、その必要は無いのです。」


「え?」


 ジリリリリリリンッ…。もう一度電話がなり「到着されました」と店主は立ち上がった。


 慌てて席を立ち、ドアが開いたその先を少女は見つめた。









 ドアの先には見覚えのある姿がこちらを覗いている。少女は驚きに声が裏返る。


「おっ、お母さん!!??」



 そう。ドアの先に立っているのは少女の母親なのだ。



「お母さん!何でここに……」



 驚く少女の言葉には母親からの返答がなかった。







 「初めまして、なんでも代行屋へようこそいらっしゃいました。私がこの店の店主です。」



「此処は一体…」



「どうやら、貴女はこのお店の話を知っていた訳ではないのですね。強く願った為に現れた。貴女の願いが強さを増した為に…ドアが現れたのでしょう」



「貴方は……此処は一体何なんですか?貴方は何を言っているんだがさっぱり…」



「気味がわるいですか?」



「ええ…そりゃあ…これは夢なんでしょうか?」



「いいえ、夢ではありませんよ。そして貴女が気味悪がるのは仕方のない事です。此処へいらっしゃるお客様は皆、気味が悪いと言った顔をしていますから。ですが安心してください。貴女が強く願い、ドアが現れた。ただそれだけの事ですから。」



「お客……。代行屋とは何をしているお店なのですか?」



「代行屋ですから、なんでも願いを代わりに叶えてあげますよ。」



「なんでも?」



「ええ。貴女は強く願っている事があるはずです。それを叶える為に今ここにいる。」



「私の……願い…。」




 少女は母の願いを知っていた。母は常々口にしていたあの願いを、きっと依頼する。だがそれは少女には辛く悲しい事であった。



「それではご説明を…」



店主が再び母親に話し始めたその時、少女は遮る様に声を上げた。



「お母さん!!!…………お母さん、私よ!気づいて!私は平気よ……お母さんが元気でいてくれたなら…」



 だが、少女の熱心な呼びかけにも母親は応えることはなかった。

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代行屋 まだ名前が無い鳥 @ugly-duckling

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