第6話 時間



「落ち込ませてしまいましたか?申し訳ございません。ですが、何れにせよ貴女は受け止めなければならない日が来ます。」


 少女は落ち込みはしたが、店主の言葉に妙に納得していた。説明の付く事ばかりだからだ。


「いえ、ありがとうございます。落ち込まないわけではないんです。驚きもしました。でも……お母さんに声をかけても見向きもしてもらえない。私はお母さんにとってなんなんだろうって……そのくせ、自分自身の存在が何かなんて考えた事なかった……。」


「自分が亡くなってしまった事をすぐに理解できない人もいます。幼い方なら仕方ない事です。貴女の場合は亡くなられた訳ではないのですが…」


「わたしのタイムリミットはもう間近に迫っているんですね…」


 少女はしっかりと店主を見つめ、はっきりと言葉を交わした。先ほどまでの店主への不気味さは無くなっていた。今ここにいる自分が魂だけの存在だと受け入れたからだろうか。



「私はお母さんに何かしてあげられる事はありませんか?」



 、、、、、。少女の問いに店主は沈黙を続けた。



「あ…あの?…自分で考えるべきですよね…。ただ…何かヒントが欲しくて。私のような方は今までにも来たことがあるんじゃ無いかと思って。」


 店主は黙ったままだ。少女は自分が何か失言をしたのでは無いかと肩を落とした。




「あの………すみません…私!もう帰りますから!ありがとうございました。」


 少女は帰ろうと立ち上がった。その時だ。



「すみません。少し考え事を…。大変お待たせしてしまいましたが…貴女にはもう少しこちらに居てもらいたいんです。」



 店主はやっと口を開いたと思えば、また不思議な事を言うのだ。


「大丈夫ですけど…一体どうして?私の願いは代行出来ないって…私はもうここにいる理由が…」



「貴女がお母様の為に出来る事が何か無いか

と考えていました。ですがとても難しいと思います。」


「そうですよね…。ありがとうございます。いいんです…お話ができて良かったです。自分も思い出せましたし。」


 少女は感謝を伝えた。


「いいえ、まだです。貴女にはまだ知らなくてはならない事があります。」


「え?」


「少しだけ…お時間をください。お茶入れますよ。」


「いえ、私はもう…」


 少女が言い切る前に店主はまた店の奥へ消えていった



「そんなにお茶いらないよ…。やっぱり変な人…」


 少女はクスリと笑うと店の中を見渡した。


「ここは何処なのかしら…。夢の中?魂だけが来たなら…あの世との間?不思議ね…もう何だっていいわ。だって私は魂だもの。」


 店の中にはたくさんの書物がある棚と大きなクマのぬいぐるみ、店主が座っていたテーブルがあり、その上には古い電話と書類のような物がつみあがっている。



「気になるのはぬいぐるみね。とても大きなぬいぐるみ。それもクマさんだなんて、ふふ。とっても可愛い。店主さんの物なのかしら?」


 店の奥から店主が戻ってきた。


「お茶はもういらなかったのに。」


「そうでしたか……失礼しました。」


「ふふ。いいの。ねぇ、店主さん。あのクマのぬいぐるみは貴方の物なの?」


「いいえ。あれはここへ来た人の願いを叶える為に代わりに頂いたお品です。」


「これもお代の代わり?」


「ええ。その方にとって1番大切なお品を頂いたんです。」



「そう…」




 どんな願いだったのか。少女は自分と同じくらいか、もっとずっと小さな子供だったのではと考えた。どんな願いかは分からないが、切なく感じた。

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