第5話 少女と少女
少女は代行屋の店主の不気味さが次第に増していくような気がした。
「教えてください。何か知っているんですね?構いません。覚悟はできているからここへ来たんです。」
「私は答え合わせと言いました。貴女は勘違いをしているとも言いました。それから貴女は記憶が曖昧だともいいましたね。」
「はい。言いました。私は何か忘れているのでしょうか?」
店主は、ふぅ。と浅く息を吐き、少女をじっと見つめました。
「今の話だけを聞けば、貴女の依頼はその少女を母親の代わりに助けたい。と言う事になります。」
「はい…。間違いありません。」
「では申し訳ございませんが、そちらの依頼はお引き受けできません。」
店主は頭を下げる素振りを見せた。
「あの!何故ですか!?病気や怪我の人を助けることが出来ないのですか?!」
少女は少し興奮している。
「いいえ。叶えられない訳ではありませんよ。」
「では何故…。」
「まだ幼い貴方に何と申し上げるのが良いのか、少し気が引けますが…。貴女はその少女の何でしょうか?」
「何?って………」
少女は店主の問いに考え込んでしまった様子。
「待っていてくださいね。」そう言うと店主はまた店の奥へと入って行ってしまった。
―――あの人は…何を言っているのかしら…。私はいったい…。思い出せない…。何も…。
店主なしばらくして戻ってきました。
「お茶のお代わりです。」
「ありがとうございます…。私…何がなんだか」
「ゆっくりでいいんですよ。私と貴女の二人しか此処には居ませんから。」
「はい…。」
「貴女は少女の何か。少女の妹ですか?」
「いいえ。」
「では少女の姉ですか?」
「………いいえ。」
「では…少女の何でしょうか?」
「………。」
少女はまた店主の問いに何も返せずにいる。
「貴女は何故此処へ来たのでしょう?」
「ですから母を助けたくて…。」
「ですが、寝たきりの少女を助けるために母親が願ったのでしたら、此処へはお母様がいらっしゃるはずですよ。」
「それは…そうかもですけど…」
「貴女の願いの方が強かった?」
「そう思います。」
「違いますね。」
「だから何が違うんですか!」
少女は痺れを切らし始めました。
「貴方はさっきから私を遊んでいるように思えます!はっきりと言ってください!」
「失礼致しました。貴女のお母様は確かに代わってあげたいとは思っているようでしたが…願い自体は違うようです。そして貴女は…」
「私は…?」
「貴女は少女そのものです。」
少女は代行屋の言葉に声を失った。
「貴女は病院で横たわっている少女そのものなのです。」
繰り返す店主の言葉から、嘘は言っていないと言われている気がした。
「私…自身…。」
「ええ。」
「それはつまり…その…………いえ……どういった事が起きてるのか…」
「貴女は事故に遭い2年眠っています。そしてもうすぐ命が尽きようとしているのです。」
「今の私はあの少女の魂か何かだと言うのですか?」
「可笑しいですか?」
「いえ…。突然現れたドアが見えたのもそう言われてしまえば妙に納得です…。」
少女は記憶が全て戻った訳ではないが、母に声を掛けても返事がない事が不思議だった。母の精神状態から声が届かないのだと思っていたが、姿が見えなかったのなら納得だと。この時少女は理解したのでした。
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