第4話 依頼とお代



 少女が店主にお財布を持っていないことを告げると、不思議なことを言うのです。



「いいえ、その必要はございません。」








「お代が必要っていいましたよね?お金が無くてもいいって…どう言う事ですか?」



「失礼ですが、等価交換。対価、なんて言葉をご存知でしょうか?」



「値する価格。でしょうか?」



「そうですね…まだ若い貴女には難しいかも知れません。」




 店主は手に持っていたコーヒーを置くと、静かに話はじめました。




「価値、それは価格に値すると書きますよね。人は評価や物の値段に値するサービスを提供しています。だとするならば此処では、必ず願いが叶う、絶対的な価値を頂くのです。」



 まだ少女には店主の話にはあまりピンとこないようだ。



「絶対に叶うのです。神に願いを乞う必要がない。神を信じ神を崇める事は人がよくする事ですが、中々願うように道を指しては頂けない。もし、一生に一度の願いを本当に叶えられるとしたら、、、、、、、あなたは見合った対価を支払えるか?といった話なのですよ。」



 少女は未だにピンときていない様子だ



「なんだか言葉遊びのようです。貴方は少し皮肉を込めているような…わかりません。はっきりと、何が私の願いのお代になるのか?教えてください!」



 店主はため息を一つ深く、深くつくと。



「では、本題です。貴女の依頼の答え合わせをしましょう。」


 店主の顔つきが変わった。少女はゴクリとお茶を飲み干し、店主の顔を見つめ、頷いた。



「改めて、いいえ。貴方から聞くのは初めてですね?依頼をどうぞ。」



「私の…依頼は…。母の願いを代行して頂きたいのです。」



「母の願い、ですね」



「はい。母が叶えたい願いを……代わりに叶えて欲しいのです。母は、自分の娘を失いかけているのです。それはとても不安でいっぱいだと思います。」



「娘を失いかけている。」



「はい。その少女は通学途中に母と手を繋いで歩いていました。いつもの朝です。母の職場は通学途中にあります。少女は母と手を離し、学校へ向かおうとした際に……事故に遭ってしまい…病院で寝たきり…意識がないんです。」



 話している途中に、大粒の涙かポタ、ポタ。



「それは気の毒でしたね。」



「はい。母は目の前で起きてしまった事故に…自分を責めているんです。もうすぐ2年になります。」



「それはそれは気の毒でしたね。」



「はい…私はもう…どんどん弱っていく母を見たくはないんです。」




「いいえ。違いますよ。」


 店主の言葉に驚いた。


「何がちがうんですか?」



「貴女は何か勘違いしているようですね。」



「え?……すいません。よく言っている意味がわかりません。」



「仕方ありませんね。貴女は記憶が混乱している様子でしたから。」



「貴方には何かわかるんですか?」



「ええ。まあ、多少はね。」



 一体何が違うのか、何故初対面の店主にわかるのか、より一層不気味さを増した店主に恐る恐る聞くしかないようです。


「教えてください。何か知っているんですね?構いません。覚悟はできているからここへ来たんです。」


 彼女はギュッと拳に力込めた。


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