第121話 女神見習い、再会を見守る


 早速、家に案内したはいいものの……これもなんやかんやあったけど、やや強引に連れてきたよね……私に続いて門を通ろうとしたエヴェリーナさんは弾き飛ばされた。おっ!見事な着地っ!さすが冒険者!……って違うわ。


 「え?なにこれ……事件かな?」


 しかもエヴェリーナさんは私が何かしたと思ったらしくジッと恨めしそうに見つめてくるが……私はすでに敷地内なのでセーフゾーン←


 「や、やっぱり……あなたっ」

 「いやいや、ちょっと待ってくださいねー」


 やばいって、エヴェリーナさん暴走したらすごくめんど……大変じゃないかぁ。

 さっきから背後に視線を感じてるから多分見てるはずなんだけどなぁ……


 「キュリエルさーん、いったいどういうことかなー?」

 「……だって僕この人、家に入れたくないだもん」


 そこには例のごとく精霊の姿がありましたとさ……しかもぷんぷんしてる。かわいー……


 訳もわからないまま、何度も入ろうとしては弾き飛ばされては見事な着地を決めるエヴェリーナさん。そのたび、ジッと私をみて再チャレンジ……そろそろ止めないと怪我しちゃうし……それになによりエヴェリーナさんの目が据わってきてこわいです。


 「……さて、どうしたものか」


 精霊さんと若干話の通じないエヴェリーナさんのどっちを説得すべきか……ちら。


 「僕、絶対いやだからね!」

 「えぇ……まだ何も言ってないですよー」

 「目が訴えてるもん!」

 「くっ、ばれたか……」


 頑張ってキュリエルの説得を試みるもけんもほろろ……


 こう着状態から数分……工房からユリスさんが帰宅。


 「ど、どうして……」

 「うわぁあん!ユリスー!」


 エヴェリーナさんが泣きじゃくりながらユリスさんの胸に飛び込んだ。

 感動の再会とはいかなかったけど、状況を説明……よし、あとの細かいことはユリスさんに丸投げしてしまおうと心の中で決めた。

 

 「ユリスー!入れないよぉ!」

 「えっ……あぁ」


 ユリスさんは察してくれたようだ……ふたり掛かりで入れない理由を説明するために精霊に一時的に許可をもらう……なんか矛盾してるけど知ったことじゃない。

 これ以上ここで騒ぎを起こしたくないんですよ、ええ。ご近所迷惑ですからね。


 「ありがとう!」

 「約束守ってよねー」

 「はい!」


 ユリスさんはなんかたくさんの条件を受け入れていた。私しーらない。


 家に入れたことでようやくキュリエルを目視できたエヴェリーナさん。


 「な、なんかいるー!」

 「あ、彼はキュリエル。精霊でして……敷地に入れたくないとかでエヴェリーナさんはいれなかったんですよ」

 「そうなんだ……」

 「じゃ、そういうことだからー……出てってー」

 「えぇっ!」


 話が終わった途端、キュリエルが追い出してしまった。

 精霊ぱわーすげー……


 「とりあえず工房へ行こうか」

 「うん、それがいいよー」


 うん、感動の再会の続きは工房でどうぞ。話すことも沢山あるだろうし、誤解も解いてほしいし……ふたりが工房へ向かうのを見送って家へ戻った。


 私?覗き見なんて野暮なことはしませんよ……ただ、その後ふたりの腕には綺麗なお揃いの腕輪がはまっていたとだけ言っておこう。




 それから毎日、エヴェリーナさんのキュリエル懐柔作戦が始まった。


 「精霊さん、入れてください!」

 「いや!」

 「そんなぁ!」


 主に門の中と外で激しい攻防だが。そして、大体このやり取りのあとはキュリエルが姿を見せなくなるのでエヴェリーナさんはトボトボ工房へ戻っていくのだ。


 ある日には……


 「精霊さん、入れてください!ほら、精霊さんの好物だという特製スープ作ってきました!」

 「……それ、食べ物に見えない。不味そう……」

 「そんなぁ……」

 

 成功確実に思われたキュリエルの好物であるお婆さん特製スープはエヴェリーナさんの壊滅的な料理センスによって失敗に終わった。

 こっそりユリスさんが作ろうとするも見破られ撃沈。え……わ、私の方がうまく作れるもんねー。


 そんな日々が続くが最終的にはキュリエルはエヴェリーナさんをからかって楽しんでたよね……その結果、からかいがいがあるという理由で気に入られたのだが、努力が実ったと喜ぶエヴェリーナさんには伝えない方がいいかなぁと思っている。


 キュリエル曰く『今まで我慢してたから、これからいたずらし放題だと思うと楽しみだよ!』……だそうです。なんでも家に入れる条件でいたずらされても文句言わないと約束したそうな。精霊さん、甘く見られたんだね。キュリエルの本気のいたずら……こわすぎるよ。まさに知らぬが仏ってやつだね……


 優しい私はキュリエルにほどほどにねと注意しておきました。

 ……え?そこはやめてあげなよ。じゃないのって?……いやぁ、ちょっと面白そうだったからさ。それにもう約束しちゃったなら仕方ないしね?

 エヴェリーナさんは拠点に荷物を取りに行き、無事入居。同居人が増えましたとさ……ばちばち。もちろん部屋は別ですよ。私の精神衛生のためにも、リディの教育上もね。イチャイチャは工房限定でお願いしますってことで……



 時を同じくして街ではあのかつて『不気味だ』『呪いの家』だと噂されていた家の噂がまたひとつ誕生していた……

 それは何もいない門に必死に話しかけては門越しに何かを手渡している奇妙な女の姿だ。門の中には何もいないのに何を手渡しているのだろう……それは何人にも確認されているという。

 まあ、精霊は普通見えないから気をつけないと変人扱いだよね……


 後にその女が家に住み始めたものだから人々は混乱したとかしないとか。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います 瑞多美音 @mizuta_mion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ