第22話 演劇部の男子会

「そろそろ蓮と大和が来る頃かな?」


 男子会の提案をされてすぐに詩音に2人泊まりに来ることを知らせたら、晩ご飯変更しないといけないじゃんって怒られた。


 やっぱり当日に予定を入れるのはマズかったよなぁ……。


 あとで改めて供物でも持って謝りにいこう。


 何を供物に捧げるかという脳内会議の結果、プリンかアイスかケーキで揉めている最中にピンポーンとインターホンが鳴ったことで会議は中断された。


 良かった、あのままだと乱闘騒ぎになっていたかもしれないし。


 インターホンに設置されたカメラで外の様子が映し出され……ん?


 なんでカメラの画面一杯に山のような上腕二頭筋が写ってるんだろうなぁ……?


『どちら様ですか?』


『僕だ、蒼太!!』


『なんだ、大和の上腕二頭筋か……今日はご主人様っていうか本人は置いてきたの?』


 彼の筋肉はどうやら本体から分離して動ける上に会話出来るらしい。


 これが本当の肉離れってね。


『もうツッコんでもいいよな!? この状況を黙って見てるなんて俺にはレベルが高すぎる!!』


『なんで大和の上腕二頭筋から蓮の声が!? まさか……取り込んだの!?』


『蒼太ぁ!? この状況でお前までボケに回るか普通!? 収集付かねえから戻ってこいやぁ!! お前の居場所はこっちだ!!』


「兄さん、そろそろ近所迷惑になるから……」


「そうだね、ちょっと行ってくる」


 リビングから玄関までの短い距離を待たせないようにとやや小走りで駆け抜け、玄関を開ける。


「いらっしゃい。大和、蓮」


「お前今の流れでよくしれっと真面目な感じ出せたな……お邪魔します」


「いやぁ、すまねえ! 今日は腕のキレがよかったもんでよ、蒼太に見てほしかったんだ! お邪魔します!」


「まぁそんなことだろうと思ってたけど、びっくりするからやめてね?」


「嘘だっ!! 絶対にびっくりなんてしてなかっただろ!!」


 失礼な、普通にいきなり筋肉を見せられたら誰だって驚くに決まってるじゃないか。


「あの……こんばんは」


 パタパタとリビングの方から足音が聞こえたと思ったらひょこっと詩音が顔を出した。


「おう、詩音! 久しぶりだな、元気にしてたか?」


 大和が豪快な手つきで詩音の頭をわっしゃわっしゃと撫で回す。


 お前は親戚の叔父さんか。


 対して、詩音は髪の毛がぐちゃぐちゃになって少しご機嫌斜めみたい。


 まずいな、これは脳内会議で出た案全てが供物に採用されるパターンかもしれない。

 

 まぁ……多分、太るでしょ! 兄さんのバカ! という一言で一蹴される。


「詩音、この人は瀧岡蓮。最近出来たばかりの友達だよ」


「初めまして、妹の詩音しのんと申します。兄がいつもお世話になっています」


「た、瀧岡……れ、蓮です。初めまして……」


「詩音、この人女性が苦手だからどもって気持ち悪く見えるけど、根はいい人だから」


 蓮から肘で小突かれた。

 地味に痛い。


「そう言えば、花音は? まだ帰ってないってことは部活?」


「そうだね、自主練頑張ってるみたいだから、たくさんお料理用意しておかないといけないかもね」


 くすり、と笑いながら詩音は調理に戻っていった。

 本当、よく出来た妹だよ……。


「ほら、蓮。いつまで固まってるのさ。俺の部屋に行くよ」


「僕は先に行ってるぜ」


 詩音が引っ込んだリビングの方をずっと見たまま微動だにしない蓮。


 流石にこれをこのまま玄関先のモニュメントとして飾るのは斬新過ぎるし、早く動いてもらわないと。


「――蒼太……お義兄にいさんって呼んでもいいか?」

 

「なに寝言言ってるのさ、ほら行くよ」


 そりゃ詩音と蓮が付き合っていて結婚するならそう呼ばれても仕方ないかもだけど、今のままだと、ただ俺が蓮にお義兄さんと呼ばれるだけで終わる罰ゲームだよ。


「お前……学校でも家でもハーレムとかふざけんなよ!? 家に帰っても男、学校に行っても男の俺に謝れよ!!」


「リアルで妹と恋愛には発展しないから大丈夫だよ」


「……実は本当の兄妹じゃありませんでした、とかないか? お前を取り巻く環境的にもう何があってもおかしくないからな」


「ないから」


 花音も詩音も間違いなく実妹なので、妹との恋愛イベントなんて絶対に発生しない、させない。

 

「ここが俺の部屋だよ……大和、人の部屋で勝手に筋トレしないで」


「おっ、すまねえ。待ってる間どうも暇だったんでな」


「お前は1分程度もジッとしてられないの? 筋トレで呼吸してるの?」


 自室の扉を開けたら、友人の大男が腹筋をしていました。

 反応に困ります。


「……蒼太、ちょっと家探ししてもよろしいか?」


「よろしくないよ。ついでに蓮が期待しているような物は一切ないと思う」


 家には花音と詩音という妹たちがいるっていうのにそんな成人向けの物を置いておくわけがない。

 

 花音はいつも部屋に入ってくるから遊んでるし、詩音は掃除でよく部屋に立ち入ってるからそんな物を置いておいたら家族会議が勃発する。


「晩ご飯が出来るまでなにする? ゲームとか?」


「おいおい、男3人が集まってすることって言えば恋バナだろ! せっかくだから普段出来ない話をしようぜ!」


「じゃあゲームしながら筋肉談義でいいな」


「筋肉談義は脳内でやっててもらっていい? ……ゲームしながら話すとしても、俺好きな人とかいないし、恋バナやってもつまらないと思うよ」


「まぁ、演劇部の中で誰が可愛いと思うか、でいいだろ」


 演劇部の中でかー……。

 可愛い人や綺麗どころばかり集まった演劇部の中で自分が特に可愛いと思っている人……?


「言い出しっぺの瀧岡から話してくれよ? 僕は見ての通りそういう話題には疎いからな」


 大和がテレビの下からゲーム機を引っ張り出しながら言う。

 確かに大和は花より筋肉だから、こいつなら桜をつまみに筋トレを選んでもおかしくはない。


「まぁ、そうだよな。俺はやっぱ風見さんかな! 性格もいいし、可愛いし! あんな子といたら絶対に楽しいだろ!?」


「あー……そうだね、確かに退屈はしないかな……」


「あいつは蒼太の良さもちゃんと分かってるしな! 押しが強いところがあるが、本当に嫌なことはしてこない。線引きが上手いよな」


「大和のいい人基準って必ず俺が絡んでくるの? というか相変わらず筋肉のことばかり言ってると思ったら人をよく見てるよね」


 本当、よく見ている。

 筋肉を鍛えるとあそこまで自分に余裕が出来るものなのかな? 作家業って座りっぱなしだから不健康になりがちだし、俺も少し鍛えてみようかな?


「今、筋トレしたいって思ったか!? 嬉しいぜ、蒼太!!」


「思ってないから、運動なら花音がいるし間に合ってるから」


 ドタドタと階段を駆け上がる音がしたと思ったら扉が勢いよく開いて、花音が姿を現した。

 

「たっだいまー!! 蒼兄!!」


 そしてそのまま俺の胸元へダイブ。

 衝撃を上手くいなし、なんとか受け止める。

 漂ってくる制汗剤の香りがいい匂い。


「おーう! 花音! 僕もいるぜ?」


「大和さんだぁ!! ひっさしぶりー!! あと知らない人だぁ!! 初めまして! 水樹花音です!」


「た、た……瀧岡、れ、蓮です」


「えー? タピオカー!? じゃあ、タッピーさんって呼んでもいい!?」


「蒼太、ちょっとこっちに……」


 またこのパターンかぁ……今度は何を言われるんだろ。


「――どうもタッピーです」


「知らないよ、どうしてわざわざ俺に言うのさ……花音、この人はたきおかだよ、瀧岡蓮」


「はーい! 蓮さんよろしくお願いしまーす! あたし、着替えて来るね! あとで一緒にゲームしようね!」


 水樹家の台風はドタバタと部屋を出て行った。

 部活が終わったあとなのに、なんて体力してるんだか。


「――蒼太、花音ちゃんにお兄ちゃんって呼ばれたい」


「戯言と受け取っておくよ。あ、俺ハリネズミ使う」


「じゃあ僕はゴリラを使わせてもらおうか、瀧岡は何使う?」


「俺はキツネ使う……つうか獅童も俺を蓮って呼べよ」


「よーし、蓮。いきなりだがぶっ飛べ!!」


 蓮が駆るキツネが大和のゴリラの強攻撃で画面外にぶっ飛ばされていった。

 

「あっ!? お前ずりいぞ、大和!! しかし、俺はまだ死なん!!」


「妹はやらないよ? よいしょ」


「あぁ!? ……実は蒼太ちょっと怒ってる?」


 怒ってない。

 でも蓮の駆るキツネが星になったことでちょっとスッとした。

 

「よっしゃあ!! 覚悟しろ、蒼太!! ハリネズミがゴリラに勝てると思うなよ?」


「パワーだけが取り柄の脳筋キャラにハリネズミが捉えれるかな?」


「ところで大和って姫咲先輩のことどう思ってるんだ?」


 大和の操るゴリラが操作ミスで自ら飛び降りていった。

 つまりは俺の勝ち。


「まぁ、それは俺も気になってたんだよね。あんな美人に迫られ続けて大和はどう思ってるのかってね」


「……先輩か、悪い人じゃないと思うんだけどな、すまねえ。僕にもまだよく分かってない。あそこまで強烈にアピールされてどう返せばいいか戸惑ってる。ただ、好きって言われて悪い気はしてない、とだけ言っておく」


「ふーん、そっか。まぁ、それぞれの恋愛観を否定する気はないけど、好きになってもないのに付き合うってのはなんか違うよな」


 男3人、コントローラーを置いて静まりかえる。

 恋愛小説こそ書いているけど、あれは全部フィクションだから、実際の付き合ってどうこうなんてことを今は全く想像出来ない。


「僕のことより、蒼太だな! 蒼太は演劇部の女子の中で誰が可愛いと思ってるんだ?」


「そうそう、それそれ! どうなんだよ、蒼太?」


「……俺は――」


「蒼兄!! 詩音がご飯出来たって!!」


 俺の口から何かが出そうになった瞬間、花音が再び勢いよく扉を開けて入ってきた。

 話が中断されて助かったけど……あのまま続いてたら俺は誰の名前を口にするつもりだったんだろう。


***

 

「詩音ちゃんの料理マジで美味かったな……お前いつもあんな美味いの食ってるのかよ」


「そうだね、今日は特に気合入ってたみたいだけど……」


「参考になるぜ、また僕の料理のレパートリーが増えるな!」


 俺は正直大和の料理の方が味付けは好みだったりする。

 なんというか、男の料理って感じなんだけど、豪快なところは豪快で、繊細なところは繊細みたいな感じ。


「あとは風呂に入って寝るだけだな! 詩音と花音が風呂を済ませてからシャワーだけ借りるぜ」


「詩音ちゃんと花音ちゃんが入った風呂……? 蒼太!」


「蓮は近くにある川で風呂を済ませるって?」


「調子に乗りました、マジですいませんでした」


 蓮の土下座を見届けて、スマホを触っていると、メッセージが届いていた。

 姫咲先輩の家に泊まっている女性陣からだ。


『蒼太君たちも楽しんでる? すごいよー姫咲先輩のお家!! ご飯もすごく美味しいし、とにかく豪華なんだよー……私もうここに住みたいぐらい!!』


『ゲームやアニメやマンガ、ラノベもたくさんあるんですよ!? もう玲奈ここから帰りたくないです!! ソファもすごく柔らかくて……」


『ここが……天界……』


 よく分からないけど、女性陣がみんな帰りたくないってことだけは伝わってきた。

 写真を見ると、確かに豪華な部屋に料理、娯楽もいっぱいあるみたい。 

 

 どの写真にも満面の笑みで心の底から満喫している女性陣の姿が。


「あっ、大和。姫咲先輩の家にはトレーニング施設もあるみたいだよ?」


「――住所を送ってくれ」


 すごい、どんな色仕掛けでも動かなかった大和の目がガチに!?

 というかそれは本人に聞いたら一発で教えてくれるでしょ?


「ん? 柚月さんからだ……プロットを書いたから見て欲しい?」


「そう言えばあいつなんか書くって言ってたな」


 でも、今日の昼頃教えたのにもう書き上げてきたんだ……相当タイピング早いな。

 

「まずはキャラクターの設定から……主人公が大天使マナエルなんだけど」


 自分を主人公にしちゃったかー……。

 いや、知らない人からしたら架空のキャラクターなんだけどね? 知ってても架空だけど……。


『――とりあえず、自分を主人公にするのは中二病患者あるあるなので控えるように』


 設定自体は王道で、異世界に転生したら大天使になっていた少女が聖なる力を駆使して悪と戦っていく話みたい。

 設定自体は読者とか引き込みやすいし、アリだと思うんだけどなぁ。


「蒼兄!! お風呂上がったらゲームしよう!!」


「おっ? やるか、花音? 僕は強いぜ?」


「蒼太、ちょっと席変わってくれ、触れたら気絶するだろうから」


「いい加減に慣れなよ。もう前みたいに男だらけの中にいるわけじゃないんだからさ」


 シャワーを浴び終わって、そのあとめちゃくちゃゲームした。

 女性陣の方はどんな風に過ごしたんだろう……?

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例えば、こんな青春ラブコメを。 戸来 空朝 @ptt9029

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