第8話 スイカ(終章)
これはただ、とある人物に実際に起きたことを書き残しただけの小説である。
この人物は仮にYとされている。
今でも時折Yの携帯電話には非通知の着信がある。
Yが通話に出ると必ず義父の声が
「おーい、おーい、」
とYを呼ぶのである。
その声は今でも背筋が凍るほどに恐ろしい。
Yが何も答えずにいると、義父の声の後ろから経が聞こえてくる。
義父の葬儀の時に詠み上げられていた経だ。
坊主の声まで同じ。
これをYははっきりと覚えている。
時々喉に痰の絡んだような空咳が混じったあの読経を。
つまり義父はまだあそこにいるのだ。
あの日あの時、Yと妻を無慈悲に殺しに来たあの葬儀の日に。
そしてずっと、Yを恨んでいる。
Yは妻の手を握った。
同じ罪を持つ妻の手を。
果たしてYと妻がいつか天寿を全うした時、迎えに来るのは義父ではなかろうか。
義父はYと妻を何処に連れて行くのだろうか。
Yは心から恐れているのである。
短怪異譚 奥田吹雪 @nagakatta
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