炭酸進路の落とし穴

ちびまるフォイ

炭酸ジュース入れてる?

「お前だけだぞ、進路出してないの」


「すみません……まだ決めかねていて」


「そうか。進路決めない炭酸は卒業できないからな」

「はい……」


炭酸先生との進路相談を終えて教室に戻ると、

カルピスソーダが待っていた。


「怒られた?」

「うん……」


「やっぱりね。このタイミングで

 炭酸進路出してないなんて考えられないもん」


「カルピスソーダの進路は?」


「王道だね。コカ・コーラ先輩からもオファーされているんだ。

 "君のような唯一無二で広く愛される存在は俺達の道にふさわしい"って」


「コーラ先輩から!? すごいじゃん!」


「まぁな。それよりお前はどうするんだよ」


「俺も……先輩から話聞いてみようかな。

 自分がどの進路に進めばいいかわかるかもしれないし」


まずはカルピスソーダと同じようにコーラ先輩のところへ向かった。

炭酸なら誰もが憧れるキングにしてスタンダード。


「というわけで、俺もコカ・コーラ先輩のようになれるでしょうか」


「無理だな」


「はやっ!」


「俺たちコカ・コーラ路線の進路はたしかにスポットライトを浴びる。

 その一方で、他の炭酸に取って代わられないような存在感を示す必要があるんだ」


「な、なるほど……」


「君は自分自身を、他人に真似できない炭酸だと自身を持てるか?

 他の炭酸では代用できない唯一無二だと言えるか?」


答えられなかった。

自分のメロン味は他の炭酸でも多く出している。

なんなら、同級生の三ツ矢サイダーだって出している。珍しくはない。


「君の未来を否定するつもりはない。だが俺達の道は想像しているよりも厳しいぞ」

「はい……」


ふたたび進路は闇の中に。

今度はとっつきづらいと評判のウィルキンソン先輩を訪ねた。


「ウィルキンソン先輩。僕はあなたと同じ進路に向いているでしょうか」


「……」


「あの……」


「知らぬ」


「え、ええ……」


「余計な迷いは不要。我ら正統派なりけり。

 己を磨き味でごまかさぬ強き力を持つ炭酸のみが至る場所なり」


「そ、そうですよね……」


ウィルキンソン先輩のようにストイックで職人気質な道を想像しただけで、

無理だとすでに自分の心が急ブレーキをかけてしまった。


凹みながら廊下を歩いていると、

モンスター先輩とリアルゴールド先輩、デカビタ先輩が肩を組んできた。


「ヘーイ下級生! なに落ち込んでるんだい?」

「そんなロウな気分じゃ、炭酸も抜けちまうぜ」

「エナジーMAXでハイになろうぜ!!」


「エナジー路線の先輩……!

 実は、自分の進路を悩んでいて……」


「進路? そんなのエナジー一択じゃん!」

「イエス! 強烈な味で爽快ライフだぜ!」


「え、ええっと……」


3人の先輩を見てもこうはなれないと痛感した。

エナジー路線の先輩方は誰もがみな強烈な味や成分がある。

飲んだ人をエナジーMAXにさせられる自信なんてない。


「どうしよう……」


結局、進路は定まらないまま戻ってくるとカルピスソーダが待っていた。


「その顔を見た感じ、ダメそうだな」


「うん……先輩の話を聞けばなにかわかるかと思ったけど

 自分との差を感じるばかりで進路はわからなかったよ」


「まあそんなことだろうと思って、

 コーラ先輩に頼んで同じ路線で売り出してくれるって取り付けたよ」


「ほ、本当か!? ありがとう!!」

「いいってことよ。同じ500mlだろ」


同じ乳成分がある炭酸の友情に感謝した。

家に帰って自分の進路を親に打ち明けると、母炭酸は気まずそうにペットボトルの口を開けた。


「じつは……あなたに伝えなくちゃいけないことがあるの」


「え?」


「正確には……あなたは、炭酸じゃないのよ……」


ラベルに結露で水滴がどっと吹き出した。


「私は炭酸じゃないの。実はただのメロンジュース。

 あなたのお父さんが炭酸で、その間に生まれたあなたは……微炭酸」


「う、うそだ! 僕が炭酸じゃなくて……微炭酸だったなんて……!!」


「生まれてすぐに微炭酸だったあなたをどうしていくか悩んだわ。

 そして、普通の炭酸として育てていくと決めたの。

 いつか微炭酸という事実を受け止められるようになったら話そうと――」


「そんな……それじゃこれまでの努力は……」


「あなたに残されたのはがぶ飲みシリーズの進路よ」


「僕の進路が微炭酸しかないなんて……」


おそるおそるラベルを確かめると、紛れもなく微炭酸の文字があった。

強炭酸があふれかえるこのご時世に微炭酸は需要があるのか。


コカ・コーラ先輩のように自分の力だけで売れることもできず、

ウィルキンソン先輩のように持ち前の透明感で誰とでも割ることでもきず、

エナジー先輩たちのように強烈な個性があるわけでもない微炭酸。


「微炭酸の生きる道なんて……もう無いじゃないか!!」


自分が微炭酸だとバレるのを恐れて学校にはいかなくなった。


気がつけばもう卒業式。

今頃、他の炭酸たちはどうしているだろうか。


「学校にいるときはあんなに仲間がいたのに……。微炭酸の道なんて……」


微炭酸コップに注がれ、顔を上げた時だった。

そこには見知った仲間たちが待っていた。


「カルピスソーダ! ファンタ! それにペプシ!

 みんなどうしたんだよ、炭酸の進路を取ったんじゃないのか」


「ああ、そうだったんだけどな」


「まさか……僕を待っててくれたのか!

 微炭酸で孤独な思いをさせないようにって!

 ありがとう!! みんな、最高の炭酸仲間だよ!!!」


ドリンクバーから出る仲間たちをコップの中で抱きしめた。

炭酸ジュースたちは気まずそうに答えた。



「……いやぁ、炭酸のつもりだったんだけど

 氷ってやつにくっついてから……気がつけば微炭酸になってたんだよなぁ……」

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