第151話 近況のあれこれ

 SNSで何やら不穏な空気をばらまいておりました白武士道ですが、ドラゴンノベルス小説コンテストも応募期間終わったことですし、ちょっと近況でも書こうかと。


 とはいえ今、私に起こっていることをお伝えするためには、そもそも私の職歴を書かないといけないので、しばらく過去話にお付き合いを。


 私が社会に出たのはもう14年ほど前になります。

 最初に勤めたのは小さな株式会社。仮にM社としましょう。

 M社は新規に立ち上げられた会社で、私はそのオープニングスタッフとして雇われました。


 新社会人として右も左もわからない状態ではありましたが、新規事業であれば古い会社特有のルールもないし、むしろ、自分たちで伝統を作っていけると思えば気が楽だったので、ぺーぺーのくせに飛び込んでみた次第ですが、実際、同僚の人たちは良い人たちばかりで、仕事は大変でしたが楽しかったのを覚えています。


 問題があるとしたら、経営面でした。

 このM社の社長は超がつくほどの見切り発進の人で、お金にだらしなく、資金繰りもうまくいっていないのに人を雇いまくったもんだから――結果として、給料未払い3ヵ月という事態が発生。


 私も含め、それでもみんな辛抱強く仕事を続けましたが、さすがに給料がもらえなければ生活が成り立たない。労働組合を動かすも効果はなく、一人、また一人と去っていきました。


 私も、もう無理かなというところで辞職を決意。そこで事業継続不可能となって、事実上の倒産。紆余曲折あって、M社の事業は、経営者同士で付き合いがあった遠方のK社に事業譲渡という形で合併することになりました。


 その期間、約半年。

 我ながら、ぶっ飛んだ新社会人スタートだったなと回顧しています。


 未払い分の給料は事業を引き継いだK社が払ってくれることになったものの、初っ端からこんな酷ぇ目に遭わされた私はしばらく心身を癒すべく、失業保険をもらいながらのんびりと職探しをしていました。治療と称してテイルズ・オブ・ジ・アビスを延々とプレイしていましたね。


 そんな時、M社時代の先輩から声がかかりました。


「M社時代の事業はそのまま継続しているし、K社は母体の大きい会社なので、M社の時のようなことは起こらない。K社でまた一緒に働こう」と。


 経営者はともかく、M社時代の従業員はみんな人格者ばかり。そんな人たちとまた一緒に働ける。経営母体も大きいし、安定した生活も期待できる。だったら――と、先輩の言を信じてK社に入職しました。


 ところが、一年が過ぎたころ、K社の経営主が何を思ったのか、K社からM社時代の事業を再度独立させました。M社改めP社の誕生です。


 ……先輩。どういうことっすかね。


 そのP社も、結局は2年ほどで終了。

 事業は再びK社に譲渡され、私はまたK社の社員として働くことになりました。


 と、こんな感じで、私はほぼ同じ職場に勤めながら、都合、四回転職したことになっています。なんなんだこの複雑怪奇な職歴。履歴書書く時、本当に面倒臭くてしょうがない。


 とはいえ、そこからはまあまあ安定していました。

 部署内での異動やら業務内容の変更やらはあっても、この10年間は特に大きな変化はなく、長期勤続は評価されるし、おかげさまで結婚することもできました。


 これからも辛いこと、きついことはあれど、やっぱり一ヵ所でこつこつと積み重ねるのが一番だなぁ。これからも頑張っていこう……と思っていたんです。つい先日までは。


 さて、本題。

 2024年、5月。またもや、事業譲渡の話が浮上しました。

 うちの部署の内部で揉め事があり(正直、私も無関係ではないんだよなぁ)、それがきっかけとなって、うちの事業が新たにY社に譲渡されることになったのです。


 しかも、今度の事業主は私にとって決して無関係ではない人物。

 そう、Y社は不死鳥のように業界に舞い戻ったM社時代の経営者が関わっている会社だったのです。


 これには、さすがの私も動揺。

 え? またあの人の下で働くの?


 一応、K社に残る、という選択肢もありました。

 うちの部署だけがY社に譲渡されるので、K社そのものは存続します。そして、あくまで今の私はK社員なので、交渉次第ではそのまま継続雇用が可能です。


 しかし、K社の直轄の部署は実に遠方で、通うには引っ越しが必要不可欠。

 独身時代の私ならともかく、今は妻帯者。妻の仕事の都合もありますし、今はK社に残るという選択はちょっと現実的ではない。新婚早々、単身赴任も嫌だし、妻にもせっかく見つけた勤め先を辞めてほしくない。


 じゃあ、このままY社に行くのか?

 新しい事業の説明も受けました。待遇面も確認しました。基本給も手当ても、K社より充実しています。何より、この部署で長年尽くしてきた私を非常に評価してくれている。


 してくれてはいますが――私、M社時代のことを忘れてないからね?

 おかげさまである程度の理不尽には耐性がつきましたけどね、冷静に考えて給料未払いって相当なもんよ?


 悪人でないのもわかるし、今は改善したのかもしれないけれど、そういうことをしたって事実は私の中ではずっと残っている。


 あの部署での仕事は嫌いじゃなかった。十年以上この仕事を続けてきた自負もあるし、情だってある。仕事で新しく取り組んでみたいことや、いま取り組んでいることの結末を見届けられない未練もある。間違いなく後ろ髪は引かれているんでしょう。


 でも、次からまたあの人の下で働くのは、さすがに、ちょっとばっかし考えざるを得ない。


 様々な要素を天秤にかけ、家族会議を繰り返した結果――私は、計14年働いた部署を去ることにしました。


 現在はまだ在職中ですが、もうじき無職になる予定です。

 このほうが未来があると自分で判断したこととはいえ、14年間積み重ねたものがパッと途絶えてしまうのは、何とも空虚な気持ちになりますね。


 この心境を何に例えようかな。

 小学校で半袖半ズボン登校は義務じゃないけど、1年生の時からずっと休まず半袖半ズボンで通い続けてて、周りもそれを賞賛してくれていて、でも、卒業前にうっかり風邪をひいたために長袖で登校した6年生の気持ちでしょうか。


 それは決して悪いことでないけれど、もう取り返しがつかないことをしてしまったような……大局的には、ただの錯覚に過ぎない心の状態。一言で言うと、「あーあ」って感じ。


 これを機にステップアップ!

 とか、もうちょっと合理的に物事を考えられたらいいんですが、どうも私という人間は実利より情で仕事するタイプ。うちの職場そのものが嫌で嫌でしょうがなかったら、こんな気持ちにもならなくていいんでしょうが、相変わらず同僚たちはいい人たちばかりなんですよね。


 それに、耐えて耐えて、耐え抜いて――ようやく良さがわかる業界だからこそ、新しい勤め先でも今回同様にまた耐えていけるかわからない。それも不安。まだ精神的にも若いつもりではあるけど、仕事をまた一から覚えたり、関係を構築し直すってめっちゃしんどい。


 辞すると決めた以上は、そのように切り替える必要があるのはわかっています。

 妻からも「中途半端な覚悟が一番駄目だ」と厳しく言われております。


 とはいえ、わかってほしいなぁ。

 私がそういう風に考えて行動できる人間だったら、こんなに悩んでないよ……。


 眠りは浅いし、夢見は悪いし、感情は死ぬし。

 正直、人を楽しませる文章を書ける精神状態じゃありませんでした。


 禍福は糾える縄の如しとは言いますが、「結婚生活も落ち着いてきたし、ぼちぼち真面目にコンテストに参加するでぇ!」って時にこんな状況にならなくてええですやん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

創作活動におけるあれやこれや 白武士道 @shiratakeshidou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ