第150話 スリーサイズのあれこれ(2)

 私はもともと漫画家になりたかったくらいですから、漫画が大好きです。


 小説書きだというのに、読んだ書籍に関しては活字よりも圧倒的に漫画のほうが多いと自負しており、結婚を機に大部分を処分しましたが、それまでは部屋の床が抜けそうなほどの漫画本の山が連なっておりました。その規模、友人が漫画喫茶代わりに泊まりで読みに来るほどです。


 とはいえ、基本的には単行本派で、漫画雑誌はあまり買ってはいませんでした。

 例外は週刊少年ジャンプ。

 これだけは現在に至っても毎週欠かさず購読しています。


 数年前まではジャンプも紙で買っていたのですが、居住スペースの兼ね合いで電子版に移行。その影響もあって、ここ数年はアプリで少年ジャンプ+も並行して愛読するようになりました。


 最近は、本誌に負けないくらいジャンプ+掲載作も人気になっていますね。

 私はその中でも「姫様“拷問”の時間です」が非常にお気に入りで、冬から始まったアニメ版も仕事後の癒しとして毎週楽しみに視聴しています。


 「姫様“拷問”の時間です」は、魔王軍に捕らわれた可憐な姫様が日夜、苛烈な拷問――という名の飯テロおよび接待――に屈して王国の秘密(?)を吐いていくという、ほのぼの系ギャグ漫画。


 アニメ版は、エピソード間を補完するようなオリジナル描写がところどころに挿入されているものの、できるだけ原作のイメージを守ろうとしている心遣いが感じられ、毎週安定して眺められる作品に仕上がっています。


 ……ところが、ですよ。

 先日放送された第10話を視聴していた私は、とても動揺しました。


 アニメ版第10話は原作でいう29話。ビーチチャンバラの回です。

 姫様と拷問官たちが水着姿で和気藹々わきあいあい、キャッキャウフフとビーチでチャンバラに興じるのは原作と変わらないのですが――


 明らかに、姫様の、お胸が、盛られている!?


 姫様のビジュアルは、少女らしい可憐な体型。連載していくにつれて画風の変化もありつつも、胸ランク的には大中小でいえば、だいたい「中」寄りの「小」じゃないかなぁと認識されているサイズです。


 確かに、原作単行本のビーチチャンバラ回の姫様にも谷間はあるし、ちゃんとした胸の膨らみもあります。


 が、どう見てもアニメ版はサイズが1~2段階上がっているように見える。


 もちろん、アニメは一人で作るわけではありませんし、作画作業も何名も分担して行われます。カットごとに多少のブレがあるのはあたりまえです。1カットだけなら、作画担当の手癖などで説明がつきましょう。


 しかし、水着チャンバラ回全編を通して、なんともご立派。

 男性視聴者に対するサービスのつもりだったかもしれませんが、だったら2話の温泉回や5話のサウナ回の姫様が原作準拠の慎ましいお胸のままだったのはどういうことなのか……鑑賞中、スタッフの意図が見えてこなくて、ずっとモヤモヤした気持ちのままでした。


 いや、乳を盛るのが悪いと言っているわけではないのです。

 原作とはちょっと違うものの、姫様の意外な一面を見ることができて、新しい魅力に気づくことができました。

 例えるなら、何の興味も持っていなかったクラスの女子の何気ない夏の透けブラを見て、急に異性として意識してしまったような――そういう少年のときめきに近いものです(きもい)。


 ですが、私が気にかけているのはそこではない。


 この10話のおかげで、アニメ版しか見ていない視聴者が「姫様は巨乳だ」と可能性が生まれたことに動揺したのです。


 一度、構築されたイメージを覆すのは難しい。

 原作を履修済みの視聴者であればそのような勘違いはしないでしょうが、視聴者の全てが原作をチェックしているわけではありません。


 もし、原作未履修の視聴者が「姫様は巨乳」というイメージで固定されてしまった場合。そして、そのイメージのまま何らかの二次創作を行った場合、原作履修済みの視聴者とが起こることは必至です。


 ……昔話をしましょう。

 このエッセイシリーズでもかつて書いたことではありますが、まだ若造だった私が、とある同人誌を読んでいた時のことです。


 当時、らき☆すたという萌え4コマ漫画が一世を風靡していました。

 アニメの影響で同人誌も山のように出回りましたが、私が読んでいたのはその中でもかなり初期のほうの作品で、柊かがみと柊つかさという双子姉妹を主人公にしたものでした。


 その同人誌では、姉のかがみよりも妹のつかさのほうが胸が大きく描かれていました。そのコマだけたまたま大きかったわけではなく、セリフでも追及されていたので、それは著者が意図して描いていたことが窺えます。


 しかし、残念なことに、公式準拠の胸ランクでは姉のかがみが「中」、妹のつかさが「小」。

 かがみのほうが公式で胸が大きいのです。


 これは著者のリサーチ不足――ではなく、同人誌に取り掛かった時期と情報の公開時期がかけ離れていたために起こった悲劇だと考えられます。


 らき☆すたキャラクターの胸ランクは単行本のおまけページでの掲載(だったと記憶しています)だったのですが、その同人誌が描かれていた時期に発売していた最新の単行本には、まだ胸ランクの情報は載っていなかったのです。


 なので、それまでは内容から読み解いて胸ランクを想像するしかないのですが――まさかかがみが「中」だとは思うまい。私もつかさのほうが大きいか、そうでなくとも同じくらいだと思っていました。ツンデレは貧乳という当時の固定観念がそうさせたかもしれぬ。


 しかし、現実はそうではなかった。そうではなかったのです。

 自分の解釈が間違っていたと知った著者の心境はどんなものだったのでしょう。


 無論、同人誌ですから正解はありません。

 公式に準拠していない同人誌も山ほどあります。「公式が勝手に言っているだけ」と言い張ることもまた、二次創作において重要なことでしょう。


 また、公式が公式設定を守っていない例もあります。

 型月作品の中にはB85(E)と設定されていながら、時代の流れとともにビジュアルが変化して「明らかにB85(E)で済む大きさじゃなくなった」ヒロインも存在しますし。


 ……されど。

 もし、あの同人誌の作者が公式設定を大事にしたいと思っている方であったなら、この過去は耐え難い汚点になってしまったに違いないと思う。


 私などは公式が大好きすぎて、自分程度の書き手が二次創作をしてはかえって公式に申し訳ない、いや公式を穢してしまうとさえ考えて二次創作できないタイプ。


 仮に何かしらの二次創作を書いたとして、公式設定と異なる描写を書いてしまった暁には、その作品をなかったことにオールフィクションすることも厭わない。公式との食い違いは、愛があるからこそ重く、罪深く感じるものなのです。


 世の中には、そういう作り手も一定数存在する。


 そういった悲劇を回避するために、一次創作者の諸兄におかれましては、キャラクター設定における数値化できて差別化できる要素――ぶっちゃけスリーサイズ――は可能な限り早期にオープンすべきだと進言します。


 数値さえ明らかなら、少なくとも、どっちが大きいor小さいといった描写の食い違いは消滅しますし、それを理解した上で矛盾するようなことをやっているならそれはそれで善し。要は、ために生まれてしまった誤謬ごびゅうに苦しむ二次創作者が一人でも減ってくれれば、それに越したことはないと考えます。


 そんな私なので、ポリコレを意識せざるを得ないご時世において、それでもキャラクターのスリーサイズを公式に載せている作品は拍手喝采しています。ウマ娘とかな。

 他にも、そういう男気溢れるタイトルがあったら教えてください。


 皆さんはキャラクターのプロフィール表記についてどう思いますか?



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