第15話 それはそれ、これはこれ

 さて、猟友会のみんなが無事なのは良かった。

 このさき会えるかわからないけど、多分大丈夫だろう。


「シキ、地図を広げてくれ」

「わかりました。どちらに向かいますか?」

「この辺りで食料品を確保したらウォーターゲートまで行こうと思う」

 地図にウォーターゲートという都城がある。県庁のそばだからここから徒歩一時間といった所か。


 地球人の安否も気になるけど、まずは頼まれた書類をナザレアの銀行まで届けるつもりだ。

 地図で灰色に塗られたダンジョン区域を通過する準備は整ったので、あとは当面の食料を手に入れたら行く事にする。


「そういえばもらったアイテムをストレージに入れっぱなしにしていたな」


 ブックを広げてクローゼットの中をみる。


開拓者の腰帯(被貸与者=リブロス ※セバスより譲渡)

:ウォーターゲートを治める子爵により貸し出された腰帯。

世界融合前、ナザレア諸国はそれまで魔獣を狩っていた冒険者の一部に、新大陸の土地と奴隷の獲得を認めた。腰帯はその身分を証明する。


 奴隷の獲得という言葉が、泡立つような不快で身体が熱くなった。

 魔獣や魔物に追われて、現地の人間に合流すれば助かると安易に思っていた自分にも怒りを覚えた。

 禁忌を犯し、地球の神に見放された自分達が悪くても、逆ギレであってもだ。


「ナザレアの神はこれを良しとしているのか?」

 シキは使徒候補の自分をガイドする存在だ。知らないはずはないだろう。


「良しとはしていません。大半の統治者が入信している一部の使徒が立ち上げた宗教にそのような教義があるのです」


「使徒は神の使いなんだから一緒だろう」

 シキの弁解のような説明をきき、声に剣呑な雰囲気が出てしまう。

 予想以上に腹が立っていたみたいだ。

 

「一緒ではありません」

「じゃあ神とか使徒とかなんなんだよ?」

 

「神々は世界の経営者です。成功すればさらに大きな世界を任され、失敗すれば下位の神、使徒、人間になるか、最悪消滅します」


 地球の神もノーペナルティというわけではなかったのか。そう思うと少しマシな気分になった。


「使徒達に対して、神は具体的な指示はしません。時代の転換期に自らの意に沿う使徒の力を強め、沿わない使徒の力を弱めることで世界を育てていきます」


 だからガイドさんは使徒候補でも自由にしていいって言ったのか。


「ただし今回のような世界融合の際に、神は神界への昇天を見返りとして世界の融合を命じます。もっとも、誰かがバランスを崩したせいでこのような形に——なったようですが。いずれにせよ、古き使徒達は既にこの世界に存在しません」


「わかってきた。今のナザレアは使徒のいない無法地帯ってわけか」


 シキの肯定の言葉を聞き、実力勝負、勝てば官軍。そんな言葉が思い浮かんだ。

 そういうのは本当に勝ってきた奴らが自己弁護のために使う言葉だ。

 実際はホーム側の使徒が圧倒的に有利な状況だろう。

 世界の法則はナザレアのものが引き継がれているんだ。

 地球人の使徒候補が何人いるのかわからないけど、アウェイなことは間違いない。


「シキ、俺はエルフに対抗できるだけの力をもつ元地球人の国をつくろうと思う」

 使徒候補なんだから、これくらい突き抜けても良いだろう。

 

「いいのですか? あなたはエルフに変換されているんですよ? 元地球人としての知識を利用すれば元同胞を支配して、効率よく使徒になることも可能でしょう」


 不思議そうに尋ねるシキに正直に答える。こいつに隠し事はできないらしいし。

「シキ、まだ出会って数時間しか経ってないから当然だけど、俺はナイーブなんだ。そんな罪悪感を感じる選択はできないんだよ」


 口にしてみて自分の臆病さに笑ってしまう。

 加担したくない。見たくない。

 しまいには悲劇を回避する努力はできたのに、手を伸ばさなかったことが一生ものの後悔になるような強迫観念じみた臆病が自分を突き動かしている。


 さっきのホームセンターで感じた痛みがこれ以上増えるなんて笑えない冗談だ。






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地球がファンタジー世界に売り払われた件 空館ソウ @tamagoyasan

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