アイスブレイクまたは氷上の指揮者
ヒガシカド
アイスブレイクまたは氷上の指揮者
氷の上に指揮者が見えた。
その人の周囲は音楽で満たされていた。それは今までに聞いたことのないような音楽ばかりで、初めは大して気にも止めなかった。
けれど、私はいつの間にか音楽の虜となっていた。
初めはただの好奇心だった。
一歩ずつ、ゆっくりと氷上を歩む。音楽はその度に荘厳さを増した。
私の感覚だとほんの数歩だが、実際にはもっと進んでいたのだろう。氷が、割れた。
私は冷たい水に囲まれ、奥深くへと沈んでいった。その間にも音楽は止まることなく続く。心地良き悠久の時。
突然、目の前に指揮者が現れた。優しい笑みを浮かべている。私は手を差し出した。
「一緒に行きましょう」
私は心の中で思った。しかし指揮者は自分の持っていた指揮棒を、私の差し出した手に乗せた。
「後はあなた次第」
指揮者は二度と私の前に現れなかった。
音楽に包まれながら、私は考えた。
地上の光が恋しい。
私は戯れに、指揮棒を上下に降ってみた。
音楽が変わった。
私は自分が変えた音楽を気に入った。さらに私は指揮棒を振り続ける。音楽は再び変わる。
最高だ。
どこからか万雷の拍手が聞こえる気がする。嬉しい、聴衆も私の音楽を気に入ってくれたのか。
指揮者の愉悦とは、これか。
私は氷上を目指した。
私の番だ、私が指揮者となるのだ。次の段階へ進む時が来た。自分自身で音楽を奏でよう。そしてその音楽を―
いつか私のもとへ、氷を割ってやって来る者に捧げよう。
アイスブレイクまたは氷上の指揮者 ヒガシカド @nskadomsk
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