愁いを知らぬ鳥のうた

片瀬智子

第1話

 悲しみを知った朝

 空を見上げた


 透明な 愛おしい魂

 あのこの行き先を追って


 悲しみを知った朝

 息が出来なくなるほど泣いた


 胸が張り裂けそうでつらい

 想い出を抱えるようにして



 愛の溢れる場所には必ず神様がいるという


 

 こんなに涙がこぼれるのは

 愛の存在を失ったから


 可愛い小鳥と共に

 神様もひとり消えてしまったから


 ならば、神様。

 一度だけ 私を鳥に変えて!


 あのこのいる空へ飛んでいって

 幸せにしてるか見届ける


 自慢の羽根を持つ、

 あのこと同じ青い鳥でなくていい

 漆黒の闇を思わせる カラスでもいい


 心からの願いはやがて叶う――

 私の予期しない方法で


 夢の中で私は鴉になった

 闇に紛れる 不吉なさだめの鴉


 それでもいい。私は飛んだ

 ひたすらに天国そらを目指して


 たとえこの身がちぎれても

 従ってきた運命に背いても


 やがては、この世の果て。そして始まり


 意識の途絶えそうな私に

 聞こえてきたのは小さなさえずりだった


 あのこがいる。

 一瞬でここは、愛に満ちた場所になる

 神様の宇宙に漂う 私は一羽の鴉


 もう嘆かないで

 思考を揺るがして

 悲しみはつかの間、寄り添う魂は永遠だから


 予期しなかったのは、私のちっぽけな想像力だったのか

 

 誰かが言う。

 世界は広い 宇宙の真実はまだ解き明かされていない

 悲しみ、苦しみ、憎しみを超えた先には愛しかないってことも


 私は聞いた。

 悲しみを超えたい。どうしたら、真実を知ることが出来るの?


 誰かが笑う。

 真実はずっとそこにある

 頑なな思い込みは愚かなだけ

 あかしは自明なのだ


 

 試しに真実をひとつ。

 ところで、君の身体の色は?


 わたしの色?

 もちろん黒よ。恐怖を感じさせるほどの。

 そう言って、恐る恐る自分の翼を広げてみせる


 嘘。そこにあったのは、

 まるで、陽光が水面を反射する まばゆい海の色

 どうして? それは見たこともないくらい 輝く紺碧の青い色


 ふいに私のそばに、あのこのあたたかい気配がした

 よく私の肩にとまっていた 陽気なあのこの感触

 「一緒に遊ぼう!」

 うん! でも私は漆黒の鴉のはず。怖くないの?


 誰かが答えた。

 君は何にもわかっていない

 真実は愛の数だけある 

 

 誰かのために涙する悲しみさえ 愛の別の呼び名

 幸せも不幸せも、実はごく僅かなへだたりでしかないんだ


 鴉は人間に恐れられても、決してうれいたりしない

 なぜなら……


 鳥の世界では、カラスは信じられないほど美しい青色をしてるんだよ





 お読み頂いてありがとうございます。

 鳥の視界は人間と違い、紫外線まで見ることが出来ると知りました。

 それにより、私たちとは違う色で世界を認識しているそうです。

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