吉良小夜子先生の回想

早藤 祐

古城ミアキ「結婚した方ってここの卒業生ですよね」

「会議室を取ってあるからそっちでやろうか」

「このイスでもでもいいですよ?」

「うーん。なんか会議室の方がいいかな。さ、行こう」


「古城さん、座って」

「すいません。会議室に移動するようなお手を取らせて」

「別に大したことじゃないから。生徒だとこの部屋呼ばれるのはいい話もあればそうでない事も多々あるから嫌な気分はわかるけどね。で、新聞委員会の特集企画『母校へ帰ってきた先生たち』って音田先生にもやるの?」

「もちです。やらないでバレたら音田先生が拗ねますから」

「フフッ。私は先生になってから音田さんの生徒時代の武勇伝を詳しく知ったんだけど安心した。あの人を差し置いて話せる事もそうそうないし。音田先生とは古城さんも付き合い古いんだよね?」

「はい。小学生の時の文化祭でお姉ちゃんと図書室に寄ったら海外ミステリードラマと原作の話で盛り上がっちゃって。それ以来です」

「あの頃の図書委員会は黄金期だったからねえ。しかも音田さんに負う所が大きかったみたいだし」

「先生、私が図書委員会に入ったからには第二の黄金期を目指しますから!」

「それは頑張って。お姉さんも音田先生も期待してるんじゃないかな」


「先生、そろそろ本題に入っていいですか?」

「どうぞ」

「先生の学校時代、一番記憶に残っている事や当時と変わった事なんかお話いただけるとウレシイです」

「そうねえ。私達の学校時代ねえ。私にとっては冬ちゃんと一騎打ちの生徒自治会長選は今から思えば青春だったね」

「先生、まだ20代なんですから青春とか遠い目をするのは早すぎます」

「おだてても何も出ないよ」

「それはさておいて、うちのお姉ちゃんは小夜子先生と友達になってお互いの活動をよく出来たかなあって何故か疑問形で言ってました。多分姉が小夜子先生の助けになったか自信がないんだと思います」

「冬ちゃんに疑問形は要らないって言っておいて。私はそう信じてるし。冬ちゃんもそう思ってくれているならうれしいから」

「はい。伝えます。……小夜子先生はお姉ちゃんに頼まれて監査委員になったんですよね」

「そう。冬ちゃんって大胆だから。選挙結果がわかって冬ちゃんに勝利へのお祝いの言葉を言いに行ったらもう友達だ、ミフユか冬ちゃんと呼んでって言われて頷いたら監査委員になってっていうんだから。あの時は驚いちゃった。選挙戦の間はあれだけ対立していたのにねえ」

「姉はヒラメキの人ですから」

「妹の目から見てそうなんだ。じゃあミアキちゃんは灰色の脳の人なのかな」

「ええっ、私、先生の前では隠してたのに。どこでその話を聞いたんですか!?」

「冬ちゃんに昔聞いた覚えがあってね」


「先生は新婚さんですよね」

「そう。春に結婚して夏休み期間中にやっと新婚旅行。楽しみにしてる」

「結婚した方ってここの卒業生ですよね」

「ミアキちゃん。うちの夫は先生じゃないしプライバシーだから話さないよ」

「いや、今度の記事の目玉と考えていたんですけどダメですか」

「だーめ。それに在学中は付き合ったりはしてないよ」

「えー。お姉ちゃんは絶対小夜子ちゃんは年下の一番弟子の人が在学中から好きだったはずなのに先生が認めないってプリプリしながら言ってましたよ」

「ダウト。嘘でしょ。カマをかけてもダメよ。冬ちゃんはそういう話をしない人だし」

「……バレました?」

「あなたのお姉さんはそういう所はものすごく信頼できる人だからね。周りを引っ付けて回るような所はなきにしもあらずだけど。他人の恋愛事情なんてむやみに言わない人でしょ?」

「まあ、そうなんですけどね。オフレコじゃダメですか。私が知りたいだけなんです」


「あの頃はまだ好きだって言ってなかったし言われてもなかったし。冬ちゃんとの選挙戦の一騎打ちで1年生対策としてスカウトしたんだけど線が細くて頼りなさそうで」

「加美さんと比較してません?」

「それは少しあったかな。加美さんって規格外れな人だったから。それに比べたらうちの人は普通に見て普通にいい人だったし助けてもくれた。あの時はいい仲間だったけどそれだけ」

「一目見たその日から大好きになってたとかじゃないんですね」

「うん。でもね。選挙戦の最中、冬ちゃんに仕掛けた隠し球を思いっきり撃ち返されて。選挙戦はもうどうしようもないなって。そんな中で私と一番近くで助けてくれていた松平桜子ちゃんは最後まで戦うと心に決めて。そしてそこにやってきたのが水野くんと彼だった」

「あの選挙戦は中央高新聞を見ても凄かったんだなって分かります。松平さんはインターアクトクラブの初代部長になった人ですよね」

「桜子ちゃんは凄いよ。夢に向かって突進していて応援してるんだ。……でね、あの時の彼はものすごく頼りがいのある人に見えたんだよね。私たちがやる気がなかったら出させる気でやってきたんだから。だから彼が大学生になってたまたま再会した時に一目で私って彼が好きなんだなって思っただけ。彼もそう思ってくれたって事であって別にラブロマンスでもなんでもないよ?強いていえば気付いたらそうなってったってだけだから」

「小夜子先生のそういう恋の落ち方、ものすごく憧れます。そういう恋をしてみたいです」

「それは古城さんの日々研鑽次第じゃないかな」

「はーい。頑張ります」

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